契約その217 Reconstructionへの道!
まだ豪雨の爪痕が残る徐氏堂市。
そこへ謎の少女がやって来た。
6月というのに分厚いコートを纏っていて、否応にも目立っていた。
「町がこの状況じゃ、学校も休校か……仕方ないな……」
そう呟くと、少女はふらっとどこかへ行くのだった。
「ようやく帰ってきたな」
久しぶりの我が家を前にして、ユニはそう呟いた。
もっとも、下流にある地域の家屋は全壊ないし半壊が多数あるので、週間程で家に戻れたユニ達は幸運だった。
高台にある事で、豪雨による被害がほぼ皆無だった事が不幸中の幸いである。
「食料なんかは避難所とかに持ってったからないけど、家が丸々残ってるだけで御の字か……」
ユニの言う通り、冷蔵庫にも貯蔵庫にも、食料は残っていなかった。
「当分は救援物資頼りか……」
とはいえ、文句は言ってられない。被害の大きな地域に比べれば、ユニ達の状況は遥かにマシなのである。
そんなユニには、気になる事があった。
「そういえば、みんなの実家とか、家族はどうなの?」
ユニが聞いた。
それを聞いて一番最初に口を開いたのは七海である。
「ウチはここの隣だから被害は少ないかな。お母さんとお父さんも今はおばあちゃんちにいるみたい」
どうやら雨が激しくなったタイミングで避難した様である。
七海も連れて行こうとしたが、七海はみんなと残る事を選択した様だ。
「ウチもお母さんは無事みたい。でも『バーさなぎ』が一部シンスイしちゃって……今からフッキューの手伝いに行くんだ」
アゲハがリュックサックを持ちながら言う。一度瀬楠家に戻った後に装備を整えていくらしい。
「私もその手伝いだ。実家は市外だから家も家族も無事だった」
アキも「バーさなぎ」の復旧を手伝いに行くという。
「私の実家も高台ですし……」
みすかも言う。
とりあえず、みんなの実家も家族も全部無事だったらしい。
「でも……しばらく学校は再開しそうにないな……」
ユニは呟く。
まだ学校には多くの避難者達が身を寄せていて、校庭にも救援物資が所狭しと並べられている。
日常を取り戻せるのは、まだ先の話である。
ユニは自分の頬を叩き、気合を入れ直す。
「だったら!今やるべき事をやるしかないな!おれも『バーさなぎ』に行くよ。復旧の手伝いだ」
後のみんなも、学校に戻ってボランティアを続けたりするらしい。
一方で、どれみは紫音にあるお願いをしていた。
「成程、消毒か」
「そうですわ。町中この悪臭では復興もままなりませんし、何より衛生的にも大きな問題ですから」
火殿グループ幹部達には断られた「紫音の発明品でどうにかする」計画だが、先に実績を作る事で認めて貰おうとどれみは考えたのである。
「背負うタイプでもいいか?」
紫音が聞く。
「ええ!むしろ持ち運びができる方がいいですわ!」
どれみは大きく頷きながら言うのだった。
「バーさなぎ」では、ユニ達が復旧作業に追われていた。
「床中泥だらけか……」
辺りを見渡しながらユニがぼやいた。
それだけではなく、その床にはグラスやワインのボトルなどが割れて散乱していた。
「これ全部廃棄処分なんでしょ?お母さん」
アゲハが聞く。
「ええ……残念だけど……」
だが、掃除をするだけで現状復帰ができる分、まだマシな方である。
それは紗凪も自覚していた。
「幸い金庫や売上金は無事だから……商品や備品がほぼダメになったのは残念だけどね」
とにかくその状況が「マシ」と言える時点で、かなりマズイ状況なのは変わらない。
「無事な飲み物もあるから、それを使って仮設店舗を避難所に出そうと思うの。状況が状況だし、呑みたい人もいるだろうから」
勿論お酒は格安で提供するらしい。
ゆくゆくは床を全面張り替えて、営業を再開する様だ。
「じゃあとりあえずは、床の掃除だな」
アキが言う。
確かにそれしかないだろう。
三人は、床の掃除に泥だらけになりながら勤しんだのだった。
一方ルーシーは、魔界へ帰っていた。
自分の母に、ある事をお願いする為である。
魔界にあるルーシーの実家で、ルーシーは母に詰め寄っていた。
「死んだ者を生き返らせるのは、悪魔でもできないけど……せめて復興の手伝いをしたいんだ!悪魔が協力すれば、あと一週間で元の生活に戻れるはず」
自分一人の力では到底足りないと、ルーシーは思っていた。
せめて自分以外にもう一人、悪魔の力を使える者がいなければならないと考えたのである。
だから自分の母を頼ったのだが、そのルーシーの直談判に、「セラフィム」は少し悩んでから言った。
「協力したいのは山々なんだけど……私にも立場があって……あまり人間界に肩入れはできないの」
申し訳なさそうに言う「セラフィム」。
「そうか……」
母の協力を得られなかったルーシーは、ガックリと肩を落とした。
そんなルーシーに、「セラフィム」は優しく声をかける。
「でも、希望はあるわ。あなたのすぐ近くに」
「近く?」
「そう。それはね……」
「ラファエル」は、ルーシーにこっそりと耳打ちした。
「そんな……バカな……」
その事実に青ざめるルーシー。
「希望というのもおこがましい、あまりに残酷な事実だけど……」
「……」
ルーシーは黙ってしまった。だがそれが事実なら、これまでの疑問が解決する。
納得せざるを得なかった。
「この方法を使うか否かはあなた次第よ」
その母の言葉を背に受け、ルーシーは魔界を後にするのだった。
ルーシーが帰ってきた時には、もう夜になっていた。
程なくして全員集まり、久しぶりの家での夕食を取る。
メニューはインスタントラーメンだったが。
「水も断水してて貴重だから、どんぶりにラップを張って、そのラップを捨てれば洗い物に水を使わなくてもよくなるの」
そんな避難生活で培った生活の知恵を由理が語る。
停電もしているが、今は紫音の手によって非常用電源に切り替わっているので、何とかなっていた。
そんな中、ルーシーは何となく食欲がない様だった。
「ルーシーが珍しいな。いや、この状況じゃ食欲ないのも無理ないか……」
ユニが言う。
電気も勿体ないので、用がある人以外はすぐに寝る事にした。
自室のベッドに横になるユニ。
そこへコンコンとドアを叩く音がする。
「いいよ。入っても」
音の主はルーシーだった。
「どうしたんだ。さっきから」
ユニは起き上がって聞いた。
「……思えばさ、この部屋から全てが始まったんだよな」
ふとルーシーが呟く。
ユニが魔導書を拾ってルーシーを召喚した時、ユニが女体化した時、そしてユニがハーレムを決意した時。
今に繋がるその全てが、この部屋から始まったのである。
「お前、言ってたよな。彼女達全員を幸せにするって。それが自分への罰だって。それが自分の願いだって」
「そうだ。その気持ちは今でも変わってない」
それがどうかしたのか。ユニにはわからなかった。
「偶然だけど、この部屋でこの話をするのも、きっと運命だと思う」
「話……?」
ルーシーは決意した。自分の母から伝えられた真実を話す事を。
ユニの、出生の秘密を。
そしてそれを、瀬楠家の屋上に登った謎の少女が描いているのを、ユニはおろかルーシーも知らなかった。
悪魔との契約条項 第二百十七条
悪魔が人間界に関わるのは自由だが、立場上関われない事もある。
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