214禁書庫の死にぞこない令嬢、邪神と契約して帝国の知恵袋になる。聖女の誤読と禁書庫の正解
「神よ、我らに光を!見てお父様。神様が私の祈りに応えて空を黄金に染めてくださったわぁあ」
公爵家の広大な庭園で妹のメララが華やかに両手を広げる。瞬間、空は不自然なほどに輝き、集まった貴族たちは「おお、これぞ聖女の奇跡だ!」と跪いた。
それを、地下書庫の小さな窓から無感情に見つめる。耳には空から降ってくる古代精霊の本当の声がはっきりと聞こえている。
まぶしっ!勝手に魔力を引き出すなよ、この小娘……急に光らせるから目が痛いだろ、ボケ!
神様はめちゃくちゃにキレていた。けれど、国の人間に古代精霊語を理解できる者はいない。前世で古代言語の研究者だった私を除いて。
「シャーテリ。まだそんなカビ臭い本を読んでいるのか気味が悪い」
背後から冷たい声が響く。婚約者だったはずの王太子カミスル。窓際に積み上げられた古文書を忌々しそうに蹴飛ばした。
「メララは神託を受け、国の行く末を照らしている。一方、お前は魔力の一つも使えず文字を追うだけの死にぞこない。お前に用はない」
王太子は一通の書状を私に投げつけた。
「隣国、バルカ帝国への譲渡契約書だ。あちらの邪神の門を鎮めるための生贄として、お前を売ってやった。明日すぐに出て行け」
「……邪神の門ですか」
落ちた書類を拾い上げた端に書かれた、帝国の紋章。王国の人々が「呪いの印」と恐れる模様が刻まれていたがこう読めた。
【管理番号:001 地下換気ダクト】
(ただの空調設備)
「分かりました、カミスル殿下。せいぜい、神様の逆鱗を神託と読み間違えないようお気をつけくださいませ」
「無能の負け惜しみか。行け、二度と面を見せるな」
密かにトランクに一番大切な古代語辞書を詰め込んだ。馬鹿な家族と婚約者から解放され、世界最大の未開発文献の宝庫である帝国へ行けることに心は期待で弾んでいた。
帝国の地下深くに存在する邪神の門。近づくだけで精神を病むと言われる黒い霧が噴き出しており、帝国の存亡を脅かしていた。
「生贄か。随分と弱そうな娘が来たものだ」
皇帝スアウィは椅子に深く腰掛け、鋭い眼光で射抜いた。体には邪神の呪いとされる黒い紋様が浮かんでいる。
「門を開ける必要はない。死を待つか、それとも狂うか。好きな方を選べ」
彼を一瞥し、そのまま門へと歩み寄った。門の表面には、複雑怪奇な古代文字がびっしりと並んでいる。帝国最高の魔導師たちが呪詛の呪文と断じたそれは、私にはこう読めた。
【警告:フィルター掃除が1000年以上行われていません。目詰まりによる有毒ガス(煤塵)が発生しています。管理者を呼んでください】
「……道理で皆さん体調を崩すはずです」
ペンを取り出し、門の横にある入力パネルの石板に正しいコマンドを書き込んだ。
「コマンド強制パージ。管理者権限シャーテリ。清掃モード開始」
ゴゴゴゴゴ……!何世紀も閉ざされていた門が軽快な電子音のような精霊の鳴き声と共に開き、中から巨大な黒い影が飛び出してきた。
「邪神が現れた!皇帝陛下をお守りせよ!」
騎士たちが剣を抜くが影に向かって叱りつけた。
「こら!1000年も放置したあなたが悪いのですよ。ほら、換気扇を回しますから、早く煤を吐き出しなさい!」
ゲホッ、ゴホッ!……あー、スッキリした。誰だお前、言葉が分かるのか?
邪神と呼ばれた存在。古代の大地精霊は煤を吐き出すと、可愛い黒猫のような姿に縮小した。霧は一瞬で晴れ、皇帝の呪い。ただの煤汚れも消えていく。
呆然とする皇帝スアウィ。彼に向かって丁寧にカーテシーをした。
「お騒がせしました。邪神様はただの目詰まりだったようです。陛下、これからの帝国のメンテナンス、お任せいただけますか?」
スアウィは驚愕の後に、見たこともないような不敵な笑みを浮かべた。
「面白い。気に入った。今日から帝国の最高賢者として迎えよう」
三ヶ月後。追放した側の王国は絶望の淵に立たされていた。
「メララどういうことだ!神様が雨を降らせるという神託だったはずだろう!」
王太子カミスルが叫ぶ。空からは雨どころか燃え盛る岩が次々と降り注いでいた。
「わ、分からないわ!いつも通り、神様の声を……!」
空からは叫び声に近い轟音が響く。
うるさい!メシ抜きで働かせやがって!シャーテリを連れてこい!あの子がいなきゃ、もう一歩も動かねえぞ!
神(精霊)の言葉を適当に解釈し続けた結果、精霊たちはストライキを起こし、王国そのものを破壊し始めたのだ。慌てた彼らは帝国へシャーテリを返せと使節を送った。
帝国の玉座。そこには皇帝の隣で、古代の魔導書を片手に指示を飛ばす姿があった。
「お姉様助けて!神託が通じない!」
「シャーテリ君が必要だ!王国に戻れば以前よりも優遇してやる!」
跪くカミスルとメララをページをめくる手を止めずに見下ろした。
「……あいにく。私は今、帝国の世界システムの再起動で忙しい。それから」
一枚の紙に古代文字である言葉を書いた。それをかざすとカミスルたちの足元の影が牙を剥き、彼らを場外へと放り出した。
「神様はお前たちの顔を二度と見たくないと仰っています。翻訳の手間が省けました」
隣で皇帝スアウィが肩を抱き寄せ微笑む。
「聞いたか王国のゴミ共。我が妻にこれ以上近づくなら、次は消滅を書き込ませる」
王国はその後、精霊の怒りに触れて完全に崩壊。一方、帝国はシャーテリの知略によって、失われた古代技術を次々と復活させ大陸の唯一無二の支配者へと駆け上がっていく。




