01 選ぶ側のつもりだった令嬢
わたしたちは、学院で一番かっこいいグループだった。
クリフとロジャーは幼馴染で、元貴族。
リフはさえないけど、なぜか一緒にいる。
そして、わたし――イサドラ。
ニューリッチの代表とも言われる父の末娘だ。
母は街角で小さな商いをしていたころから父を支えてきた苦労人。
だから、正直言って、あまり洗練されていない。
姉たちもその時代を知っているから、やたらとつつましい。
上の姉は郊外の農家に嫁いだ。もっといい縁談はいくらでもあったのに。
下の姉はお菓子作りが好きで、父に店を出してもらい、そのまま師匠の息子と結婚した。
――そんなの、わたしはごめんだ。
わたしは、家格を上げる結婚をする。
元貴族で、お金持ちで、ハンサムな人。
それしかない。
グループには女の子もいる。
みんな、わたしに憧れて集まった子たちだ。
メアリーは元貴族らしいけど、もともと貧乏だったみたいで、まったく貴族らしくない。
公務員になると言って、地味に勉強ばかりしている。
ナタリーは、わたしと同じ商人の娘。
一番気が合うし、グループを引っ張っているのは、わたしとナタリーだ。
そこに――リフの婚約者になったジェシカが加わった。
この子は、とにかく地味。控えめで、おとなしくて、目立たない。
ぼっちだったから、仕方なく一緒にいさせてあげている。
だけど――最近、ちょっと腹が立つ。
リフがジェシカにかまうのはいい。婚約者なんだから。
でも、クリフとロジャーまで、あの子に気を使うの。
本当なら、どっちかがわたしを選ぶはずだったのに。
なのに、二人とも決断力がなくて、なにもしてこない。
――そのくせ。
リフがジェシカに接する様子を見ていると、妙に気になるのよ。
あの子を、お姫様みたいに扱うの。
優しくて、自然で、まるで騎士みたいに。
最近の男はそういうのが下手なのに、リフだけは違う。
よく見ると、顔だって整っている。
クリフやロジャーとはまた違う魅力がある。
――だったら。
わたしがもらえばいい。
お金なら、わたしが持っている。
リフが貧乏でも問題ない。
元貴族かどうかは知らないけど、見た目は完全にそれっぽい。
これは、狙い目。
婚約者?
そんなもの、破棄すればいいだけ。
慰謝料だって、払ってあげれば済む話。
だから、わたしはリフに近づいた。
リフがジェシカに手を差し出そうとした瞬間、
わたしがその手を取った。
食堂でも、わたしが隣に座る。
「リフ、それ嫌いでしょ。無理しなくていいわ。わたしが食べてあげる」
そう言って、皿の野菜を取る。
町でお茶をする時も同じ。
「これ、わたしの好きなやつじゃない。選んでくれたの? ありがとう」
そう言って、飾りのイチゴをさっと取る。
さらに、肩に頭を乗せて――
「やっぱり、こうすると落ち着くわね」
そうやって、距離を詰めていった。
そして、友情の記念に、流行りの写真を撮ることになった。
当然、わたしはリフの隣。
腕を取って、体を寄せて、頭を傾ける。
出来上がった写真を見て、わたしは笑った。
「どう見ても、わたしが婚約者よね」
そう言って、はしゃいだ。
――その数日後。
父に呼ばれた。
部屋に入った瞬間、空気が違うとわかった。
父は、見たことがないほど――激怒していた。
「……イサドラ」
低い声。逃げ場はなかった。
「座れ」
言われるまま椅子に座る。
机の上に、あの写真が叩きつけられた。
「これはなんだ」
「記念写真よ」
平然と答えたつもりだった。
だが次の瞬間。
「ふざけるな!」
空気が震えた。
「これは遊びで済む話ではない!」
「大げさね。ただの――」
「ただの、ではない!」
遮られる。
父はわたしを真っ直ぐ見た。
「お前、自分がどう見られていたか、本気で分かっていなかったのか」
「……なにがよ」
苛立ちが先に出る。
「クリフとロジャーだ」
その名前に、少しだけ胸が高鳴る。
「やっとその話?」
だが父は、冷たく言い切った。
「あの二人は、最初からお前を相手として見ていない」
――え?
言葉の意味が理解できなかった。
「なに言ってるの。あれだけ一緒にいたのに」
「それは、同じ場にいただけだ」
きっぱりと否定される。
「ではなぜ、距離を取られなかったと思う」
「それは……わたしが――」
「違う」
また遮られる。
「あの二人は、リフを見ていた」
背筋が冷える。
「……リフ?」
「主人筋だ」
静かな一言だった。
だが、それで十分だった。
「クリフもロジャーも、あの男の下に連なる家だ」
頭の中がぐらぐらする。
「だから、お前に手を出さなかったのではない」
父は続ける。
「最初から選択肢にすらなかっただけだ」
心臓が、嫌な音を立てた。
「……そんな」
一つずつ、確実に、否定されていく。
「ナタリーは、観察して報告していた」
「観察?」
「スパイと言えばわかるか?」
「……」
「わたしもわからなかった」
「……」
「商会への信用も落ちた」
「……」
「しばらく家を出るな」
そう言った父は、急に十年は老けたようだった。
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春の避暑地でと同じ世界感のおはなしです。
春の避暑地で https://ncode.syosetu.com/n2518lx/
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