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アラサーOLが転生して王子様キャラを気取った結果  作者: クマン蜂兵衛


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花園咲耶 後編

 傍目にもショックを受けているのが分かったのだろう。

 咲耶はあたふたと言葉を探しているようで、何とも気まずい。


「あの、もう、良いから。その、間違えられるのはこれが初めてというわけでもないし」

「ほ、本当にごめんなさい……」

「うん……あー、ちょっと休憩しようか。一段落ついたしさ。何か飲み物でも買いに行かない?」

「そういうことでしたら咲耶にご馳走させてください。お小遣いは沢山貰っていますので!」


 一人称が変わってる……。

 まだちょっとパニクってるようだ。でも可愛いな。


(私も要は~とか言おうか? いや駄目だな)


 普通に痛いだけだ。


「そう? じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「はい!」


 子供に奢ってもらうおばちゃんとか情けないにもほどがある。

 けどこの空気を変えるためなら止む無しだ。


「どれにしますか?」

「ミルクティーで」

「では咲……私も同じものを」


 ホールにある自販機で飲み物を買い近くのベンチで頂く。

 教える側とはいえ勉強で頭を使ったからか。糖分が染み入る感じがしてとても気持ち良い。

 ジュースを奢ったことで咲耶も気が楽になったのだろう。

 先ほどのような気まずさもなく普通にお喋りが出来ている。


「何と。同じ小学校でしたか」

「咲耶もそうなんだ。もし同じクラスになったらよろしくね」

「はい。違うクラスでも困ったことがあれば遠慮なく頼ってくださって大丈夫ですから」

「フフ、ありがとう」


 やっぱり私の対人運は良い。

 天音に続いて二人目の友達もこんなに素敵な女の子なんだから。

 それだけに思う。さっさと魔女の正体を見極めたいと。

 もし魔女が悪い奴で、天音や咲耶が巻き込まれたらと思うと気が気でないのだ。


(……多少は戦いにも慣れて来たとはいえクロの知る歴戦の魔女には到底及ばない)


 今になって芽を出したという推測が正しいならそれはあちらも同じだろう。

 活動期間は大差ないかもしれない。

 けどもしその誰かに戦いの才能があったら? 或いは権謀術数を巡らせることに長けていたら?

 クロの警告を受けてからそんなことばかり考えてしまう。


「どうかされましたか? 何やら難しい顔をされていますが」

「ああいや、今日のお昼ご飯はどうしようかと思ってね」


 心配そうに顔を覗き込む咲耶を認識して我に返る。

 考え無さ過ぎるのは良くないが考え過ぎもまた然りだ。

 楽しい時間を台無しにして心を擦り減らしていればいざという時に戦えない。

 ここも反省すべき点だ。完全に割り切れなくてもそう在る努力だけは欠かすべきではない。


「外で食べるつもりで出かけたんだけど、まだ全然知らないからさ」


 誤魔化すため口にしたけどこれはこれで嘘ではない。

 時刻は十一時前。あと一時間ちょっとでお昼だし。


「なるほど。そういうことでしたらお任せください」

「おや? 詳しいのかい」

「はい。あまり家で食べるということがないので」


 おぉん?


「美味しくてお一人様でも気兼ねなく入れる場所は網羅しているつもりです」


 誇らし気に小さく胸を張る咲耶だけど……あの、何だろう。

 これちょっとじんわりと闇が見え隠れしてないかな。

 家で食べることがあまりないだけならまあ、そういうご家庭なのかなで済む。

 けどお一人様という要素が加わると、ねえ?


(……必死に勉強してるのも関係ありそうだ)


 今はまだ込み入った話が出来る間柄ではない。

 けど、そこらは頭の片隅に置いておいた方が良いだろう。


「頼もしいね。ああそうだ。折角だし一緒にどうだい?」


 教えてもらう代わりに今度は私が奢る。

 そう提案すると咲耶はえ、と戸惑ったようだけど迷惑ではなさそうだ。


「駄目かな?」

「……駄目、ではないですけど、良いんでしょうか?」

「君と一緒に食事をしたくて私が頼んでるんだよ」

「そういうことでしたら……はい。喜んで」


 小さく笑った咲耶を見て私は百合の花を想起した。

 グラデ気味に淡く染まった桃色の毛先とかも花感半端ないし。


「ありがとう。よし、それじゃあと一時間ちょっと気合入れて頑張ろうか」

「はい!」


 飲み終えたペットボトルをゴミ箱に入れ帰還し勉強を再開。

 休憩に入る前より集中出来ているのを見るとやっぱり適度な休憩と糖分は大事だなと思う。

 咲耶の頑張りに応えるべく私も気を引き締め授業に取り組んだ。


「……ここまでにしておこうか。もう良い時間だしね」


 気付けばもう一時前だ。

 続きはお昼ご飯を食べてからで良いだろう。


「そうですね。お昼ですが要さんは何か食べたいものはありますか?」


 和洋中好きなものを言ってくれとのことなので和食をリクエストした。

 思い返せば最近、和っぽいものを食べていなかったしね。


「分かりました。では行きましょう」


 咲耶に連れて行かれたのは商店街にあるこじんまりとした食堂だった。

 何というか子供が入るようなところには見えないが、


「フフ、私のお気に入りの一つなんです」


 とのこと。

 折角なのでおススメのメニューはあるかと聞けば咲耶は嬉々として教えてくれた。


「ほうれん草のおひたしに鰤大根。お茄子の煮びたしやピーマンとじゃこのおかか炒め。

ご飯だと白米でも十分美味しいですがここならタコ飯も素敵です。あ、でももう売り切れかも」


 えらく渋いラインナップである。

 いや私もそういうのは嫌いではないけど。


「いっぱいあり過ぎて迷うし……うん、今日は咲耶と同じものにしようかな」

「私とですか? なら」


 頼んだのはタコ飯に鰤大根、鶏肉と里芋の照り焼きに豆腐の味噌汁、ほうれん草のおひたし。

 中々健啖家のようで私としても好印象だ。

 幸いにしてタコ飯はまだはけていなかったようで注文は無事通った。

 待っている間もニコニコで本当にこの店が好きなんだろう。

 店主の老夫婦も親し気に話しかけてたし。


「お味はどうですか?」


 注文が届き早速、箸をつけた。

 不安と期待が半々という感じの咲耶に私は笑顔で答える。


「美味しいね。何だかほっとする味で心が落ち着くよ」

「! ですよね? 私もそう思います。単純に美味しいだけじゃなくて優しいんです」


 家庭の味って多分、こんな感じなんですよね。

 しみじみと呟いたその言葉がまた何とも……闇だ。


(肌の見える服を着てるし身体的な虐待とかはなさそうだけど)


 教育関連の過度な締め付けとそれ以外の部分の無関心。

 透けて見える事情は決して健全とは言えない。


(児童相談所、とかは無駄だろうね)


 多分、咲耶のご両親は外面だけは良いタイプだ。

 行政が介入する余地はないし……咲耶自身もそれを望まないと思う。


(なら、私に出来ることは)


 伝えること、かな。


「ねえ咲耶」

「何でしょう?」

「夕方まで勉強するとは聞いたけどその後の予定は?」

「予定、ですか? どこかで夕飯を食べてからお家に帰るつもりですが」


 それがどうしたのかと小首を傾げている。

 ああ、やっぱり門限とかもないんだな。予想通りだ。


「ならどうだろう? 私の家に来ないかい?」

「……要さんのお家、ですか?」

「ああ。こんな素敵な店を教えてもらったんだ。ここのお勘定ぐらいじゃ釣り合わない」


 だから、と意識して少し過剰に明るく笑う。


「夕飯をご馳走させてくないかい? この店ぐらいのクオリティは出せないけど」


 それでも本場で学んだインド料理を披露しよう。

 私がそう提案すると咲耶はポカンと口を開けて固まってしまった。


「迷惑だったかな?」

「迷惑だなんてそんな! ……でも、よろしいのですか?」


 不安に揺れる瞳を真っ直ぐ見つめ返し頷く。

 まだ出会ったばかりだ。それでも真面目で良い子なのはよく分かる。

 そんな君を好ましいと思う人間はちゃんとここに居るんだよ。


「勿論。ちょっと情けないこと言うとこれで私は中々寂しがり屋なんだ」


 一人の食卓に賑わいが増えるのは嬉しいこと。

 それが咲耶のような可愛い女の子なら最高だ。


「どうだろう?」

「……ではお邪魔させて頂きますね」


 淡く微笑む咲耶は花のように愛らしかった。

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