講義⑥『推敲準備』をしておこう
ふう、とうとうここまで来ました。
筆者の創作論における本編はこの講義で終わりです。なのでこれで完結となります。
ただ、外伝的な形でまた話を投稿するかもしれません。とはいってもその内容は「本編をちょっと補足するもの」で読んでも読まなくても大丈夫じゃないかなあという感じです。まあ、この講義も蛇足みたいなもんですけどね。
では、始めましょう。
講義⑥を始めます。
講義⑥は「見直しを行なう前にその方法を整えておこう」という内容です。〈ネタ〉の比べ方、改稿前と改稿後の作品をどう分析し、どう判断すればよいかなどを論じます。
内容としては「出来上がった作品、出来上がるだろう作品をどう評価すべきか」「なんらかを比較して評価したい場合はどうすればよいか」「誤字脱字をどう発見するか」を論じます。
それから筆者は「推敲や見直しはいつでも好きな時に行えばいい」という考えです。また「妥協したいときはさらっと妥協するべし」という考えもあります。あらかじめご了承ください。
ではまず「出来上がった作品、出来上がるであろう作品をどう評価するべきか」について説明しましょう。
先ほども書きましたが「推敲」「見直し」というのは、作品制作後はもちろん、作品制作中、プロット制作中などいつでもどこでも行なってもかまわないし、行なうべきというのが筆者の持論です。
そのため「推敲などの作業で大切なことは自分の作品をどう分析するか」です。これを踏まえると推敲では以下のことを重点に分析しましょう。
①感情を受け取る回数はいくつか?
②感情の大きさはどのくらいか?
③感情を受け取るタイミングは適切か?
④ユーザーのストレスは大きすぎず、緩和しているか?
⑤ユーザーの資質に相応しい描写か?
⑥長所と欠点を把握しているか? 改善は可能か?
⑦ジャンル被りで無駄な労力を払わないか?
⑧企画書に相応しい作品であるか
と言ったところですね。
まず①~⑤は『描写構成』でも述べたことです。つまりシナリオの質の確認です。これを『企画書』など組み合わせて分析し、「自身が判断した合格ライン」に達しているかどうかを判断しましょう。
もし「コンセプトと違ったけどおもしろい」などとなった場合も「よい」「悪い」を判断するのは創作者です。あらかじめ「コンセプトから多少はズレてもいい」「想定より長編になったけどこの程度は許容できる」などと制作前、制作途中で「許容できることを書く、考えておく」ことをオススメします。
⑥の「長所と短所を把握して推敲する」こことも大切です。
例えば作品に「設定を描写しまくってユーザーに大きなストレスを与えるストーリー(シーン)がある」という欠点を持っていたとします。しかし「そのストーリーで設定を描写したおかげで、エンディングのストーリーではユーザーが間違いなく大号泣する長所がある」という場合は、容易に修正するなんてできません。
こういったように「欠点を改善したが同時に長所を改悪していた」なんていう本末転倒すぎる改稿を行なうことは絶対にやめましょう。こういったことを避けるにはまず「制作した作品の長所と短所を把握しておかないと話にならない」のです。
そうした欠点を改善する場合は「長所に悪影響がないか」「設定の描写が不足した部分をどう改稿の際に補うのか」といったこともきちんと考えましょう。
⑦の「ジャンル被り」と書かれていますが、筆者的に言うとこれは「盗作」「パクリ」といったことに注意しようということになります。意図的でなくとも「盗作」「パクリ」となってしまえばそれは「盗作」「パクリ」としてしか扱われません。
似た話で、あまりにも他の作品と設定やストーリーの流れが似通っていて「名作の完全劣化品」などとなってしまうことにも注意しましょう。こうなった場合はその作品と嫌でも比べられます。
なお「そんな評価をされてもどうってことない、わかっているユーザーはクオリティを純粋に評価してくれる」などの考えを一欠片でも持っていた場合は、捨て切りましょう。
何故ならそれはユーザーに対しての甘え以外の何物でもありません。
これらは「心が激しく動く感情」を求めているユーザーに「飽きてしまった感情で揺さぶられない」のに「評価してくれ! 頼む!」と土下座しているようなものです。それでも大丈夫だと挑戦する創作者は天才か奇人かの紙一重の存在です。
また上記は「ユーザー評価点が非常に高くなっていて要求されるクオリティが高くなっている」から不利すぎるというのもあります。
それ以上に恐ろしく注意するべきのが「一週間リンゴを食べ続けて飽きる現象」のごとく「この感情を味わうならあの名作を読めばいい、なのでこの作品はゴミクズ」という評価です。
この評価はまず「創作者の技術力や発想力うんぬんの評価ではない」ので「技術力が低い」「発想力が貧困」などの間違った自己分析をしないようにしましょう。上記の問題に直面した場合の正確な分析は「情報収集能力の鍛錬不足」「情報収集の失敗」などが正しい分析に近いのではないかと思われます。
昔に読んだ創作本で「小説大賞の選考委員をしていた際に、ネタが9割被っている作品が二つ投稿され、描写がわずかにうまいほうを受賞させることになった」という恐ろしい話もあったりします。「ジャンル被り」ならぬ「ネタ被り」は身近なものだと認識したほうが無難だと思われます。
以上の理由から⑦を推敲した際に「ジャンル被りがあまりにもひどくひどい評価しかされない」となった場合は「すぐさま大改稿およびプロット大変更をするべし」だと考えます。
続いて「⑧企画書に相応しい作品であるか」ですね。
これは単純に「最初に自分が作りたかったものが作れているか?」です。アマチュアでも大切ですがプロでも大切です。
具体的には『企画書』などでターゲットのユーザー層がずれてないかの確認などがありますね。それに自身が「頭の中で描いたことをどれだけ実現できているか」という創作力を確かめることもできます。
制作している作品、制作した作品の修正や改稿などはもちろん、今後の創作活動に生かすといいでしょう。
ちなみにプロならこんなやりとりでもしているのではないでしょうか。
「作家ちゃ~ん。ツンデレの出てくる小説を書いて―」
「編集さん任せてくださいよ、ぐへへ」
「(作品を読んで)……ツン、デレ?」
「99%をデレにぶち込んでみました(ニコっ)」
「表出ろゴラァ!」
「どうして最後の情熱的なツンがわからないんだ! あんたって人はぁ!」
とまあ、こんな失敗があったりするんじゃないかなあと想像したりします。
また筆者の論じた『企画書』と制作した作品を比べて評価してもらうのも、違った視点から分析するという意味ではオススメできます。
少し話がずれるかもしれませんが。
友人や創作仲間に作品単独を読ませたりしても「おもしろい」「もっとこうしたほうがいい」という評価をもらえるでしょう。想定より不十分な評価しかもらえないかもしれません。感じたことだけを教えてもらうわけですからね
しかしそうした際に『企画書』などのように「創作者の制作意図」をしっかり把握しつつ作品を読むことで具体的な助言をもらいやすくなるかもしれません。
例えば「シナリオ②だけこんなふうにユーザーはストーリーを把握していない」「シーン1と2を入れ替えて描写したほうがいい。何故なら~」などですね。
それに「あえて欠点を残している」などの「意思表示が明確になっているほうが分析をするほうもやりやすい」でしょう。無駄な指摘をする必要がないので分析の労力を違う部分に注げます。
こういったように、投稿をする前に友人に読んでもらうなどをしてもらえる環境であるなら、読んでもらった後に『企画書』のようなものと比べてもらうのも一興かと思います。
その際はできるだけ「短く、わかりやすくまとめて負担を軽減しておく」という配慮も忘れないようにしましょう。
次は「なんらかを比較して評価したい場合はどうすればよいか」という見直しや推敲について論じます。
こういった状況の具体的な例を上げると「ツンデレとクールデレのキャラクター、どちらをヒロインとして扱うべきか」などの「アイディアを比べるとき」などがそうですね。
究極的なことを言えば個人の好みじゃねーか、というのはまさにその通りです。
ただし、これはどれも等しい技量で描写ができたらの話ですし、作品の想定したユーザー層の視点で考えれば「ツンデレ大好き層」と「クールデレ至高層」と分かれるのが人間です。
これらを可能な限り「客観的に比べて相応しいものを選ぶ方法」を用意しておきましょう。
具体的な方法として、筆者の方法としてはこんな方法があります。
①長所や短所などの要素を分析し、それぞれを比べて結論を出す
②選択肢を増やしてみる
③「ペア式順位法」を使う
④自分の感性をフル活用する
といったものがありますね。④はやけっぱちですけどね。
では①から説明しましょう。
①はまず「アイディア1の長所」「アイディア1の短所」「アイディア2の長所」「アイディア2の短所」といったように「アイディアを構成する要素を細かく分析し、比べられるようにする」ことを行ないます。そうやってから長所短所それぞれを比べたり、あるいは総合的な評価をして比べます。
つまり「感覚的な評価で比べることを避ける」「可能な限り理論的な評価で比べる」という2つの意識が大切だということです。感覚的というのは「個人の好みや感性」などという独りよがりなものが不必要に発生しがちです。そういった不必要すぎる「個人の好みや感性」を排除しつつ考えましょう。
もちろん「長所」「短所」だけでなく「発想の実現性」「アイディアに対する自分の表現力」のような項目を作って分析していくのも良いでしょう。
具体例を出すと「ツンデレ」といったキャラクターがあるとした場合、これを分解するように「性格3:容姿2:過去2:趣味1:シナリオ親和性4」などのように点数をつけたりして、具体的に比較したい要素をそれぞれのアイディアから抜き出して比べましょう。
この際に「性格の部分を重視したい」ならば「性格の点数を2倍にする」などの工夫をしてみるのもいいかもしれません。
そうやってしっかりアイディアを分析してから「長所の優れているアイディアを優先して採用しよう」「短所の小さなものを優先しよう」など基準を決め、アイディアを選んだり、ときには改稿やプロットの修正の判断をしましょう。
次は「②選択肢を増やす」ですね。
これは単純に「既存のアイディアでは決断できない」といったときに使うと有効な方法ですね。あるいは「どちらのアイディアも不足ではないか?」といった際の確認に使ったりするのも有効です。
例えば「ツンデレとクーデレはどちらもヒロインに相応しくないのではないか?」といった問題に直面したら「ツンデレ+クーデレ」「クール+ツン」「お元気娘」「諦観系ロリババア」などのように選択肢を増やします。
こうやってなんとかひねり出したアイディアを比べて、優れているものを選ぶ、あるいは比較できるようにするという方法です。
次は「③ペア式順位法」についてです。
これは「視覚化してそれぞれのアイディアが、他のアイディアと比べてどれだけ突出して優れているのか」というものを比較する方法です。
具体的にやってみましょう。「ツンデレ」「クールデレ」「諦観系ロリババア」をキャラクター化したとして、それを比較したいとします。
まずは「ツンデレ」と「クールデレ」を比較します。ここでは「ツンデレ」が優れているとして「ツンデレ=1」と加点します。次に「諦観系ロリババア」と比べます。これも「ツンデレ」が優れているとして「ツンデレ=2」と加点します。
次に「クールデレ」と「諦観系ロリババア」と比べます。これは「クールデレ」が優れているとして「クールデレ=1」とします。
すると最終的にこういう評価になります。
「ツンデレ=2」
「クールデレ=1」
「諦観系ロリババア=0」
このように数字で比較できるようにして、それぞれの持つ突出度のようなものを比較するというやり方です。
最後に「④自分の感性をフル活用する」ですが、そのままです。
結局、創作はユーザーに評価してもらうまでは自己満足でしかありません。最大限に自分が「おもしろい」と思ったものを制作しましょう。逆に「おもしろくない」と思ったことは自分がいいと思うまで推敲などを行ない、改良を続ける努力が必要になるということです。
不安であるなら「ライバルになりそうな作品」を選んで自分の作品と比べてみる、なんていうやり方もいいかもしれませんね。
では「誤字脱字などをどう発見するか」について論じます。
ちなみにシナリオ制作ではあまり重点を置く内容ではないと思います。しかしなろうにおいて創作者は単独体制だし、ユーザーには完ぺきな文章を提供したいものです。
そのため自分なりの考えと具体的な方法を紹介します。
まずどうして誤字脱字などが発生するのか。
原因はこんな感じに分けられるのではないかと思われます。
①パソコンでの文章作成は雑になる
②誤字脱字の推敲が甘くなる
というのが原因でしょう。
まずは①から説明しましょう。
どうしてパソコンでは文章が雑になるのかというと指先の動作が原因ですね。手書きで「は」「テ」「漢字」などの文字を書くと指やペンがそれを形作るように動作します。しかしパソコンではどれも「ボタンを押す」という動作しか行いません。
これが原因で「正解でも間違いでも同じ動作なので人間が記憶しにくい」のです。ですから間違えても気づかずに続きを書いてしまうのでしょう。
次は②です。これは「速読」の問題ですね。
人間というのは本を読む際に覚えるのは文章そのものではなく、知識やイメージとして記憶します。苦痛やストレスから逃げたいという生き物です。
そのため大小あれど「知っていることは無意識に読み飛ばす」のです。そして知らない知識を知るときにゆっくり丁寧に読みます。
これが推敲する際に起こっているのです。当然ながら、創作者は作品の書いている内容、書いておきたい内容を完ぺきに把握しているわけですからね。
だから「私はヒロインで~」という文章があるとこれだけで内容を把握し「~」に該当する長い文章を読まないのです。そこに誤字があっても、そもそも読まないのだから把握できるわけがないということです。
こうやって推敲の際に創作者は知らず知らずに速読しています。
そういうことを踏まえて、解決方法はこんな感じのものがあると思われます。
①ゆっくり文章を書く
②文章校正ソフトを使う
③チェックした部分を把握できるようにする
④意図的に自分の読む速度を低下させる
まず①です。
これは「動作を遅くしてそもそも失敗しないようにしよう」というものです。
極端に言えば1字1字を認識しながら書けば間違えません。しかしそうすると制作速度は遅くなる覚悟をしなければならないというのが苦々しい部分ですね。
次は「②文章校正ソフトを使う」ですね。
これは「間違った文法を機械に発見してもらおう」というもの。機械だから人間が使い方を把握していれば「仕様通りの間違い探し」をやってくれます。
もちろん欠点があります。例えばセリフですね。
「同胞よ! 今こそ王城を攻め落とすべきである!」
「同法よ! 今こそ王城を攻め落とすべきである!」
前者が正しい表記でもワードとかの文章校正ソフトだと反応しません。「二字熟語」「人名」などは指摘できないですね。
仮にこれを指摘できるツールがあっても「立花同法」とかいう坊主系キャラがいて後者が正しい表記だった場合、ものすごく邪魔な指摘になります。
こういった点には注意しましょう。
次は「③チェックした部分を把握できるようにする」ですね。
これは人力ですね。要は「間違いなく読みました」というチェックをしておけば探していない部分を見つけることができるという考えです。
ワードでのやり方を例に挙げると「チェックしていない部分の文字の背景の色を変える」などを行なうと良いでしょう。
3回くらいやればまずチェックしていない部分は出てこないのではないかと思います。
次は「④意図的に自分の読む速度を低下させる」ですね。
これは読み直すときの意識の仕方を変えるやり方です。無意識に読み飛ばしてしまうなら「意図的に読み飛ばさないようにしよう」ということです。
具体的なやりかたとしては「5文字ずつ読む」「7文字ずつ読む」などのいわゆる「ブロック読み」を意識し、速度を強制的に下げるという方法があります。
あとは「文末から読む」「逆さにして読む」など強制的に1文字ずつ読めるように「普段は絶対にしない読み方をする」という方法で速度を落とし、誤字脱字を見つけるという方法があります。
こういったように「間違いを書かないように動作をゆっくりする」「推敲する際に読む速度を意図的に低下させる」ことを行なえば誤字脱字は修正しやすくなると思います。
以上で講義⑥は終了です。
これで完結になります。いやー長かった。
改稿するかもしれませんが、その際はまず「書いた内容をほぼ変えない」「読みやすいようにするだけの修正」なので、参考にしたいときにだけ創作論を読み返してくれれば大丈夫です。
創作者さんたちの制作に役立っていることを切に願っております。
それではお疲れさまでした。
●推敲では以下のことを重点的に分析しよう。
①感情を受け取る回数はいくつか?
②感情の大きさはどのくらいか?
③感情を受け取るタイミングは適切か?
④ユーザーのストレスは大きすぎず、緩和しているか?
⑤ユーザーの資質に相応しい描写か?
⑥長所と欠点を把握しているか? 改善は可能か?
⑦ジャンル被りで無駄な労力を払わないか?
⑧企画書に相応しい作品であるか
●推敲する際にはあらかじめ許容できることを考えておく
「コンセプトから多少はズレてもいい」
「想定より長編でもこの程度は許容できる」など
●作品の長所と短所は把握して推敲しよう。
「短所を改善したらいつのまにか長所が消滅していた」などはNG。
●「ジャンル被り」でひどい評価しかもらえそうにないなら
「大改稿やプロット大変更」を検討するべし。
●『企画書』などと制作した作品を比べて
「頭の中で描いたことをどれだけ実現できているか」という
創作力を確かめよう。
作品の修正や改稿、今後の創作活動に生かすべし。
●友人などに推敲や試し読みをしてもらうなら
『企画書』などで「創作者の制作意図」を理解させておくのも一興。
具体的な改善点を聞きやすくなるかもしれない。
●比較して評価や分析などしたい場合は以下のことを意識する。
①長所や短所などの要素を分析し、それぞれを比べて結論を出す
②選択肢を増やしてみる
③「ペア式順位法」を使う
④自分の感性をフル活用する
●誤字脱字などが発生するのは以下が原因と思われる
①パソコンでの文章作成は雑になる
②誤字脱字の推敲が甘くなる
●誤字脱字の対処は以下のような方法がある
①ゆっくり文章を書く
②文章校正ソフトを使う
③チェックした部分を把握できるようにする
④意図的に自分の読む速度を低下させる




