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契約その241 教師のsummer vacation!

 ―――8月のある週の午前7時―――


 丁井千夜は布団から飛び起きた。


 足の踏み場のないゴミ袋の山の中から、比較的きれいなジャージを引っ張り出し、それを着る。


 昨日コンビニで買ったおにぎりで腹を満たすと、自家用車に乗って自らの職場に出勤するのであった。


 丁井千夜は高校教師である。今は高校は夏休みになっているが、休みなのはあくまで授業、教師の休みではない。


 むしろ、夏期講習や大学受験に際しての三者面談、各教育機関との会議など、授業がある普段より忙しいぐらいである。


 7時10分、駐車場に車を停める。夏真っ盛りなのもあってか、午前中にも関わらず焼ける様に暑かった。


 車から出た瞬間から汗が噴き出てくる。結局冷房が効いた職員室に着くまでに汗で体がビショビショになってしまった。


「おはようございます。鈴木先生」


「おはようございます。丁井先生。今日も暑いですねえ」


 隣の席の現代文担当の鈴木先生に挨拶をする丁井千夜。その後しばらく世間話をし、夏期講習の時間になると、お互いの教室へと向かっていくのであった。


 時間になったといえど、講義に使うプリントの用意などがあるので、三十分前には教室にはいかなくてはならない。


 丁井千夜は、昨日自分で作ったプリントを持って教室を訪れた。


 教室には、すでに何人もの生徒達がやって来ていて、みんなしきりに一問一答形式の問題集のページを走らせている。


 そもそも強制ではない夏期講習に来ている時点で、すでにマジメな生徒である。


 そんな高い志を持った者達を見て、丁井千夜は自堕落な自分を少し恥じた。


 そんなマジメな生徒達の質問に答えたりしていると、いつの間にか講義の時間になっていた。


「起立!気をつけ!礼!着席!」


 始業のチャイムと同時に、丁井千夜が自分で号令をかけて講義が始まる。


「ではアタシが用意してきた模試の過去問を……」


 自分が用意したプリントを配っていく丁井千夜。お盆休み最後の講義なので、今までの講義の集大成の問題と言える。


 プリントを解かせている間、丁井千夜は教室の中を巡回し、生徒の質問に答えていくのだった。


 プリントが終わればその採点と解説てある。それらが終わった時点で一時限目は終わった。


 夏期講習の間の講義に関しては、生徒が授業ごとに移動する形をとっているので、教師は基本ずっとその教室に陣取っていればいい。


 次の時間の準備をして、授業をし、それが終わればそれまた次の時間の……という一連の流れを数回行い、その日の夏期講習は終わった。


 夏期講習は午前中のみなので、生徒はそのまま帰る事になる。


 しかし、そのまま教室で居残り勉強をする者がいる為、定期的に自分の教室に戻らなくてはならないのだった。


 夏期講習が終わった後、丁井千夜は遅めの昼食を取る。今日は昨日コンビニで買ったパンである。


 自炊をする時間も技術もない為だが、たまには手料理でも食べたいと思う丁井千夜だった。


 午後からは大学入試を目指す生徒と親御さんとの三者面談、そして会議である。


 三者面談の方はつつがなく終わったが、会議の内容については、学校周辺の治安の悪化が議題に上がった。


 結局警察との連携でパトロールを強化していくという結論で、会議は終わった。


 会議が終わっても、仕事は終わらない。2学期からの授業計画に問題冊子の用意と、詰め込みで仕事をする丁井千夜。


 なぜそこまで仕事を詰め込むのか。それにはとある理由があった。


「そういえば丁井先生、お盆を利用してハワイへ行くんですよね?」


 仕事の合間に小休憩を入れた丁井千夜に、すでに帰る準備をしていた鈴木先生が話しかけてくる。


「ええ、友人に誘われて……」


 あまり聞かれたくないのか、有耶無耶な返事を返す丁井千夜。


「いいですねえ、ハワイ」


 鈴木先生はそう言うと、お土産待ってますと言い残して帰っていった。


「確かにまあ……友人ではあるんだけどな……」


 誰もいなくなった職員室で、丁井千夜は一人呟いた。



 ここで時間を約1週間前に戻す。


 その日、紫音が全員をリビングに集めるとこう言った。


「みんな!わしらのハワイ行きが決まったぞ!」


「ハ……ハワイ!?」


 驚愕の表情をするユニ達。


「そうなのですわ。この度、NASAとIIO、そして火殿グループを始めとした各出資者を集め、人工衛星"アイク"の打ち上げを行うのですわ!」


 どれみが声高々に説明した。


 曰く、それをハワイにあるNASAの基地から打ち上げるらしい。


「そんでわしがその打ち上げの中核メンバーに選ばれ、どれみ達火殿グループもそこに同席する。キミ達もそこに連れて行けるというわけじゃ」


 行く気はあるか?とみんなに聞く紫音。ユニ達の答えは一つだった。


「行く!行くよ!行きたい!」


 口々に言うユニ達。紫音はみんなの総意を受け取ると、ハワイ行きは1週間後のお盆の時期であると告げるのであった。



 丁井千夜は、お盆に加えて1週間の有給を取り、8月いっぱいまで休暇を取る事にした。


 なのでハワイ行きまでに夏休み中の仕事を全て終わらせなければならず、ここしばらくは残業していたのである。


「そういえば、いつかみんなと旅行に行きたいって言ってたっけ……。まさかこんな形で叶うとはな……」


 最後の書類を片づけ、丁井千夜は職員室にあるコーヒーを注ぎつつ物思いにふける。


 ユニ達が大学生になれば、生活習慣が変わる。こうしてみんなと一緒に出かけられるのも、もしかしたらこの時期が最後になるかも知れないのだ。


「さて、そろそろ帰ろうかな!」


 丁井千夜は席を立つと、職員室の電気を消し、守衛さんに挨拶をして学校を出た。


 夜になるとさすがに気温も下がり、幾分か過ごしやすくなる。


 疲れた体に吹きつけるそよ風が、妙に心地いい。いい旅行になりそうである。


 だがこの時、丁井千夜と、そしてユニ達は知らなかった。


 この楽しいはずの旅行が、この世界の命運をも握る危険なものになっていくという事を。


 悪魔との契約条項 第二百四十一話

旅行へは、やるべき仕事をきちんと片づけてから望むべきである。

読んで下さりありがとうございます。

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