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賢者の息子と呼ばれても  作者: 夜夢
第四章:公表と驚嘆と……
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第四十二節:授業と呼び出しと……

 驚くべき出来事――王孫女セレシア姫の来訪から明けた翌日、一年灰組は微妙に不穏な雰囲気を漂わせていた。


 教室内の生徒達は、複雑な想いが籠った視線でケルティスを窺っていた。その視線に含まれた感情の多くは畏怖と羨望であった。それは、“神仙”かも知れないと言う存在への畏怖であり、この国の王女が気にかけていると言う事実に羨望を覚えていたと言うことなのだろう。

 それらの視線に含まれた負の感情は、ケルティスにとって不慣れな代物であり、それらに曝されたケルティスの心身を委縮させていた。


 そんな中、ケルティスの友人達であるニケイラ達は、不躾な視線を向ける生徒達を咎める様な視線を放ち、ケルティスを慰め励ます言葉をかけてはいるものの、そこには何処か躊躇いや戸惑いが垣間見えるものであった。それは、“神代の人”の如き存在と言う話を聞いて、その距離を測りかねる所があった為であろう。



 そんな微妙な空気を孕みつつ、午前の授業が始まることとなる。



  *  *  *



「……さて、“始原神”と呼ばれる神々による“黎明の時代”が終焉を迎えた後、いよいよ本格的に“神代紀”が始まることになります。

 “黎明の巨人”たる二柱――“朱の巨人”クァムゾルと“蒼の巨人”ツァオザルーンが相討って斃れられた後、その(むくろ)は入り混じり、世界に飛散して、この世界(メレテリア世界)に満ちる魔力の(もとい)となりました。

 自らの同胞であり眷属であった“黎明の巨人”を喪い、“始原神”は深く悲しまれたと伝えられています。そして、“始原神”は一頻り悲しまれた後、飛散した“巨人”の(むくろ)の精髄を用いて“十一柱の神々”を創造なさいました。

 その“十一柱の神々”こそが、八柱の“神人”であり、二柱の“神竜”であり、一柱の“神樹”なのです」


 そう教本片手に教室全体に通る声で講義を行っているのは、幾分か年嵩の高位神官たる女性であった。



 彼女の名はクインティア――中等部統括を務めている人物である。とは言え、彼女の学院講師の一人であり、中等部の生徒達に“歴史学”を教えている。

 そして、本日の授業の内容は、“黎明の時代”前後――神代紀初期に関するものとなっていた。



  *  †  *



 “黎明の時代”とは、メレテリア世界開闢を示す時代であり、この世界(メレテリア世界)における最初の存在――“始原神”の出現から世界創造を行った十一柱の神々の誕生までの区間を指す言葉である。

 神々誕生以前の出来事であり、不確かな伝承しか残っていない時代であり――歴史と言うより神話の趣きの強い時代ではあるが、セオミギア大神殿において“歴史”と言えば、この“黎明の時代”を端緒として示すことが慣習となっている。



  *  †  *



 ともあれ、“十一柱の神々”――天地創造に関わった“真正の神々”――の誕生の(くだり)を述べた後、クインティア師は教本へと落していた視線を上げて生徒達を軽く見渡した。


「この“十一柱の神々”の御名は、皆さんも知っていますか……?」


 その問いかけに、生徒達は承知していると自信を持って顔を上げている者、分からずに顔を伏せる者、一部が思い出せずに思案を巡らす者と様々な反応を見せていた。

 そんな様々な生徒の様子を一頻り見回した後、クインティア師は再び講義の言葉を紡ぎ始めると共に、その手に白墨を握って黒板への板書を始めた。


「智慧と未来を司り、“神人の長”を務めた――“智慧神”ソフィクト……

 知識と過去を司り、ソフィクト神の妻神にして、魔法の礎を創り上げた――“知識神”ナエレアナ……

 生命や自然を司り、生物に関わる“世界律”を定めた――“地母神”クレアフィリア……

 死と転生を司り、クレアフィリア女神の姉妹神にして、死後の世界たる“冥界”を創造した――“冥界神”ネレセドア……

 挑戦と金属を司り、戦いと鍛冶の礎を築いた――“戦神”ミルスリード……

 庇護と鉱物を司り、ミルスリード神の兄弟神にして、人々への教示を創めたと伝わる――“護神”グリスドルーム……

 変化と流転を司り、世界を渡り行く様々な“流れ”を定めた――“流転神”メルクリード……

 夢幻と美艶を司り、メルクリード神の姉妹神にして、虚偽をも司るとされる――“夢幻神”イーミフェリア……

 この八柱の神々が、世の理である“世界律”を定める役割を主導した“神人”と総称される神々になります。この八柱の御名は皆さんも知っていますね……」


 そう言って再度講師が見渡した生徒達の殆どは、承知していることを示す様に頷いて見せたのだった。その姿に満足して数度頷いた彼女は講義の言葉を再開する。


「“光の太陽”の運行を司り、竜族の祖となった――“光神竜”シャオローム……

 “闇の太陽”の運行を司り、竜族の祖となった――“闇神竜”ノクトリーン……

 この二柱の夫妻神こそが、この世界(メレテリア世界)と世界の外側に揺蕩う“混沌”とを隔て、魔力・精霊力の流れを律する“神竜”と称される神々になります。

 そして、最後に……

 この世界(メレテリア世界)の中心に屹立し、物質界・精霊界・霊界の三界を支える主柱の役目を担う“世界樹”――“神樹”ユーグル……

 以上の十一柱の神々が、“始原神”により創造された“真正の神々”とされる方々になります。

 これら“十一柱の神々”に関する詳しい事柄は、“神学”の講義で教わることになるでしょう」


 そう言って、クインティア師は講義の言葉を一旦閉ざし、板書された“十一柱の神々”の御名の綴りを確認する様に一瞥した後、板書の内容を帳面へと書き写している生徒達の様子を暫し眺めていた。



 殆どの生徒達が書き写しを終えた頃合を見計らって、クインティア師は教本の(ページ)へと一旦目を落とした後、講義を再開させるのだった。


「……さて、“始原神”によって創造された“十一柱の神々”は、創造主たる“始原神”より“天地創造”を命じられます。

 この“天地創造”を命じた後、“始原神”はその身を御隠しになり、以降この世界(メレテリア世界)への干渉されることはなかったと言われています。そして、“始原神”が御隠れになり、残された“十一柱の神々”は“天地創造”を開始しました。

 まず、“神樹”ユーグルが混沌漂う世界の中心に立ち、その手足を長く長く伸ばして、その身を樹木の形状へと変じて世界の中心に立つ“世界樹”となったと言われています。“神樹”ユーグルは枝先や根より混沌を吸い上げ、そこから“魔力”や“精霊力”を生成したとされています。

 こうして生成された“魔力”・“精霊力”を用いて、残る“十柱の神々”は世界に存在するあらゆる物事を創造して行きました……」


 そう言葉を紡ぎながら、クインティア師は神々の御名が記された箇所と隣接した黒板の空白部分に、“魔力”や“精霊力”と言う文字を板書する。


 その様にして、彼女の講義は続いて行ったのだった。



  *  *  *



 そうして、午前の授業の一つ――“歴史学”の講義が終わり、講師であるクインティア師が教室を出たのと入れ違いに、入室して来た者がいた。

 その者とは、“虹髪”と“虹瞳”を併せ持つ少女――レイア=コアトリアであった。


 彼女は教室に入ってすぐに首を巡らせると、目当ての人物に向けて歩を進めつつ、言葉を放った。


「お、いたいた!……ケルティス、一緒に飯食おうぜ!」


「……レイアさん……?」


 そう言いつつ目前に立ったレイアの表情に、怪訝そうに首を傾げた。彼女の面には、普段通りの快活さの中に、微かな屈託の陰りが含まれているように感じられたからだ。


「ん?……なんだ?」


「……如何かしたんですか……?」


「え?……あ、あぁ、ちょとな……ちょっと話がしたいんだが、良いか?」


 ケルティスの問いかけに、レイアは些か歯切れの悪い返答を紡いだ上で、再度問いを返した。


「……ん……別に、構いませんよ」


 そんな彼女の様子に訝しく思う所はあるものの、ケルティスは諾の返答を行う。

 彼の返答を耳にして、レイアは肩を下して安堵の息を吐いた。そして、二人のやり取りを見詰めていた彼の友人達に視線を向けて、再度問いの言葉を続けたのだった。


「それじゃあ、お前等も一緒に飯は食えるか?……ニケイラ、カロネア、それとヘルヴィス……?」


「え?……私も、ですか……?」


「あの……よろしいのでしょうか……?」


「僕は、別に構いませんが……僕は、ついでですか……」


 レイアの呼びかけに、三人は困惑や憮然の呟きを返す。そんな三者三様な反応に、レイアの方は苦笑を漏らす。


「……実の所、お前等にも話があるんだ……じゃあ、昼になったら迎えに来るからな!」


 そう言うと、レイアは身を翻すと教室を駆ける様に出て行ったのだった。



  *  *  *



 やがて時は過ぎ、昼休みの時間が訪れた。


 午前の講義の終了と昼休みの開始を告げる鐘の音が鳴り響いた直後、一年灰組の教室にレイア=コアトリアは飛び込んで来た。彼女はそのままティアス達の許へと駆け寄り、彼等へと声をかけた。


「待たせたな!……じゃあ、行くぞ!」


「「は、はい……」」

「「……承知しました」」


 レイアの呼びかけに各々返事をし、一同は教室を出て食堂へと向かったのだった。



 そうして向かった先は、ケルティス達が普段利用している食堂であった。


 レイア達五人は、それぞれ昼食の膳を受け取った後、一つの(テーブル)に座って食事を始めた。

 一頻り昼食も進み、膳の料理も半ば程が手を付けられた頃合になって、レイアが口を開く。


「……実は、お前等に頼み事があったんだが……

 何かあったのか、お前達……?」


「「「……え……?」」」


 何処か様子を窺っている感じで紡がれたレイアの問いかけに、残る四人は若干気拙そうな面持ちで彼女の方へと顔を巡らす。

 そんな四人の少年少女は、互いの顔へと視線を迷わせつつ、それらの内で三つは最終的に一人の少年――ケルティスへと収束した。その様子に、レイアは改めて問いの言葉を紡ぎ直す。


「……ケルティス……?」


「…………」


 しかし、困惑の色を強めて言い淀む年下の叔父(ケルティス)の様子に、彼女はその視線をやや斜め上へと移動させる。


「……アンタは何か知ってないか……?」


 そう言って睨む様に投げかけた視線の先は、常人には何もない虚空があるのみであった。だが、彼女の視界の中には虚空に浮かぶ蒼髪と瑠璃色の二対翼を有する聖霊の姿が映っていた。

 鋭いレイアの視線を受けながら、青き聖霊――チンチュアは嫣然とした笑みを浮かべて、暫し沈黙を保っていた。しかし、レイアの視線に宿る険の鋭さが増して行く中、素っ気ない口調で返答の言葉を紡ぐ。


『……何、大した事があった訳ではない……ただ、妾はケルティスが“神代の人”に似た気配を持つように感じると答えただけよ……

 あぁ、そう言えば……この者(ケルティス)(よわい)を耳にして大層驚いてもいたのぅ……』


「……あぁ……なるほど…………」


 チンチュアより告げられた内容に、レイアは憮然として溜息を吐いた。


 そんな彼女と聖霊とのやり取りを聞いていた二人――ケルティスとカロネアが、微妙な面持ちとなる。そして、そんな二人の様子に聞こえていなかった二人も同様の面持ちへと変化して行く。


 そんな四人の様子を目にして、レイアが問いかける様に声を潜めて言葉を紡ぐ。


「……お前等……ケルティスの人間離れっぷりを知って……怖くなったか……?」


「「「……え……?」」」


 その問いかけに、ニケイラ達三人は一時言葉を失った。



 ある意味、不必要な説明を挟んだ所為で、中途半端な所で切れてしまった気がしなくもない……それに何より、思った通りに物語が進行しない……orz

 次回は順調に上げられると良いのですが……

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