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10.模擬戦

「では、指導訓練用シチュエーション起動します。指導員と教受者はそれぞれタクティカルプレートを起動してください」


「よし、今から敵が出てくるぞ、仮想の敵だが殴られたら痛いと錯覚するようになっているから手は抜くなよ」


「オーケー……で、どうすればいいの?」


ザビメロの説明に意気揚々と答えて構えるリゼリア、しかしその後何をすればいいのか分からずザビメロの方を向いて問いかける。


「意気込むのはいいが先に聞け、カードプレイヤー同士の対決と同じ『デワース』と叫べ、そうすればタクティカルプレートが起動して周囲の魔素を吸収してECを作り出す」


「オッケー、じゃあいくよ……デワース!って、うわっ!」


リゼリアが叫ぶと、脇に抱えているコンテナが動き出して勝手に起動する。


リゼリアは驚いて思わず放り投げてしまったが、そのままコンテナは宙で展開し、中からアピナたちが使っていたような黒いプレートが顔を出し、光を放ちながらコンテナから飛び出してくる。


「これが私の……なんかすごい……」


飛び出したプレートは空を泳ぎ、縦横無尽に踊りながらリゼリアの腰より低い位置で停止した。


「システム、問題なく起動しました!では30秒後に目標が動き出しますので構えてくださいね!」


萠丹歌の声と共に景色にノイズが走り今回討伐する目標が現れる、それはリゼリアがあの洞窟で見た狼のような怪物の中型版といった姿をしていた。


「う、これは楽しめそうだね……」


「無理して強がるな、ダメな時はちゃんとギブアップと言えよ?さて次はデッキを前やった時と同じように置け、そうすれば準備完了だ」


ザビメロの言葉でリゼリアがタクティカルプレートを見る、板にはデッキ、墓地、グロウゾーンなどの場所を教えるガイドラインが線で彫られており、その線が優しい薄赤い色で光っている。


リゼリアがそこにデッキを置くとプレートを中心に周囲が吸い込まれる感覚が起きる。そして、リゼリアの周囲に白くて丸い外殻が四つ形成され、その中が仄かに光だした。


「それがECだ、通常の戦闘では周囲の魔素を補充したコアを使用する、形式張ったカードプレイヤー同士の戦闘とは違うからそこは注意だ」


「へー、ところでなんで四つしか出ないの?」


自分の周囲に浮かぶECを指で弄りながらリゼリアが質問する。


「急速な補充で形成できる最大の数が四つまでなんだ、それ以降はカードの処理をしながらの補充になるから12秒に一個になってしまう」


「なるほど、じゃあ考えて使わないとね」


「目標起動まであと5……4……」


「手札は五枚で固定される、補充も手札管理も全てタクティカルプレートが行うからお前は攻撃を受けないよう立ち回りながらカードを使用しろ!」


「3……2……」


「よーし、いよいよ命の取り合いだね」


微かに笑いながら正面の敵を睨むリゼリア、しかしその手は少し汗が滲みそれを上着で乱暴に拭き上げる。


「1……起動します!」


萠丹歌のアナウンスと共に目の前の怪物が動きだして咆哮をあげる、リゼリアはその姿に少し怯むが、すぐにプレートの上に浮かぶカードを取ってプレートに置いた。


「戦闘では宣言はしなくていいが仲間と情報を共有する意味でなんのカードを使ったかは伝えておけよ」


「分かった!先ずは『アレージ峠のゴブリン』を召喚!」


ECが二つ割れ、リゼリアの前に赤い小鬼が出現した、その姿は錆びたナイフにボロの市民服という普通のイメージのゴブリンよりは文化的な格好をしている。


「配置したユニットは12秒のクールタイムの後に勝手に攻撃する、対象が複数いる場合は攻撃の前にどれを攻撃するか指定しておけ」


「はいはい、今回は一匹だから関係ないけどね」


怪物が走りだし目の前の小鬼に鋭い爪で斬撃を繰り出す、小鬼は直撃を受けるが、その際に手に持ったナイフで切りつけて反撃をした。


「攻撃を受けたらユニットは反撃をする、カードから出したユニットは基本的に自我のない存在だ、だからタクティカルプレートで制御されて機械的な行動しかしない」


小鬼の反撃を受けても怯む様子はなく、続け様に攻撃をして小鬼を八つ裂きにしてしまった。


「『アレージ峠のゴブリン』はコスト2で2/3のブランク……つまり特殊な効果の無いユニット……そこそこタフなユニットではあるが、敵の攻撃は数値化などされてないからどれくらい耐えられるか分からない……リゼリア!ダメージを受けた後のユニットの残りバイタルは確認できるぞ!」


「そこから敵の攻撃を把握しろってこと?じゃあ後で見てみるよ」


「といっても全ての攻撃が均一になってるわけじゃない!爪と牙では攻撃力は違うし、振りかぶる勢いでも変わるから参考程度にしろ!」


あまり参考にならないアドバイスにリゼリアは眉間の皺を寄せるが、特になにも言わずカードをプレートに置いてプレイする。


「『カカシの廃材機人』を二体召喚!とりあえずこれで時間を稼ぐ!」


「プレートの処理の都合上ユニットは三体までしか出せない、三体出したら取り除かれるまで次が出せないぞ!」


怪物が機人の一体に飛びかかる、機人も手に握る農具のフォークで抵抗するが、あまりダメージを負わせられずに噛み砕かれた。


「意外と難しいねこれ!やっぱりこれ使うしかないか」


リゼリアは銃を取り出して引き金を引くと、もう一体の機人に振りかぶる爪にヒットして爪が砕けた。


「これで余裕が出来たね!あとはもう一個……!」


得意げな表情をしながら上に向けた銃口にフッと息を吹きかけるリゼリア、しかしその視線は後ろの一個しかないECに向けられ、その頬を一筋の汗が流れる。


「スキルをつかうなら射程距離に気をつけろ!カードを掴めば射程が分かる!」


敵に銃を向けたままリゼリアが手札のスキルカードを握る、すると視界に自分を起点に矢印のついた太い線が現れリゼリアはこれが射程を可視化だと理解した。


「意外と射程短いね、でも……」


ECが補充され二つになったのを確認しながらリゼリアは機人を砕くのに夢中になっている怪物の背後までダッシュで近づくとそのままカードを発動した。


「くらえ![焼けた投擲球]!!」


怪物が遅れてリゼリアに気がつくが、その僅かな隙が勝敗を分けた、リゼリアの前に現れたスリングは鉄球を撃ち出し、直撃を受けた怪物はそのまま吹っ飛んで動かなくなった。


「よし!終わり!」


「討伐を確認、これにて訓練終了です!」


萠丹歌の宣言とともに景色が溶け、再びあの機器だらけの部屋に戻っていた。


「よくやった、目立つ傷もないしお前は確かに筋は良いな」


ザビメロが褒めながらリゼリアに歩み寄る、その顔は安堵と喜びが混じって柔らかい表情を作っていた。


「まあね、これで私も解明者ってわけ?」


「はい!これにて全てのカリキュラムを完了しました!リゼリアさんはもう立派な解明者ですよ!おめでとうございます!」


オペレーションルームから出てきた萠丹歌がリゼリアを祝いながら何かを持ってきた。


「これは解明者が使うstrange field livelihood assistance tablet、略称SFLA tabletです!解明者同士の連絡やその他生活のサポートをしてくれる便利なデバイスですよ!」


「長いから皆端末としか言わない、画面を触るだけで操作できる便利な道具だ、使い方は起動時に説明を聞けるからしっかり覚えておけよ」


「ほうほう、これもこのホールドってのに取り付ければいいの?」


興味深そうに端末を触りながら、リゼリアは自分の上半身に装着したハーネスのような器具に視線を移した。


このホールドという器具はリゼリアが解明者登録をした際に支給されたもので、ハンドガン、ナイフそしてデッキケースを収納できるスペースのある拘束具だ。


「そうです!その胸の辺りに装着できるところがあるのでそこに端末を収めてください!急所を防御する意味もあるので使わないときは必ず入れといてくださいよ!」


「さ、とりあえずはいいだろう、今日はもう休め、端末も宿で確かめればいいんだからな」


「ま、そうだね〜」


ザビメロの言葉にリゼリアは適当に返事をすると、大きく背伸びをしてから部屋を出ていった。


「ほんとマイペースな人ですね〜」


「ああ、だがあの流されない性格は勝負事においては強みだと言えるな」


リゼリアの出ていった出口を見つめながら二人が呟いた。

        本日のカード紹介コーナー

赤 焼けた投擲球 2

スキル

対象を一つ選び、それに3点のダメージを与える。

場にユニットのいないプレイヤーが一人でもいる場合、これは3点の代わりに5点ダメージを与える。

フレーバー:こいつは硬いガーゴイルの皮膚を割るのに適しているだけじゃなく、中の肉に程よく火を通してくれるんだ。

俺からしてみれば最高の調理器具さ。

          〜地獄料理人一派の料理長 カスパラントメンディネリドァランティーノ〜

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