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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第2章 懸賞首狩り編

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第50話 祝勝会

 爆樹竜討伐が終わり、フラズグズル姉妹を中心にギフトへ帰還した面々。


「ただいまー!」


 酒を飲んでいた大男ヴェステンが目を丸くする。


「うっそだろ? 爆樹竜の巣をたった二人でやっちまったのか……?」


「そゆこと」


 アガウェーは親指を立ててキメ顔をした。その瞬間、周りの野次馬が一斉に集まってくる。


「す、すげぇぇぇぇぇぇぇ!」

「どんな魔法使った!?」

「お前達は不死身の化け物か!?」

「いや、勝利の女神だ!」


 アガウェーはにっこりと笑うと椅子の上に立ち上がる。


「聞いて驚くがいい! この魔弾(まだん)射手(しゃしゅ)アガウェー様の武勇伝(ぶゆうでん)をっ!」


 調子に乗って大袈裟に語り出した。


 いつもなら注意する姉アップルだが、今宵(こよい)は許すことにした。命を懸けて戦い、生還したのだ。それぐらいの些事(さじ)、神ですら許すだろう。


 (にぎ)やかに騒ぐ中、ギフトの扉がゆっくりと開いた。現れたのは白髪を後ろに撫で付けた迷宮の王デァトート。


 相変わらずの威圧感で、盛り上がっていた場は一瞬で静まり返る。そして、アップルの前で立ち止まる。


「デァトート……!」


「まさか本当に成し遂げるとはな。私の目も(おとろ)えたか」


「……約束だ、私の容疑を撤回してもらおう」


「案ずるな。山羊(やぎ)はすでに(ほうむ)った」


 面子を保つための“真犯人”は仕立て終わったということだ。


「…………」


 アップルはそのシコリが残るやり方に歯噛みし、(にら)みつける。


「そう怖い顔をするな。美人が台無しだぞ。それより祝いに私の秘蔵の葡萄酒(ぶどうしゅ)を存分に楽しみたまえ」


 年代物の葡萄酒を机に置き、(きびす)を返す。デァトートと取り巻きは周囲の威圧を意にも介さず悠然と去っていった。


 静寂の中、アップルが口を開く。


「自分勝手な奴だな。おまけに酒って……飲めないんだが」


「まぁ、モヤモヤすんのも分かるが今は生還できたことを祝おうぜ」


 と、ヴェステンが酒を奪い取った。


「……そうだな。みんな悪い、また祝ってもらえるか?」


 アップルが申し訳なさそうに嘆願(たんがん)する。


「もちろんだぜっっ!」


 周りはにこやかに肯定して、徐々に熱気が戻る。


「よっしゃ! そうと決まれば(うたげ)再開だぁぁぁぁぁぁ!」


「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 その盛り上がりがアップルを安心させた。


 ああ、無事に帰ってきたのだ、と。



 アガウェーは一旦、用を足しに奥に行っていた。帰り道、雑務をしているギフト職員レフティに会う。


「あれ? ハーンさんは?」


「裏じゃないかしら? 見てきていいわよ」


「ありがとうございますっ!」


 ギフトの奥から通路を抜けて裏に出ると、花に水をあげている彼がいた。


「ハーンさん!」


「やぁ、アガウェー。もう宴はいいのかい?」


「うん、みんな酔い潰れちゃったし。……この花って全部ハーンさんが育てたの?」


 目の前には色とりどりの花。花畑というには小さいが、どれも鮮やかな発色をしていて(きら)やかだ。


「そうだよ。花は良い。こんな薄暗い場所でも懸命に咲くんだからね」


 日光の変わりに“光茸(ひかりたけ)竜鱗”を使って光合成をさせている。植物達は光を求めるようにしっかりと上へ背伸びしていた。


「スゴイね。まるで人間みたい」


「ハハッ、確かに。人も竜が現れても負けずに抗っているからね。早く敵を倒して自由に光を浴びられる日が来るといいな」


「きっと神様がやってくれるよ!」


「……アガウェーはどうしてそんなに神様を信じられるんだい?」


 彼女はその場でしゃがみ、花を見つめ、ゆっくりと語り出した。


「……昔ね、まだ竜が来る前の話なんだけど、ある日、お母さんが馬車に()かれてしまったの。それで意識不明になって生死の境をさまよっていたんだ。それを見たお姉ちゃんもあたしも泣きじゃくってた」


 ハーンは黙って聞いていた。


「何日も危篤(きとく)状態が続いて、家族みんな疲弊してた。もう限界だって思ったから(わら)にもすがる思いであたしは、教会に行って神様にお願いしたんだ。お母さんを助けてください。いい子にしますからって。毎日毎日祈ったの。そしたら数日もせずに目を覚ましたんだ。怪我も体調もみるみるうちに良くなっていったの」


 振り返り、にこりと笑う。


「それで今回もお父さんを助けてくださいってお祈りしたんだ。あと、竜を倒せますようにって。そしたら凄いんだよ! 次の日、神様みたいな方に出会って助けてくれたんだもん! 二回も奇跡が起きたらさっ、信じてみたくなるよっ!」


 淡い光に照らされ楽しそうに話すアガウェーは、さながら天使のようだった。


「アガウェーは本当に純粋だね。(うらや)ましいよ」


「えへへ」


 ハーンは彼女の頭を撫でた。


 アガウェーは、なんだかフワフワした気持ちになった。彼といると落ち着くし、もっとお喋りしたいと思うのだ。ああ、それはきっと——。


 その甘い空間を打ち破るようにギフトの職員レフティが現れる。


「ハーン大変よ! 黒狼(こくろう)団が来たの! 勝手に下層に降りていっちゃって大変なの! すぐに来て!」

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