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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第2幕 芸術の都(みやこ)にて
22/66

22:メイド喫茶





 ・前回のあらすじです。

和泉いずみたちが美術びじゅつ学校の生徒から、【美術魔法びじゅつまほう】についておしえてもらう』








   〇



 屋台やたい店番みせばんをしていた男子学生に、【美術びじゅつ魔法まほう】についていろいろとおしえてもらったお礼に、そのみせで焼いていたタイ焼きをふたつ買った。

 使つかのクロと、あんこたっぷりのタイがたお菓子を食べながら、校庭を校舎こうしゃにむかってすすんでいく。

 自作の水彩画すいさいがを印刷したポストカードやアクセサリーを売っている露店ろてんや、不思議なデザインの陶器とうきを売っている店もあった。どうやらこの学校、『造形学科』もあるようだ。

「コーヒー。お紅茶こうちゃ。グリーンティーはいかがですかー?」

 ころりとした声が、まつりのにぎわいをくぐって聞こえてくる。

 黒いメイドふくを着こんだ学生たちが、ちいさな喫茶きっさ店をひらいていた。

 オープンカフェスタイルで、いい天気のひるのもと、よっつの円卓えんたくをひろげて、サンドイッチやおにぎり、カレーなどの軽食けいしょく奉仕ほうししている。

(め、メイド喫茶きっさだ。はいりたい…………)


 和泉いずみ内心ないしん、ものすごくこの喫茶店で食事しょくじをしたかった。が、みずから率先そっせんしてすすす……とメイド服の女性じょせいにちかづいていくのは抵抗がある。はずかしい。

「あっ。カレーだ。ねー、マスター。食べてこうよ~」

いよ」

 一秒いちびょうとかからずにクロにこたえて、和泉はテントしたのカウンターにいる女性に声をかけた。

 「クロをつれてきてほんとうによかった」と、このときばかりはおもった。

 カウンターのよこには、コーヒーミルをいているおんながいた。おくには、スパイシーなかおりただよう寸胴ずんどうをかきまぜている、がたいのいい男性もいる。もちろん、彼もここのみせの制服であるメイド服を着ていた。

「いらっしゃいませー。何名なんめいさまですか?」

 黒いロングヘアを近代的なまげにゆったわかい女性が、営業えいぎょうスマイルをそえて、やってきた客に対応たいおうする。

 和泉はゆび二本にほん出して。

「ふたりです。ひとりは【使つか】ですけど」

「かまいませんよー。あっ。でも、人のすがたでの飲食いんしょくをおねがいしますね」

「わかりました」


 一般いっぱん食堂しょくどうや喫茶店では、【使つか】の立ちいりを禁止しているところもある。

 学校管理の、『学園祭がくえんさい』という制約のつよい状況じょうきょうで、そこでひらく飲食店いんしょくてんが使い魔の同行をオーケーするというのは、かなり寛容かんようだった。

「ご注文ちゅうもんのほうは、こちらからおえらびください」

 カウンターの女性じょせいは、ラミネート加工された一覧表いちらんひょうをテーブルに立てた。

 メニューはかなり限定的で、おちゃるいと、かぞえるほどのべもののみだが、値段ねだん格安かくやすなので異論はない。

 クロはすぐに「カレー!」と手をあげて注文し、和泉いずみもチーズサンドと、梅干うめぼしを散らしてまぜこんだおにぎりをたのんだ。ほんとうはツナのおにぎりが食べたかったが、そちらはすでにあかペンで『完売しました』と書かれ、メニューのうえに二重線にじゅうせんが引かれていた。

 ちっちゃくえがかれたイラストのくまが、紙面しめんのなかで動いて、もうしわけなさそうにペコペコあたまをさげている。

 のみものは、クロも和泉いずみ緑茶グリーンティーをたのんだ。

「かしこまりましたー。えー。そちらのお客さま、種族しゅぞくは『からす』とお見受みうけしますが」

 女性じょせいはかんぺきなスマイルを、クロのほうにけて。

「当店のカレーは『チキンカレー』となっております。お肉のほうはいかがなさいますか?」


「食べたい。れたままにしておいて」

「かしこまりました。では、そちらのご主人しゅじんさま。この番号札ばんごうふだを持って、おきなせきでおちくださいませ」

 ご主人さま。

 という単語に、和泉いずみは「ぱああああっ」とかおを輝かせかけたが、『使つかの、ご主人さま』という意味いみだと気づき、くちもとをグッと引きむすんで感激をしころす。

 メイドの女性じょせいは、うしろの厨房ちゅうぼう注文ちゅうもんを伝えた。

 和泉たちは、てきとうにテーブルをえらんですわる。

 ほかのみせから、たこきやヤキトリ、ホットドッグ、フランクフルトなどのいいにおいがながれてくる。

 鼻孔びこうをヒクつかせつつ、注文のしながとどくのを待つ。

 ちかくのテーブルで、ほかの客らが茶をすすりながら、「かなたちゃん。つぎどこ行く?」「とおるとくんが行きたいとこでいいよ。てかまずはるかみつけないと」「だよねー」なんてパンフレットをみながら相談しているのをながしる。

(入りぐち以外はわりとふつーな感じなんだな)

 美術びじゅつ系の『魔法まほう学校』とはいえ、おまつりのようすは和泉いずみがよく知る【トリス】のまちでひらかれる縁日えんにちとそう変わらない。メイド喫茶きっさはないが。

 【悪魔あくま崇拝すうはい】はおろか、魔法的な要素ようそをみつけるのさえ、学園祭の客引きやこまごまとした点をべつにすればむずかしい……。


 と。和泉いずみが白い椅子いすのせもたれに体重たいじゅうをあずけ、のびをしたときだった。

「あらあら。これはこれは。だれかとおもえば和泉教授(きょうじゅ)じゃありませんの」

 うしろのテーブルから声が飛んできた。

 かたごしにやると、金髪きんぱつにブラウンの少女しょうじょが、おにぎり片手にひらひらと手を振っている。

 ほっぺにごはんつぶがついている。



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