第51話 黒狼団再び
オルレア王国国王直属の遊撃隊、黒狼団ダークウルフの四人は、ケイオスの王デァトートの元へ向かっていた。
そこに立ち塞がるように賊共が集まる。
「おいてめぇら! よそもんは二層以降立ち入り禁止だ! 出て行け!」
全身黒い鎧に包まれた団長ジャガ——本名ジャンヌが、同じく黒鎧のおしゃべり役ヨクスにぼそりと呟く。
「ふむふむ、賊共のくだらん規則を押し付けるな。だとさ」
「なんだと!?」
「よせ」
鶴の一声ならぬ悪魔の一声により、場が静まる。割れた群衆の先に猛禽類のような鋭い目をしたデァトートが居た。
「おや、デァトートさんお久しぶりですね」
「ほう、黒犬か。事前に言ってもらえば殺す準備をしたものを」
「いえいえ、雑魚の死体処理が大変でしょうから」
“楽しげ”な会話が続く。
「それで何しに来た」
「翼のない竜、俺達はリザードマンって呼んでんですけど、そいつを探してましてね」
「知らんな。トカゲのケツと追いかけっことは随分と多忙なようだな」
「ま、引きこもりには酷な質問でしたねぇ」
さらに続く“楽しい”会話。
「私が知らないのならここの者は誰も知らない。お引き取り願おう」
「いやぁ、悪いがもう少し滞在させてもらいますよ。他にも野暮用があるんでね。こっちは勝手に動くから邪魔しないでくださいよ」
「くれぐれもはしゃぎ過ぎて“怪我”しないようにな」
「お気遣いありがとう。そちらも“事故”に巻き込まれないように願ってますよ」
空気のひり付く会話を終えて黒狼団は踵を返した。
四人になったところでヨクスが口を開く。
「これからどうする女王様?」
女団長ジャンヌが口を開く。
「キュクロに会い、竜器を整備させる。その後、リザードマンの情報集めだ。デァトートはああ言ったが他に知っている奴が居るはずだ」
「また野郎との謁見ですかい。たまには美女に会いたいね」
文句を垂れつつキュクロの工房へと足を早めた。
◇
キュクロの個室。彼はサーカス団のような奴らを前に頭を抱えていた。
斧を勝手に物色する奴、本と酒という食い合わせの悪そうな組み合わせで酔いながら読書する奴、女のケツばかり追いかけている奴、そしてそれを束ねる女団長。
「キュクロ、竜器を整備しろ」
ジャンヌはふてぶてしく椅子に腰をかけ、兜を投げ渡した。金髪碧眼が露わになる。彼女の竜器はキュクロが加工したもので、そのため正体も知っていた。
「どうしてこうオレのところに来る奴は礼儀がなってないんだ」
リザードマンを思い浮かべ、頭を抱える。
「代わりの竜器を借りるぞ」
そう言って猫耳の付いた猫獣竜の兜を被る。姿を隠せれば何でもいいジャンヌは、猫兜と狼鎧というおかしな組み合わせでも気にしない。
「おぉ! さすが団長、なにを身に付けても似合うねぇ!」
隣室で女のケツを追いかけ終わったヨクスが明るい赤毛を揺らしながら戻って来て目を輝かせる。
「当然だな」
ジャンヌの謎の自信。
キュクロは大きなため息。
「これぐらい神経図太くなきゃ竜なんて狩れねぇか。そうだジャンヌ、新しい武具が完成したから後で装着してみてくれ」
「ゴミだったら壊すぞ」
「安心しろ。てめぇなら使いこなせる代物だ」
そこにフラズグズル姉妹とギフトの受付係ハーンが訪ねてきた。
「勝手に動かれては困りますよ黒狼さん」
と、爽やかな表情を張り付けて言うハーン。
「猛獣に事務手続きは無理だよ」
同じく爽やかな顔をしたヨクスが飄々として答えた。
「あ、猫さん!」
アガウェーは猫耳兜のジャンヌを見て言ったが、反応はない。
「あいにく団長は猫のようにシャイでね。お喋りなら俺と二人きりでどうだいお嬢さん?」
「やめとくっ! 面白くなさそうだしっ!」
「……お嬢さんは天然の毒をお持ちのようだね」
頬を引きつらせつつ、ヨクスは続ける。
「ちょうどギフトの関係者もいることだし、聞きたいんだけど、竜を殺して回っている“翼のない竜”を知ってるかい?」
その言葉にアガウェーが強張る。
「ガーラ大迷宮に出たという噂なら聞いたよ。でもケイオス付近で見たという情報はギフトにはないなぁ」
と、ハーンが答えた。
「お嬢さん方はどうだい?」
アガウェーが緊張しながら口を開こうとしたその時、アップルがふらついて妹の肩に寄りかかった。
「えっ、大丈夫お姉ちゃん?」
「ああ、すまない。疲れが出たようだ……翼のない竜についてだが、私達も知らないよ」
今にも意識が飛んでいきそうな顔をしているアップル。
「お姉ちゃん調子悪いみたいだし帰ろっか。皆さんごめんなさい。先に戻ります!」
二人はそそくさと出ていった。
◇
姉妹が通路をいくつか曲がったところで、アップルは普通に歩き出した。
「あれ、お姉ちゃん、体調は大丈夫なの?」
「バカ。あれはフリだよ。あのままだと愚妹がボロを出しそうだったからな」
「あ、そーなんだ! さすが名女優!」
「黒狼団にはあまり近づかないようにな」
「はーい」
しばらく通路を歩いていると、進行方向にヴェステン一家が集まっていた。
「あ、アガウェーお姉ちゃん!」
アガウェーよりも小さい女の子が駆け寄ってくる。
「“ニシシ”ちゃん!」
最近仲良くなったヴェステンの娘だ。服の隙間から見える“迷狂病”のアザが痛々しい。
が、アガウェーはそれに触れずに話し続ける。
「なにしてたの?」
「おさんぽだよー! 寝てるの飽きたからパパとママをぶっ飛ばしてむりやりにね!」
さすが二人の娘だけあって言葉も行動も荒い。そのニシシの横には知らない女の子が二人いた。
「コンニチワ!」
「コンニチワ!」
「わぁ、かわいい! 双子かな? ヴェステンさん他にも娘さんいたの?」
「俺の子供じゃねぇよ。さっきそこで会ったんだ」
アガウェーが頭に触れようとすると、ヒョイと避けて手を振る。
「ジャネー」
「ジャネー」
元気に走り去っていった。アガウェーは行き場を失った手をワキワキさせる。
「ほっといて大丈夫かな?」
その問いに、ヴェステンの妻シーファンが笑いながら答える。
「さっき曲がり角に親っぽいのが居たから大丈夫だと思うよ。でも、見たことない顔ぶれだったねぇ。顔の広いアタシが知らないとは、もっと人脈増やすべきかね」
一方、ヴェステン本人は酒を飲んでいたせいかフラついている。
「ったく、嬢ちゃんが酒を飲ませるからまたシーファンに怒られたんだぞ」
「いや、勝手に飲んだんでしょ」
アガウェーは鼻をつまみながら答えた。
ヴェステンは遠い目をしながら、なにやら話し出す。
「なぁ……いや……いいや。……俺もお前らも素材は残り一つだな。お互い頑張ろうぜ」
「どうしたの? 拾い食いでもした?」
拳骨がアガウェーに落ちる。その瞬間、後ろからシーファンが彼の股間を蹴り上げた。
「ひぎぃ!」
「女の子に手を出すんじゃないよ!」
娘のニシシはその様子を見てケラケラと笑っていた。
◇
翌日、ギフト本部にヴェステン、リンクス、ヒサメ、フラズグズル姉妹が集められた。
「あー頭痛え。こんな早くから何の用だ?」
昨日の酒が抜けきっていないヴェステンは不快そうだ。
「急に申し訳ありませんね」
集団の前に立つ受付係ハーンは、咳を一つして話し始める。
「ここにいる皆さんに“竜合同討伐”を依頼します」
「珍しいな。大物か?」
「ええ、討伐対象は“天樹竜エンジェルオーキッド”です」
「な、マジか!?」
「本当ですか!?」
「ふへぇ!?」
ヴェステン、リンクス、姉妹の求める薬の素材を持つ最後の竜だ。
「静粛に。今朝入った情報で“東の棘地帯”に巣を発見しました。皆さんは実績のある方々なので是非にと。どうでしょうか?」
「やるやるぅ!」
アガウェーを筆頭にほぼ全員が賛同する。
「相手は衛竜です。くれぐれも油断なさらないように。人数は制限しません。ですが、なるべく精鋭を集めてください。他の細かい情報は紙に纏めていますのでそちらをご確認ください」
一人ヴェステンは気難しそうな顔をしていた。
「またリンクスの野郎と組むってのがな」
横からリンクスが覗きニコリと笑う。
「まぁまぁ、いいじゃないですか。最後はみんなでお手手を繋いで完走。素晴らしいと思いませんか?」
「いーじゃん! やろうよ!」
アガウェーがピョンピョン跳ねて賛同する。
アップルとヒサメも同意した。
「ということです。ヴェステンさんはどうしますか?」
彼は腕を組み難しい顔をしていたが、やがて答えを出した。
「しゃあねぇな。足引っ張んなよ」
「やったー!」
こうして“茶番”が終わり、三勢力は手を組むことになった。
そして、薬完成のための合同討伐が始まる。




