前章
その日、私、皆実理緒奈は、朝っぱらから通っている高校の入学式の手伝いをしていた。別にそういうボランティアとかするのが好きとかいう訳じゃなくて、単に友達が生徒会に所属していて、手伝って欲しいと頼まれたからだけど。
天気は快晴で、春らしい暑くも寒くもない気候。私のセミロングの髪を柔らかな風が揺らす。満開とはいかないけど、それなりに咲いていてなかなか見応えのある桜に包まれて、入学式としては最高のシチュエーションなんじゃないかな。私が入学するわけじゃないからどうでもいいんだけどさ。
実際のところ、何もない生徒は今日はまだ春休みだし、はっきり言って面倒くさいから一回断ったんだけど、内申点とかを盾にされたのでやむを得ず引き受けた。生徒会の手伝いを積極的に行なっていた。こういう実績を積んでいけば、準役員のような立場であった。とかそんなん書いてもらえるらしい。部活にはほぼ入っていないみたいなもので、遅刻とか欠席が比較的多い私としては、それは有難い。自堕落で、私生活が非常にだらしないのが悪いんだけど。
そんな訳で、入学式の運営のバイトを頑張っております。眠たい。
まあ重要だったり覚えないといけないような所は役員とかがやってるから、私みたいなバイトは本当にただの雑用と下働き。分かりやすく言うと、運んだり、設置したり、掃除したりとそんなんばっかり。いいけどね、楽だし後腐れもないし。来年はちゃんと休みたいから覚える気なんてさるさらないし。内申点次第で来年もやらないといけないかもしれないけどさ。
頼まれた段ボールを生徒会室に持って行って、制服、どこにでもありそうな特徴のないブレザーの上着を脱いで、代わりに着ているジャージのポケットに手を突っ込んで、だらだらと体育館に戻っている最中だった。
「あの、すいません!」
不意に声をかけられてそちらを見る。
「んあ?」
そこには小中学生みたいな女の子がいた。胸に花が付いているから、新入生に違いない。長い髪を前で二つ結びにしていて、幼い印象がより増している。背も低いし童顔だし。顔立ちは整っていて、可愛らしい声が可愛らしさに拍車をかけている。どっかの中学生が紛れ込んだみたいな印象。
で、そんな可愛らしい娘が私に用事なんて決まってる。
「どしたん? 会場ならあっち。このままあっちに真っ直ぐ行けばすぐ分かるよ。それともトイレ?」
「いえ、あの」
道が聞きたいぐらいしか声をかける理由なんてないと踏んだ私に、娘は一瞬言い淀んだかと思うと、意を決した様に口を開く。
「一目惚れしました!付き合って下さい!」
えっ、何だこいつ。頭おかしいんか?
「えっ、何だこいつ。頭おかしいんか?」
やっべえびっくりし過ぎて口に出た。
「頭おかしいですよ! 一目惚れしてるような奴の頭がおかしくないわけがないです!」
おお、一目惚れのせいだって言うんか。なかなかいい返しをしてくるな。やるな、こいつ。
「ていうか名前ぐらい先に聞きなよ。さすがに名前すら知らん人と付き合おうとか考えられんわ」
「それはそうですね! お名前教えていただけますか?」
「理緒奈。皆実理緒奈」
「リオナお姉様ですね、覚えました! これで付き合っていただけますね!」
「嫌だよ。早いよ。あと名前ぐらい名乗ろうよ」
「失礼しました! あたし宇品幸って言います」
「サチだな。よし、サチ、とりあえずあれだ、入学式行け。もうぼちぼち始まるだろ」
「あ、はい! 行ってきます!」
そう言ってサチはとっとと走って行ってしまった。
なんかとんでもないのと知り合ってしまった予感がする。どうしよ。いいとこまで手伝ったらとっとと帰るか?
いや、うん。お腹も空いたしもう帰るか。
友達に一報を入れてから、私はさっさと帰宅した。




