77のんびり異世界となんだかんだ優しい私は最強の種族と家族でカラフルな魔物がのんびり散歩し絵本から飛び出してきたような日常を楽しむ
ざまぁなし/ほのぼの
プロメティは前世の記憶を持ったまま、このフワフワした異世界に転生した。
どこまでも広がるお花畑に、虹色の雲が浮かぶ空。カラフルな魔物がのんびり散歩している、絵本から飛び出してきたような場所。家族はといえば、特に希少で最強と謳われる星詠みの一族。なのだけど全員が揃いも揃って、とんでもなくのんびり屋。
「プロメティちゃん、見て見て!お空からお菓子が降ってきたよー!」
姉のハルラが満面の笑みで手のひらを見せてくる。そこには赤や青、緑の可愛らしい星形のクッキーが乗っていた。いや、あんたが今無意識に強力な魔法を使って降らせたんだろうに、まったく相変わらずだなぁ。
「ハルラ、また余計なことしたの?後でちゃんと片付けてね」
口から出るのは、つい小言。本当はハルラの無邪気な笑顔を見ると、ほんの少しだけ心が和むのだけど。それは絶対に顔には出さない。
なんとなくそういう柄じゃない気がするから。父のドヤンは遠くの虹色の雲を眺めながら、うっとりとした表情で「うーん、今日も美しいねぇ」と呟いている。母のセレスティアはそんな父を優雅な笑みで見つめている。
最強種族なのに平和ボケっぷり。以前は「私が何とかしないと!」って焦ってたけど最近は「まあ、私がいれば大丈夫か」ってちょっと余裕が出てきた。
ある日、里を覆っていた結界がポンッと軽い音を立てて弾けた。外界からの訪問者が来たから「またお客さんか」と迎え入れたけれどどうも様子がおかしい。
「星詠みの一族の皆様!ぜひ、その素晴らしいお菓子作りの秘訣を教えてください!」
「私たちは世界を巻き込む大喜利大会を開きたいのです!ぜひ、プロメティ様のセンスをお貸しください!」
なんだ、この変わった人たちは。悪意は感じられないけれど何かを期待しているのはわかる。だけど、彼らが持ってくるお願いは、どれもこれも平和でちょっと笑えるものばかりだ。
「もう。そんなの自分たちで頑張ればいいのに」
里にやってきた学者に呆れたような視線を向けた。彼らは「えっ、あ、いや、そんなことは」とどもどもしている。
この人たちはもっと美味しいお菓子を作りたいらしい。面倒くさいなぁ。でも、家族が喜ぶかもと思うと、少しだけ手を貸してあげたくなる。
「……仕方ないなぁ。別に暇なわけじゃないけど、付き合ってあげるよ。ただし、言う通りにしないと、知らないから」
知識と魔法を組み合わせ、一瞬で一口食べたら無限に口の中に広がるパンケーキを、生み出してみせた。学者たちは目を丸くして驚いている。
「うわー!プロメティちゃん、すごいね!これ、すっごく美味しい!」
ハルラが無邪気にパンケーキに食らいついている。狙いはこの瞬間なのだ。家族が楽しそうにしている姿を見ると、ちょっとだけ満足できる。笑顔になるなら、まあ、いいか。
そんなある日、里に頻繁にやってくるようになった商人の中に、ひときわ落ち着いた雰囲気の青年がいた。彼は、私がどんなに小言を言っても、いつも楽しそうに「プロメティさんらしいですね」と微笑む。
「プロメティさん、珍しい果物を見つけたんですが、いかがですか?きっと、プロメティさんの魔法で、とんでもないデザートになるかと」
見たこともない珍しい果物を差し出してきた。別に興味なんてないと思いながらも果物の鮮やかな色合いに、少しだけ心が惹かれる。
「……ふん。どうせ大したことないんでしょ。まあ、せっかくだから、もらってあげてもいいけど」
素っ気なく受け取ると、すぐに魔法でその果物をとんでもないパフェに変えてみせた。彼は「おお!」と目を輝かせている。
「あらあら、プロメティったら。ずいぶん嬉しそうね」
母が楽しそうに微笑んでいる。別に嬉しくなんかない。ただ、新しいものにちょっとだけ好奇心が湧いただけ。
彼がわざわざこちらのためだけに持ってきたのだとしたら、少しは付き合ってあげてもいいかな、なんて。
今日も、のんびりとした家族と、ちょっぴり特別な隣人に囲まれて、ライフは続いていく。
面倒なこともあるけれど、まあ、悪くないかな。そんなことを、心の中で小さく呟いた。
ある日の午後。カスティロがいつものように里を訪れた。その日はいつもと様子が違う後ろには、見慣れない大きな木箱がいくつか積まれていた。
「プロメティさん、今日はとっておきのものを持ってきたんですよ!」
カスティロは顔を輝かせながら近づいてくる。少し眉をひそめた。
「もう。また何か持ち込んできたの?一体何なの?」
言いながらも、視線は彼の後ろの木箱に釘付けだった。中には一体何が入っているのだろう?
言葉にもカスティロは動じず、嬉しそうに説明を始めた。
「いえいえ、これはきっとプロメティさんも気に入るはずです!見てください、これ!」
カスティロが木箱の一つを開けると、中から現れたのは小さな木片がぎっしり詰まった、見慣れないボード。横には、色とりどりの小さな駒が並んでいる。
「これはボードゲームというものです。とある国の貴族たちが、夜な夜な興じていると聞きまして。頭を使う、面白い遊びだと評判なんです」
ボードゲーム?前世の記憶が蘇る。懐かしい響きだ。まさか、この異世界にも似たようなものが存在していたとは。
いや、カスティロがどこかから持ってきたのだろう。
「ふーん。子供の遊びじゃないの?」
心は少しだけざわついていた。頭を使う遊び……悪くないかも。
カスティロはすぐにゲームのルールを説明し始めた。最初は面倒だと思っていたが、話を聞くうちに奥深さに少しずつ引き込まれていく。これは、なかなか奥が深いぞ。
「どうですか?プロメティさん、一度試してみませんか?」
カスティロが期待に満ちた目で見る。
「……まあ、あんたがそこまで言うなら、相手してあげてもいいけど」
素っ気なく答えたが、内心ではすでにワクワクしていたその日から。カスティロが里を訪れるたびに、家族とカスティロとの間でボードゲーム大会が開催されるようになった。
最初はカスティロだけと対戦していたのだが、興味を持ったハルラが加わり、さらに父と母まで参加し始めた。
「プロメティちゃん、えい!」
ハルラがサイコロを振ると、驚くほど良い目が出た。無邪気な笑顔で、自分の駒を進める。自身の駒は、一気に後退。
「ちょっと、ハルラ!何やってるの!」
思わず声を荒げると、ハルラはきょとんとした顔で首を傾げた。
「え?だって、ここに止まると、お菓子がもらえるんだもん!」
そういえば、カスティロが持ち込んだボードゲームの中には、コマを進めるとお菓子がもらえるマスがあるものもあった。
ハルラは完全に、勝利よりもお菓子目当てで動いている。
父と母もまた、独自のペースでゲームを楽しんでいる。父は駒を進めるたびに「うーん、この選択でよかったのかなぁ?」と首を傾げ、母は微笑みながら、いつの間にか一番有利な位置に駒を置いていたりする。
「あら、私、また勝ってしまいましたわね」
母の優雅に微笑む手には、しっかり勝利の証である金色の駒が握られていた。 のんびりしているようで、時々ものすごい実力を見せるから油断できない。
カスティロは家族の様子を見て、いつも楽しそうに笑っている。
「星詠みの一族の皆さんとゲームをするのは、本当に楽しいですね。特にプロメティさんは、毎回予想外の手を打ってくるので全く飽きません」
柔らかな視線を向けられ「ふん、当然」とそっぽを向いたが少しだけ胸が温かくなった。
ボードゲームは里の新しい流行になり、子供たちはもちろん、のんびり屋の大人たちまで、夜な夜な集まってゲームを楽しんでいる。
里は以前にも増して、笑い声で溢れるようになって、こっちはというと相変わらずな日々。でも、カスティロが新しいボードゲームを持ってくるたびに、なんだかんだ言って一番最初にルールを把握し一番真剣にプレイしているのは自分だったりする。
夕暮れ時、里の広場でハルラやカスティロと一緒に、夕焼け色の空を眺めていた。空には、七色の雲がゆっくりと流れていく。
「ねぇ、プロメティちゃん。楽しい?」
ハルラが、ふいにそんなことを尋ねてきた。
「もう。何言ってるの。そんなの、ハルラには関係ないでしょ」
カスティロがそっと微笑んだ。
「でも、プロメティさんが楽しそうで嬉しいですよ」
頬が、ほんの少しだけ熱くなる。
「別に。あんたのためにやってるわけじゃないから」
くるりと背を向けたけど、足取りはいつになく軽やかだし、生活はなんだかんだ言って少しずつ変えているのかもしれない。
のんびりとした温かさと、ちょっぴり特別な存在が新しい彩りを加えていく。
里でのボードゲームブームは留まるところを知らずカスティロが持ってくる新しいゲームはどれもこれも面白く、まんまと魅力にハマっていた。
たまには負けることもあるが、それがまた悔しくて、次こそはと燃えるのだ。いつになく真剣な顔で話しかけてきた。
「プロメティさん、実はお願いがあるんです。里の外で困ったことが起きていまして」
眉をひそめた。里の外での困ったことと聞いて、真っ先に思い浮かぶのは力を悪用しようとする輩のことだ。
せっかく穏やかな日々が続いているのに、面倒なことに巻き込まれるのは御免。
「何それ。関係ないでしょ」
放ったが諦めずに続けた。
「いえ、これは里の皆さんの笑顔を守るためにも、プロメティさんの力が必要なんです。他でもない里の近くにあるお菓子が降る森の泉が枯れてしまいそうで」
お菓子が降る森!ハルラが魔法でよくお菓子を降らせる場所で、里の子供たちが大好きな場所なので泉が枯れてしまえば森の生態系も変わり、お菓子も降らなくなるかもしれない。それは、ちょっと困る。
「別に、私がやらなくても他の誰かがどうにかするんじゃないの?」
つい口から出てしまうのは、いつもの小言。でも、カスティロの真剣な表情と子供たちの笑顔が目に浮かぶと、どうしても放ってはおけなかった。
「どうかお願いします。プロメティさんの魔法でなければ、この泉を救うことはできないと僕は確信しています」
まっすぐ見つめてくる瞳には信頼と期待が見える。
「仕方ないなぁ。そこまで言うなら、見てあげるくらいはしてあげるけど」
ぶっきらぼうに答えるとカスティロはパッと顔を輝かせ、深々と頭を下げた。まったく本当に素直なやつ。
カスティロと共にお菓子が降る森へと向かうと森の奥深くにある泉は確かに水の量が減り、普段はキラキラと輝いている水面も濁っていた。
「これがその泉……」
泉に手をかざすと微かな魔力の乱れを感じ、これは自然現象ではない何らかの理由で泉の魔力供給が滞っているようだと知る。
「プロメティちゃん!待ってよー!」
突然、背後から元気な声が聞こえたから振り返ると、ハルラとなぜか両親の姿が。
「ハルラ、なんで来たの」
呆れて言うとハルラはニコニコと笑う。
「だって、プロメティちゃんだけだときっと大変だもん!お手伝いするー!」
父のドヤンは「うーん、娘だけに行かせるのは心配だからねぇ」と呑気に言い、母のセレスティアも「プロメティの力は素晴らしいけれど時に突っ走るから」と優雅に微笑んでいる。
全くこの家族は。心配なのはわかるけれどここまでくると過保護すぎるだろうけど、彼らがいることでなんだか心強い。
泉の魔力経路を調べ始め、どこに問題があるのかを探すと泉の地下深くにある魔力の源流が詰まっていることがわかった。
原因は里の外から流れ込んできた、ごくわずか淀んだ魔力なので少しずつ蓄積され、泉の機能を阻害しているらしい。
「なるほどね。これなら魔法でどうにかなる」
呟くと泉に向かって手をかざした。星詠みの一族の浄化の魔法、星の光が手から泉へと流れ込み、淀んだ魔力を溶かしていくとハルラが隣に立って手を重ねる。
「プロメティちゃん、私も手伝うね!」
ハルラの無意識に放たれる膨大な魔力が、魔法に加わると、小川が大きな河に合流するかのようだ。父と母もまたそれぞれの魔力を泉へと注ぎ始め、最強種族である家族四人の魔力が一つになり泉は目に見えて活力を取り戻していく。
濁っていた水はみるみるうちに透き通り、キラキラと輝きを取り戻し、泉の底から新たな水がこんこんと湧き出し始める。
枯渇は無事に解決し、お菓子が降る森には、以前にも増して甘い香りが満ち溢れるようになったら子供たちは大喜びで森に駆けつけ、降ってくるお菓子を追いかける。
眺めつつ、カスティロは深々と頭を下げ感謝の言葉を述べた。
「本当にありがとうございました、プロメティさん!皆さんの協力のおかげで森は救われました!」
「別に。頼み込んできたから、仕方なくやってあげただけ」
いつものように素っ気なく答えたがカスティロが嬉しそうにしているのを見ると、悪い気はしなかった。
家族は相変わらずのんびり屋で今日もハルラは森でお菓子を降らせては、追いかける子供たちを見て嬉しそうに笑っている。
父と母は風景を穏やかに見守っているし、異世界での生活はなんだかんだ言って、少しずつだけど変わっているのかもしれない。
のんびりとした温かさ、カスティロという存在が依頼が舞い込んでくるのか。なんだかんだ優し、異世界生活は今日も続いていく。そうだったら、まぁ悪くない、かな。




