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11.ケモノとランカーとマイスターカード

「誰かいますか〜!お願いします助けてくださ〜い!」


リゼリアがギルドのロビーに戻ると、なにやら大声で助けを求める女性の声が聞こえてくる。


「ん?何だあの毛むくじゃらは」


リゼリアがそちらを向くと、フリルのついたウェイトレス衣装をつけた女性と思われる人物がゲートに囲まれて検査を受けている最中だった。


女性と思われる……そう表現したのはその人物が人間ではなかったからだ、大きな背丈を覆う茶色い体毛は長くて太く、脚は駆け出す際のバネの役割がありそうなしなやかで長い形をしており、その先には鋭く長い爪が付いている。


そして、何よりその顔は鼻先が長く、口には鋭い牙が生え揃っており、頭には長い獣の耳がピンと強く立っていて自らの存在を強く主張している。その姿は……正に二足歩行の狼と形容できる姿だった。


『シヴァリアンのカノール様、危険物ナシ、お疲れ様です』


音声がカノールと呼んだその獣は、柵が開くと大慌てでカウンターまで走り、勢いよくカウンターテーブルに手をついて間髪入れずに叫ぶ。


「だ、誰か来てくださ〜い!わたしの話を聞いてくださ〜い!」


「はい、何のご用でしょうか?」


「あ!ギルド職員さんですか〜!?お願いします、おかしなカードに取り憑かれてしまったんですよ〜!助けて〜!」


受付嬢がカウンターに出て対応をするが、取り乱したカノールは具体的な話をせず、対応した受付嬢は困ったような表情をする、すると……


「待てといっておるのである!おかしなカードではないと何度言ったら分かるのであるか!」


突然、カノールの豊満なバストの間からカードが飛び出し、そのカードがなんと天使の姿に変わった。


「わわっ!出たおばけ!」


「お化けではないのである!ワガハイは『再考の天使 ラジェシエル』である!口を慎め!」


その天使を名乗る少女は、薄いベールのような生地にファーが縁取られていて、中心には金の刺繍で紋章の描かれたマントを羽織り、ローライズのパンツとマイクロな胸当てをした高貴さと痴態が混じった姿をしていた。


だが目と髪、そして背中に生えた大きな翼が全て金色の輝きを放っており、それが人間とは違う種族だということは、遠目に見ていたリゼリアにも分かった。


そんなラジェシエルを名乗る天使は尊大な口調でカノールを叱りつけると、白いニーソックスを履いた足を伸ばして豪華に装飾された金のブーツで彼女の頭をこづく。


「いたっ!?うう〜、やめてくださいよ〜」


「おや、それはマイスターカードじゃないですか!一般住民(シヴィリアン)の方が繋がりを持つのは珍しいことですよ!」


頭を抑えながら目を伏せがちにラジェシエルを見上げるカノール、そんな二人を見た受付嬢が驚きながら『マイスターカード』という単語を出した。


「え、なにあれ?マイスター?あの子は何なの?」


この世界のことはある程度把握したつもりだったリゼリアだったが、再び謎が現れたことでカノールのように動揺と困惑の表情を顔に出す。


「ほほぉ、シヴィリアンがマイスターに選ばれたのですか、一体天使様はこの狼の何が気に入ったのですかね」


急展開に混乱するロビーにまた新しい声が響く、リゼリアがそちらに視線を移すとそこには、前を閉じたアーミージャケットにカーゴパンツを履き、分厚いアーミーブーツ鳴らしてギルドに入ってくる狼頭の女が見えた。その体型はカノールより人間に近く、更にカノールよりも大きな背丈をしていた。


「失礼ですが職員さん、この子に興味あるので今回の説明はアタシにさせてもらってもいいですか?」


「え!そんな、ランカーの方に説明してもらえるならその方が嬉しいでしょうし、それならあとはお願いします」


「フフ、我儘を聞いてくださってありがとうございます」


交渉が受け入れられた狼頭が頭を下げると、ギルド職員は畏れ多いと言ったリアクションを取りながら頭を下げ返して去っていく。


「うわ……また狼が出てきた、というかこの世界の女ってみんなデカいの?」


リゼリアがアピナの事を思い出しながら一人呟く、そんな彼女が状況を静観していると、カノールが耳を寝かせて怯えた目をしながら狼頭を見上げる。


「うええ……あなた誰ですかぁ?」


「アタシはアルガー・ベースランドと言います、一応アルカネラのランカープレイヤーとして活躍している者です、以後お見知りおきを」


「ワガハイは『再考の天使 ラジェシエル』というのである、くるしゅうないぞ」


カノールに出したアルガーの手をラジェシエルが握る、アルガーは少し困った笑顔をしながら今度はカノールとも握手をした。


「それでマイスターカードってなんですかぁ?というかアルカネラというのもわたしはよく分かってないんですけど〜」


「おや?それは困りましたね……とりあえずマイスターカードというのは、アルカネラで扱う他のカードとは違う、『繋がりを持った者にしか使えない特別なカード』のことですよ」


「その話、私も聞かせてもらっていい?」


アルカネラを知らない、そんな人物がこのコロニーにいることに少し困惑するアルガーがなるべくかいつまんで説明しようとした時、遠くで見ていたリゼリアが話に割り込んできた。


「あなたは……昨日アピナさんを倒したというルーキーですね、まだこの世界に来たばかりなのにもうこの世界に適応して解明者になったのですか」


そう言ってアルガーがリゼリアの背負うプレートを見つめる、昨日の闘いの話は既にこのコロニー全体に広がっているようで、ランカーを名乗っているこの狼頭の耳にも入っていたようだ。


「まあね、どうやら私は元の世界でも相当肝が据わってたみたい」


「その言い方……はははっ、どうやら記憶喪失という噂は本当のようですね、それでその態度は確かに肝が据わっています」


記憶が無いとは思えないほど余裕のある態度で接するリゼリアを見て、アルガーは楽しげに笑う。


「それはそうとあんたもランカーなんでしょ?てことはあのお嬢様と同じくらい強いの?」


「あの人は努力家ですからね、勝つ時もあれば負ける時もある……勝負は時の運とはいえ、あの人を偶然でも下せたのですから、()()あなたにも素質はあるのでしょうね」


リゼリアの質問に対し、つかみどころのない返答を返すアルガー、だがその返答から素直にリゼリアの事を認めてはいないのだろうということはリゼリアにも察せた。


「時の運ねぇ……それなら単なる運勝ちかどうか知る為に今から私と勝負しない?なんなら負け犬の遠吠えってやつを私に聞かせてよ」


「ま、待ってください!そのマイスターカードが何なのか先に教えてくださいよ〜!!」


殺気立ってデッキを抜くリゼリアを止めながらカノールが話を元に戻そうと間に入る。


「おっとそうでしたね、というわけで勝負はまたの機会に」


「チッ……まあ話を聞きたいと言ったのは私だからね、そのマイスターカードってなに?」


舌打ちをしてデッキを戻しながらリゼリアが問いかける、そんな彼女の素直な対応に、再び先ほどまでの笑顔に戻ったアルガーが説明を始めた。


「先ず最初に、この世界で生まれたアルカネラというカードゲームは、このアルカネラ区域に生息するユナゼラムという紙に似たグロブスタに物や事象、生物の情報を転写して創り出したカードを使って行われています」


「あの外で見た紙みたいな生物、あれからカードが作られてたんだ……」


リゼリアはこの世界にやってきた時、荒野の真ん中で檻に入れられた紙のような生物のことを思い出した、あの生物からこのカードが生まれたのだと考えて、彼女はなんとも言えない気持ちで自分のデッキに触れる。


「しかしそうやって作られたカードには基本的に意識というものはなく、カードプレイヤーやタクティカルプレートから出される指示に機械的に従うことしかしません」


「それはザビメロも言ってたな、基本的に自我のない存在だって」


「そうですね、ですがそんな中で自我も一緒にユナぜラムに取り込ませて全てがカード化した存在や、希少な現象や存在、技をそれそのものごと取り込んだこの世に唯一一枚しか存在しないカードがあります、それがマイスターカードです」


「な、なんだがすごい怖いこと言ってません?」


話を黙って聞いていたカノールだったが、マイスターカードの生まれを聞いて青ざめはじめた。


「別に怖いものじゃないですよ、だけどマイスターカードはユニットなら自我があるから自分が信用できると決めた者にしか使わせないし、自我がない他のマイスターカードも適応できた者や、素質がある者でないと使うことが出来ず、無理して使うと酷い目にあってしまうんです」


「へぇ、じゃあこのぶりっ子ワンちゃんはこの天使に認められたってことだね」


そうリゼリアが隣のカノールを見て言う。


「彼女は狼ですよ、ついでに言うと彼女のような獣人の種族をこの世界では総称してファロリーと言います、変な呼び方したら爪で引っ掻かれますよ」


「彼女はって……あんたも獣人でしょ」


「いえアタシは……これは説明が長くなるのでまたの機会にしましょう」


「えーと、それはいいんですけど……なんでわたしはこのマイスターカードに選ばれたんですかぁ〜?」


「ワガハイは従順にしたがう下僕が欲しかったのだ、しっかり働くのであるぞ?駄犬」


「わたしは狼です〜!それに勝手に決めないでください〜!」


ラジェシエルの一方的な物言いにカノールが必死の抵抗を見せるが、偉そうな天使には全く聴こえていない。


「ははは……まあマイスターカードに選ばれるなんて中々ないことです、お困りのようならアタシが上手く扱えるようにこれから指導してあげますよ」


「え!助けてくれるんですかぁ!?もちろんお願いしますぅ!」


カノールとラジェシエルのやり取りに苦笑しながらも、アルガーは最初からそのつもりだったのか助け船を出し、それに飛びついたカノールは彼女の手を握りぶんぶんと振って受け入れる。


「ということで、アタシは彼女が天使ちゃんと仲良くできるように色々教えることになりました、それまで君はカードを集めてデッキを自分の満足のいくものにしておいてください」


それは、ランカーとして挑まれた勝負を受けるという宣言であると同時に、リゼリアに準備期間を与えることを伝える言葉であった。


「そう、分かったよ……それにしても私に時間をくれるなんてそんなに負けたいの?」


「そんなことを言ってくれるとは闘うのが楽しみです、アピナさんを倒したのが実力だと教えてくださいね?そういえばお名前は?」


「リゼリア……覚えておいてね、アルガー・ベースランド」


「フフ、覚えておきますよ、リゼリアさん」


それだけいうと、カノールとラジェシエルを連れてアルガーは去って行った。その姿が消えても、リゼリアは黙ってギルドの出入り口をずっと見つめている。


「あいつはアルガーか、アピナとは良いライバル関係を築いている緑使いだが……リゼリアあいつと何を話していた?」


そんなリゼリアの後ろから、たった今戻ってきたザビメロがアルガーの説明をしながら現れる。


「遅かったねザビメロ、何してたの?」


「萠丹歌のやつが機材の設定をミスしてしまってな、今までそれを直す手伝いをしていた」


「そう……ねえザビメロ、私決めたよ」


「何をだ?」


「私、マイスターカードを手に入れる、そして……このコロニーのランカーになる」


そう静かに、そして自分に言い聞かせるようにリゼリアは宣言した。

        本日のカード紹介コーナー

青 基本調査 2

スキル

デッキからカードを3枚ドローする。

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