追加戦士の悲哀②
「ごめんねカナちゃん。ちょっと準備に時間かかっちゃってさ」
何食わぬ顔で学校に戻り雲梯の上で座って三人を待っていると乙姫が現れた。
何で乙姫一人だけ? と思ったがそうか。
(……家にお泊りセットを取りに帰るって名目で離れたもんね)
当たり前の話だが全員の家はバラバラだ。
一番家が近く、尚且つ職業柄時間を気にするタイプだからと乙姫が一番槍を買って出たと見た。
多分天音あたりは、
『は? 何でバラバラに? 要待たせちゃうじゃん』
とか言ったんだろうな。
それで二人から説明されてああなるほどで受け入れた感じだと思う。
家の距離で言えば要のが咲耶よりちょい学校に近いけど性格で三番手に回されてそう。
「良いさ。女の子の支度には時間がかかるものだからね」
「……」
「え、何? 変なこと言った?」
自分でもどの口でとは思うよ。ボコって縛っておきながら何をってさ。
でもそれを知らない乙姫には別段、変な風には聞こえないと思うのだが。
「いや実際その通りなんだけどさ」
「うん」
「カナちゃんが言うと同性だからってより、気の利くモテそうな男の子が言ったみたいだなって」
「おい」
「あはは、ごめんごめん」
言いつつ乙姫は雲梯の傍に引いて来た小さめのキャリーを置いてうんしょと隣にやって来た。
スカートなので座る際にはキッチリ見えないようにしてるのが実にレディ。
正直、私がこれぐらいの頃とか……止めよう、悲しくなる。
「ところで天音が突然言い出したけど、本当に今日は大丈夫なの?」
放課後、四人でお喋りをしてた時のことだ。
私の家に遊びに行きたい、どうせならお泊り会とか! と提案したのだ。
子供が細かいことを気にする必要はないと思うけど乙姫だもんね。
「大丈夫。今日、父さんは居ないし。一応許可も取ったから」
「そう? それなら良いんだけど」
大人不在なのもそれはそれで問題だけど私たちだしね。
乙姫も自然と「まあ私魔女だし」と安全面は気にしてないらしい。
「存分に楽しんでくれて良いよ」
「うん。ありがと。正直、カナちゃん家に行くの初めてだから楽しみなんだよね」
まあ距離的にね。
学校から一番遠くて、それぞれ家帰ってから合流になっても天音の家が一番近いし。
自然と集まる場所が決まっちゃうよねっていう。
近いところで集まるのは遊ぶ時間を少しでも長くしようという涙ぐましい子供の努力なのだ。
私も昔はそうだったなと懐かしい気分になる。
「咲耶は時々行ってるんだっけ?」
「うん。語学の勉強する時はね」
咲耶に手料理を振舞う口実なんて勉強ぐらいだ。
なので週に一回うちで勉強しないかと正式に決めて押し切った。
英語が主だが息抜きで他のを教えたりもしてる。
「良いなあ。カナちゃんの手料理とかもご馳走になってるんでしょ?」
「乙姫もやる?」
「えへへ、それはちょっと」
きゃわわ!
売れっ子の子役だけあって自分を可愛く見せる方法をよう知ってはるわあ。
「いや、喋れた方がお仕事の幅も広がるんだろうけどさあ」
「まあ、キャパオーバーか」
「うん」
魔女見習いとしての使命もあるしな。
ここに今学校でやってる以上のガチ目な勉強追加するのはキツ過労。
「だから今日はカナちゃんの手料理めいっぱい堪能させてもらうね」
「普通に遊びに来てくれても良いんだけどね」
「やー、それだと、ほら土日になっちゃうでしょ?」
「仕事か。じゃあ、今日みたいに定期的にお泊り会やろっか」
「良いの?」
「勿論。ま、今日泊まって三人が何か違うってなったら話は別だけど」
「ならないよ。だってカナちゃんだもん」
どういう意味?
(ってか凄いな。ホント凄いな子役)
ちょっと前、不審者にボコられたばかりだぞ。
腹立つだろうしモヤモヤ半端なかろうて。
なのにそれを全然感じさせない振る舞いをしている。
何なら犯人である私も忘れそうになるぐらい自然だ。
(乙姫が一番手なのはそれもあるんだろうな)
天音や咲耶だと不自然さが出てしまう。
だから先んじて乙姫がって感じか。
「そうだ。お仕事で思い出したけどさ。今、結構凄いんだよ」
「何が?」
「カナちゃんをうちの事務所にって声」
何でも少し前に完成した映像が各事務所に出回ったのだという。
放送する前に事務所側で最終チェックをということらしい。
「それであの子は誰だ! ってさ。それでほら、地元同じだって知られてるからさ」
「あー……乙姫に紹介してって?」
「うん。流石に本人の意思もあるからっていうんでやんわり断ってるけど」
ありがたい話だ。
でも乙姫に迷惑をかけてしまっているのは心苦しいな。
そんな感情が顔に出ていたのだろう。乙姫が慌てて続ける。
「あ、迷惑とかじゃないよ? むしろ誇らしいっていうかさ。
私の大切なお友達がこんなにも色んな人から求められてるって……うん、嬉しいよ」
やだもう可愛い。
「放送されたらもっとうちの事務所にって声が上がると思うよ」
「それはそれは」
「無理にとは言わないけどさ。もしカナちゃんが興味あるっていうんなら何時でも言ってね?」
カナちゃんと一緒にお芝居するの好きだから。
そう言って微笑む乙姫は……うん、魔性。
私が男の子だったら絶対勘違いしてるわ。
あれ? 深海って俺のこと好きなんじゃね? ってイキり男子になっちゃう。
(ワックスとか髪に使い始めちゃうわ)
あれ何なんだろね。
途端に色気づいてワックスとかつけちゃうの。
おい、私にも色目使えよ男子ども。
「おーい間宮ー!」
「あら」
「うん? 何だい!」
少し離れた場所で野球をしていたクラスメイトの男子が私を呼んだ。
「人抜けちゃって足りねえの! 助っ人頼めねえか!?」
「出来れば美空も居て欲しかったけどなあ」
「でも間宮もアホほど動けるし戦力としては十分っしょ」
ああそういう?
小学校なので体育もまだ男女一緒だ。
私が動けることはとっくに知られているので白羽の矢が立ったわけだね。
天音の名が出たのもそういうことだろう。
「えーっと」
「良いんじゃない? 私もカナちゃんが活躍してるとこ見たいし」
そう言ってニコリ。
何このピに理解ある彼女ムーブ。
「……ありがと。良いよ! ポジションは?」
「ピッチャー!!」
「野球あんましたことないのに!?」
無茶振りが過ぎるだろ。いや、やれというならやるけどさ。
「フフ、頑張ってね」
「勿論。乙姫にカッコいいとこ見せたいからね」
と少し悪戯っぽく言えばあらあらと笑い、
「じゃあ応援」
と軽く頬にキスをされた。
(やっぱこの子魔性のJSだわ……)
男子顔真っ赤だよ。




