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選ぶ側のつもりだった令嬢の末路  作者: 朝山 みどり


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3/3

03 潰されたけど……

朝一番に帳簿を開くのが、怖くなったのはいつからだろうな。


前は違った。


数字は積み上がるものだった。

昨日より今日、今日より明日。

少しずつでも伸びていくのが当たり前で、確認するのが楽しみですらあった。


だが今は――


「……減っている」


声に出すまでもない。見ればわかる。


注文が減っている。

一件ごとの差は小さい。だが積み上がれば、はっきりと形になる。


消えているのは新規だ。

そして古い取引も、じわじわと削られていく。


「様子を見たい」

「今は見合わせたい」

「別のところと契約した」


言葉は柔らかい。だが意味は同じだ。


――離れていっている。


帳簿を閉じ、机を指で叩く。


どこで間違えた。


……いや、わかっている。


あの写真だ。


あれが回った瞬間、空気が変わった。


最初は気のせいだと思った。

だが違う。あれは、遊びで済むものじゃなかった。


わたしは商人だ。

相手の顔色を見て、距離を測るのが仕事だ。


それなのに――


娘一人の振る舞いで、読み違えた。


いや、違うな。


見えていた。

見えていたのに、軽く見た。


イサドラは別荘に行かせている。


そういえば――避暑地の土地だ。


あそこに土地を持ちたかった。

何度も手を回したが、どうしても手に入らなかった。


仕方なく周辺の開発地を押さえて、贅を凝らして建てた。


あのとき、思ったものだ。

いずれ追い越せる、と。


元貴族だ。古いだけの連中だと。


……違ったのかもしれないな。


手に入らなかった理由。

あの土地に残っている力関係。


全部、見えていたはずだ。


それを、軽く見た。



「見えない壁が、ここまでとはな」


小さくこぼす。


遅い。


すべてが遅い。


気づいたときには、もう流れは決まっていた。


どこか嵌めるところを探していたら、うちだったってことかな?


今更、考えても無駄だ。


帳簿をもう一度開く。


減っている。


だが――止まってはいない。


残っている線は細い。だが、確かにある。


なら、ここで切る。


傷が深くなる前に。


最初に戻ればいい。

あの頃だって、十分にやれていた。


決めたら早い。


財産を整理し、従業員には退職金をきっちり渡した。

中途半端が一番まずい。


そして、最初に店を出した路地裏に戻る。


上の娘が野菜を回してくる。

農家に嫁いだのは、無駄じゃなかった。


下の娘は菓子屋だ。

売れ残りを持ってくるが、それがいい。


これが当たった。


昔と違う。

庶民も少しは金を持つようになった。


毎日じゃない。だが、ときどきの贅沢は求めている。


なら、それを出せばいい。


もう一軒、菓子を扱う店を出した。

イサドラに任せてみる。


――やれる顔になっていた。


仕入れ先を増やし、商いを回す。


やがて、一流の料理店で修行した男と組み、店を出した。

接客はなんちゃって貴族風。学院仕込みだ。


客はすぐについた。

あっという間に、席が埋まる店になった。


……やれるじゃないか。


娘たちに負けていられない。


「いらっしゃい。今日はいいレタスが入ってるよ。少し大きいが、その分うまい。採れたてだ」


声を張る。


ああ、これだ。


これでいい。


◇◆◇◆◇

春の避暑地でと同じ世界感のおはなしです。


春の避暑地で https://ncode.syosetu.com/n2518lx/


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

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