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魔法使いと皇の剣  作者: 123
2章 戦乱の序曲
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梟の巣

 ロスティンに導かれ、ミエラ、アイリーン、アイシャの三人は月明かりの下を慎重に進んでいった。


「おい、足を止めるなよ。道半ばで逃げるつもりなら、それ相応の代償を払ってもらうからな。」


 ロスティンが振り返り、軽い口調で忠告する。アイリーンは鋭い視線を向けながら、反射的に言い返した。


「うるさいわね! 逃げるつもりなら最初からそうしてるわよ! 話し相手が欲しいなら自分と会話してなさいよ!」


 ロスティンは口元に笑みを浮かべ、短く

「はい、はい」と答えるだけだった。アイリーンが苛立ちを募らせる中、ミエラはチラリと横を歩くアイシャをみていた


 声を発することなく無表情で歩くアイシャは、仲間であるロスティンと馴れ合う事なく、ただ無言で歩を進めていた。


 ミエラはそんなアイシャに気を使い、話しかけようとした矢先、ロスティンの静止する声で行動を止めた。


「とまれ」


 ロスティンの低く静かな声が夜の静寂を切り裂いた。ミエラ、アイリーン、アイシャの三人は一斉に足を止め、緊張感が張り詰める中、周囲を警戒した。


 彼らの目の前には、ボロボロになった外壁が並ぶ、まるで時間に取り残されたかのような古びた建物が連なっていた。


 その建物の間には、ごみや瓦礫が散乱し、月明かりの下でも薄暗く、不気味な雰囲気を醸し出している。


 さらに目を凝らすと、地べたに横たわる人影がいくつか見える。しかし、それらの人物たちはほとんど動かず、ここが生気を失った場所であることを物語っていた。


 ミエラたちは、さっきまで自分たちがいた地区と、この場所が同じ国にあるとは信じがたい思いで辺りを見回した。


「ここが……目的地なの?」


 アイリーンは警戒に満ちた声でロスティンに問いかけた。ロスティンは彼女の質問に答えず、手で制するような仕草を見せた後、建物の間に注意深く視線を走らせた。


「ここが入り口だ。んでこの先にあるのが、俺たちのアジトだ」


 ミエラはロスティンが入り口と言った場所みたがただの区域をわける壁にしか見えなかった


 ミエラ達の反応を楽しむかのようにロスティンは近くに寝転んでる男に声をかけると


「なんだよ⋯こっちは寝てんだ。何か食わせてくれんねか?」


 寝ていた男は不機嫌そうにロスティンに告げると彼は何の迷いもなく、手を打ち鳴らしながら短い合言葉を口にした。


「野ネズミで良ければ」


 すると寝ていた男は俊敏に身体を動かしナイフをそびえ立つ壁の隙間に差し込むと、音もなく隠されていた仕掛けが作動した。まるで生き物が動くように、古びた壁の一部がゆっくりと開き、暗闇の中へ続く細い通路が現れた。


「ほらよ、通りたきゃさっさと行けや」


 男は吐き捨てるように言いながら、また地面に倒れこむと、そのまま寝返りを打った。どうやら、彼の役目はこの隠し扉を開けるだけらしい。


 ロスティンは軽く肩をすくめながら、ミエラたちに視線を向けた。


「ほら、お嬢さんたち。これが俺たちの歓迎の儀式ってやつさ。さぁ、躊躇せずに行こうぜ。さもないと、ここで野ネズミを食わされることになるかもしれないぞ。」


 ミエラはロスティンの軽口に微かに眉をひそめたが、視線を隠し扉の奥へ向けた。そこからは冷たい空気が流れ出し、微かな湿気と鉄のような臭いが漂ってくる。


「……歓迎の儀式にしては、随分ね」


 アイリーンが皮肉交じりに呟くとロスティンはその言葉に苦笑を浮かべた。


「俺たちは華やかな舞台を用意するような連中じゃない。地味でも仕事は確実さ。」


「私はここを知らない⋯」


 アイシャは短く呟き、迷いのない足取りで隠し扉の中へ進んでいく。


「ちょっと待ちなさいよ!」

 アイリーンがその様子に慌てて後を追う。


 ミエラは二人を追いかけながらも、周囲を警戒することを忘れなかった。


 ロスティンは何故か前にはいかず後ろからついてきたが、その表情は余裕そのもので、何かを企んでいるようにも見える。



 通路は狭く、天井は低い。壁には粗雑に作られた支柱が所々に立てられており、崩れそうな不安定さを感じさせる。


「ほんとに大丈夫なの?この通路、今にも崩れそう」


 アイリーンが疑念を口にするとロスティンはその質問に対し、気軽に答えた。


「さぁな、住むわけじゃないんだ。むしろ何かあった時に全員道連れにできるだろう?下手に暴れることもできないしな」


「……何かあったら暴れてやるから」


 アイリーンの声には苛立ちが滲む。


 ミエラは静かに後ろを振り返り、二人のやり取りを制した。


「喧嘩している間にアイシャが行っちゃうよ。アイリーン」


 しばらくそんな二人のやり取りを前で聞きながら進むと、通路の先に明かりが見え始めた。


 やがて広い空間にたどり着き、そこには大小様々なテーブルや椅子が並び、思っていたより多くの人々が騒がしくしていた。


 部屋の中央には大きな書簡が広げられており、それを囲むように数人の男たちが何やら議論を交わしている。


「ようこそ、俺たちのアジトへ!」


 ロスティンが手を広げて言うと、周囲の人々が一斉に彼に注目した。その視線の中には警戒心や敵意が含まれていたが、誰も声を上げることはなかった。


「ここの連中は、お前たちが客なのか、それとも餌なのかを見極めようとしてるだけさ。」


 ロスティンが冗談めかして言うと、アイリーンが苛立たしげに返した。



「気分が悪いわね。」


 ミエラは冷静に周囲を観察しながら、ロスティンに問いかけた。


「ロスティンさん達のボスは何処にいるんでしょうか?」


 ミエラの問いかけは別の声によって遮られた


「アイシャ!お前無事だったのか⋯!」


 その声の主はミエラよりやや年上ぐらいの短い金髪にソバカス顔の青年だった。全身黒いの服装をしていたが、その腰元にはロングソードを携えていた。


 青年の顔は驚きと安堵で見開かれ、その表情はまるで失われたものを取り戻したかのようだった。



「カイード⋯」


 アイシャはバツが悪そうに青年の名前を呼ぶと


「お前を一人残して悪かった⋯ただ本当に無事で良かった⋯だが何でお前が標的の竜族と一緒にいる?」


 カイードと呼ばれた男はミエラ達を睨みつけ、その視線は驚き共にロスティンへと止まった。


 ロスティンはその光景を見ながら口元に薄い笑みを浮かべた。


「ほら、再会を祝して抱き合えばいい。もっと劇的な感じで」


「……ロスティン。何故あんたがこいつらといる⋯!!」


 カイードはロスティンの軽口を冷たく返しその顔を睨みつけていた。ミエラとアイリーンは戸惑いながらも、黙ってその様子を見守っていた。


 カイードはアイシャに目を戻し、彼女の状況を確認するように鋭い視線を投げた。その一方で、ロスティンへの疑念は明らかに増しているようだった。


「アイシャ、一体何があったんだ? そいつらとはどういう関係なんだ?まさか、お前が裏切るような真似を…」


 カイードの言葉にアイシャの表情が曇る。

 その沈黙は何かを隠しているようにも、言葉を選んでいるようにも見えた。


「違う…私はただ、皆に逃げるように、国を出るよう忠告する為にいるだけ」


 アイシャはカイードの視線を避け、冷たい声で答えた。


 しかし、その答えは明確なものではなく、カイードの疑念を払拭するには至らなかった。


「国をでろ⋯? 何を⋯」


 カイードは目を細めながらアイシャをじっと見つめ、その言葉の真意を探るように問い詰めた。


「お前、一体何を知っているんだ? 俺たちに何を隠している?」


 アイシャは一瞬目を伏せたが、次の瞬間には冷静さを取り戻し、カイードを見返した。


「騎士団が私を排除しようとしてる。七騎士バスバを狙った仲間が捕まったって聞いた⋯もう国にいるべきじゃない⋯それだけ」


 その言葉には、何かを諦めたような冷たさがあった。ミエラとアイリーンはそのやり取りを黙って見守っていたが、アイリーンは我慢の限界がきたと言わんばかり会話に割り込んだ。


「再会を喜んでる所悪いけど、アンタ達の事はどうだって良いのよ! アタシを狙った理由を聞きにこんな所まで寝る時間も惜しんで来たんだから、しっかり聞かせてもらいましょうか!」


 その苛立ち混じりの声に、カイードとアイシャが一瞬視線を向ける。


 だが、カイードはそんなアイリーンをみて


「理由?これから死ぬ奴が聞いてどうする⋯? 理由はともかく、逃した獲物がいるんだアイシャよくやった」


 そう発するとカイードはすぐ様、ロングソードを抜き去りアイリーンを切りつけようとした。


 ミエラとアイリーンは瞬時の事に対応が遅れアイリーンは何とか首より上は守ろうと防御する事しかできなかった。


 しかしカイードが抜きさった剣筋はアイリーンに届く前に甲高い金属音と共にロスティンがその場に割り込み、ロングソードの刃を軽々と受け止めた。


 ロスティンの手には、彼がいつの間にか抜き放った短剣が輝きカイードの攻撃はその短剣によって完全に止められていた。


「落ち着けよ、カイード。任務に失敗したお前が俺が連れてきた連中をどうしようと言うんだ⋯?まさか半端者は流儀もわからないのか?」


 ロスティンは余裕たっぷりの声で言いながら、短剣を軽く押し返した。その力に押され、カイードは一瞬バランスを崩したが、すぐに体勢を整えた。


 周りの盗賊達も何事かと武器を構える中、カイードは驚きと怒りの表情でロスティンに吠えた


「ロスティン⋯!?あんたこそ任務は別だろう⋯!流儀に反してるのはどっちだ!!」


 カイードは鋭い視線をロスティンに向け、剣を再び構えた。しかしロスティンは肩をすくめながら、短剣を軽く回し、構えを崩さない。


「はぁ⋯これだから半端者は、俺の任務は人探しだ。間接的に利用できるそうだから連れて来てるんだよ。俺は自分の任務の為に動いてる。任務に失敗したお前が、俺の任務を邪魔してるだけだけだぞ?」


「任務だと?」カイードは怒りを抑えきれない表情で詰め寄った。「お前、裏切るのか?」


 ロスティンは笑みを浮かべたまま首を振った。


「なんで裏切りなるんだ?俺はただ、風向きを読んで行動しているだけだ。まぁ⋯お前の反応を見たかったのもあるがな」


 その言葉に、カイードはしばらく動きを止めた。しかし顔には怒りが浮かび、握りしめたロングソードの柄が震えているのが見て取れた。


 アイリーンはロスティンの後ろから体勢を整え、声を荒げた。


「アンタたち、何の話をしてるのよ!アタシを狙った理由を教えなさいよ!それとも、ここで全員道連れにしてもいいの?」


 その言葉にカイードは目を細めたが、ロスティンが先に口を開いた。


「焦るなよ。カイード邪魔はしてくれるなよ⋯?少なくとも俺がここに連れてきた以上はお前にどうこうする言われはない。決めるのはボスだ」


 カイードはしばらく沈黙した後、剣を下ろし、険しい表情でロスティンを見据えた。


「……いいだろう。だが、お前の言うように決めるのはボスだ」


 ロスティンは短剣を回しながら軽く頷いた。


「まあ、それでいいさ。俺も少し疲れたし、ここで聞き役に徹するのも悪くない。」


 周りの盗賊達も状況に戸惑いながらも武器をおろし始めロスティンはそんな重い空気を楽しむように笑みを浮かべ、肩をすくめた。


「まぁまぁ、みんな。そんなに深刻になるなよ。お嬢さんたち、これが俺たち仲間内の小さないざこざってやつさ。見物するには悪くないだろう?」


 その言葉にアイリーンはさらに苛立ちを募らせたが、ミエラが手をかざして彼女を制した。


「ロスティンさん、アイリーンを守ってくれて有難う御座います。貴方のお話に気になる所はありましたが、ボス⋯貴方達の上の方に取り次いで貰えるんですね?」


 ミエラは冷静な口調で切り出した。


 ロスティンはその言葉に満足そうに頷きながら、軽く手を広げた。


「そうだな、お嬢さん。そろそろショーの幕開けといこうか。」


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