238【前編】夫が優しくて惚れ直す人生が幸運なんだろうと毎日同じことを思うのはダメですか?凛々しくてかっこいいスパダリ夫を得られたということは前世でいいことをしたのかもしれないけど記憶にないですねえ
ざまぁなし
深緑の木々が生い茂る森の中で、一人の女性がのんびりと大の字で寝転がっているとサラサラとした黒髪が風に揺れ、時折、太陽の光を反射してキラキラと輝く。
「あ~、最高。異世界転生してまさかのドラゴン族とか、前世の私グッジョブすぎる」
カレンは元々は、現代日本のどこにでもいる普通の女子大生だったのだがトラックに轢かれた衝撃で意識を失い、気が付いたらこの異世界でドラゴンとして生を受けていたのだ。
しかも、生まれた時から隣には同じく小さなドラゴン——後に夫となるソラノの姿があり、ソラノはカレンと同じくらいの大きさの鮮やかな青色の鱗を持つ雄のドラゴンで、幼い頃からいつも一緒にいた、いわば腐れ縁の幼馴染。
言葉は通じるものの、どこか古風な話し方をするソラノに対して、カレンは前世の記憶そのままの現代口調で話すため、周りのドラゴンたちからはよく不思議がられるコンビだ。
「カレン、またそんなだらしない格好をして。そろそろ狩りの時間だぞ」
低いけれど、優しい声が頭上から降ってきて見上げると空色の鱗が陽光を受けて一層輝くソラノが少し呆れたような顔でこちらを見下ろしている。
「え~、まだ眠いんだけど。っていうか、毎日毎日狩りって疲れるよ」
カレンはむくりと起き上がり、大きく伸びをしたドラゴン族の力強い体がそのたびに心地よく軋む。
「仕方ないだろう。我々は生きていかねばならんのだからな」
ソラノは言いながらもカレンの怠惰な態度には慣れている様子で、優しく首筋に鼻先を擦り付けた温かさに、カレンの眠気は少し和らいだ。
「ま、いっか。ソラノのご飯ゲットしに行くとするか!」
カレンは勢いよく立ち上がり、翼を大きく広げた黒曜石のような鱗が太陽を反射し、きらりと光る。ソラノもまた美しい青い翼を広げ、カレンの隣に並んだ二匹のドラゴンは仲睦まじく空へと舞い上がっていく、二人の間には温かい空気が流れていた。
「ねえ、ソラノ。こうして一緒にいられるって、なんか運命感じない?」
「ふむ。確かに、不思議な巡り合わせかもしれんな」
少し照れたように答える表情を見て、くすりと笑った。
「もー、相変わらず照れ屋さんなんだから」
狩りを終え、二匹は森の中の開けた場所に着地したカレンが捕まえた大きな猪を得意げにソラノの前に差し出す。
「どうよ、この獲物!今日の私は絶好調だったんだから!」
「ああ、見事だなカレン。いつもながらお前の狩りの腕は素晴らしい」
ソラノが頭を優しく角でつついてきた仕草は労わるような愛情に満ちている。二匹は協力して猪を解体し、焚き火を起こして肉を焼き始めパチパチと燃える炎の周りには香ばしい匂いが立ち込めていく。
「そういえばさ、この前人間たちの村を見かけたんだけどなんか面白そうなもの売ってたんだよね」
カレンは肉にかぶりつきながらふと、思い出したように言った。
「人間がか?我々とは違う生き物だろう。不用意に近づくのは危険ではないか?」
ソラノは少し心配そうな表情を浮かべるほど、ドラゴン族にとって人間は時に厄介な存在。
「大丈夫だって!ちょっと興味があっただけだし。キラキラしたものがたくさんあったんだもん。女の子はそういうのに弱いんだよ!」
カレンは目を輝かせながら言うことにソラノは子供っぽい一面もまた、愛おしいなと感じていた。
「まあ、お前がどうしてもというなら今度こっそり様子を見に行っても良いが」
「え?やった」
嬉しそうに飛び跳ねたソラノはカレンを見て小さく微笑む。夕焼けが空を茜色に染める頃、二匹は寄り添って眠りにつきつつ、温かい鱗に穏やかな寝息を聞きながらふと思う。
(異世界でこんなに穏やかな日々を送れるなんて思わなかったな。ソラノがいてくれるから、毎日が楽しいし)
隣で眠るソラノの顔を見つめると優しい眼差しが蘇る。幼い頃からずっと一緒だったから、いつの間にかカレンにとってなくてはならない存在になっていた。
(夫婦になれて、本当に幸せだなぁ)
そっとソラノの鱗に触れ、小さく呟いた夜は静かに更けていった数日後、カレンはなにやら熱心に作業をしていた。森の中で見つけた柔らかな毛皮や鮮やかな色の植物の繊維などを集め、試行錯誤しながら編み物をしている。ドラゴン族の大きな体に合わせてマフラーも相当な長さになりそうだ。
「うーん、もうちょっとだけ長くする?ソラノの首、結構太いしなぁ」
時折ソラノの首の太さを想像しながら編み針(のような、先の尖った木の枝)を動かしているものは少しだけかじった編み物の知識を頼りに、なんとか形にしようと奮闘中。
一方のソラノは何を作っているのか、興味津々といった様子で作業を見守っている。普段は狩りや縄張り争いなど力強い行動が多い彼にとって、カレンの繊細な手仕事は新鮮でどこか魅力的だ。
「カレン、それは一体何を作っているんだ?」
「ん?ああ、これね。ソラノにあげるマフラーだよ」
カレンは笑顔でニコッと答えた。
「マフラー?その、それは一体何に使うものなのだ?」
首を傾げるのもそうだろう。




