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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
08 ダンジョン探索編
98/302

098話 イルアンダンジョン6層


再びウォーカーで探索を続けている。


5層の階層ボス(オーガキング)の部屋を抜け、6層へつながる通路を進んでいる。


マロンによるとこの通路には魔物はいない。

気配消して6層へ降りる階段まで行く。


いる。

赤い奴。

レッドサーペントは休憩中らしく、頭がどこにあるのかわからない。


マロン。何匹いるかな? 1匹? 了解。


その他の魔物は? いない? ありがとう。



「1匹なら儂がやろう」



ウォルフガングに認識阻害を掛けると、ウォルフガングはソードオブヘスティアを抜き、ゆったりと階段を降りていった。


認識阻害の効果もあるのだろうが、ウォルフガングは抜き身をぶら下げているのに殺気を漏らさない。歩いても足音がしない。


あっという間に油断しているレッドサーペントの傍らに立った。


ウォルフガングはレッドサーペントの胴を優しく撫でる。



「ん~~? な~に?」



という感じでレッドサーペントの頭がひょいと出て来た。

ウォルフガングはレッドサーペントの首をバッサリ落とした。


上から見ていて衝撃だった。


ウォルフガングは力を込めて剣を振った様に見えなかった。

スピード重視で剣を振った様にも見えなかった。

そっと剣を振り上げ、そっと振り下ろした。

レッドサーペントは目の前で剣を振り上げられ、振り下ろされるのを、ぼんやりと見ていた・・・ 様に見えた。



「いいぞ」



ウォルフガングの合図を受けて全員6層に降りた。



「いま、なにか変でしたよ」


「何をしたのですか?」



ジークフリードとクロエの質問に、ウォルフガングが答えに詰まっていると、



「『明鏡止水』だな」


ソフィーが横から言った。



「なんですそれ?」


「意味は『邪念がなく澄み切って落ち着いた心の状態』だ」


「良くわかりません・・・」


「レッドサーペントを見ても、慌てない、焦らない、恐れない、侮らない。

 そこに石や草があるのと同じように平常心で見ている。

 剣を振るときも一緒だ。

 だからレッドサーペントは風がそよいだくらいにしか思っていなかったはずだ」


「それって・・・」


「ウォルフは達人の域に達したな」


「まあ、相手が油断している時の話だ。最初からこっちを見つけていればそうはいかんさ」



◇ ◇ ◇ ◇



マロンを先頭に6層の探索を始める。


6層はジメジメした感じ。

天井や壁は洞窟風というよりも剥き出しの岩盤風で、岩盤が水をたっぷり含み、保持し切れない水がしみ出している。

土もところどころあるようだ。


いくらも行かないうちにマロンが立ち止まった。

マロンは一点を見つめている・・・



「下がって!」



私は咄嗟に皆に声を掛け、マロンを抱き抱えてレッドサーペントがいたところ(5層へ上る階段のあるところ)まで走った。



「レッドサーペントが湧いたらお願いします」



そう言うと、私はマロンにディスペルを掛け始めた。


頼む・・・

間に合ってくれ・・・



10分後。

私は元気を取り戻したマロンを抱きしめていた。



「ごめん」


「気付かなかった」


「本当にごめん」


「よかった・・・」



首輪があるのでマロンは遠慮がちにじゃれついてくる。

痛いけど、もっとじゃれついて良いんだよ。



「見える?」    ワウ。


「鼻は利く?」   ワウ。


「聞こえる?」   ワウ。


「手足の感覚は?」 ワウ。


「お腹空いた?」  ウウッ。



マロンによると、6層は匂いが溢れているらしい。

湿度が高いので嗅ぎやすい反面、いろいろな匂いが押し寄せてくる感じ。


そのなかで、今まで嗅いだことの無い匂いがあったので注意していたところ、天井に何かがいることを発見した。


トカゲのような奴。

足が多い。


何だろうと思って見ていたら、体が動かなくなった。



「バジリスクか・・・」


「石化の呪い?」


「天井から冒険者を不意打ちで石化・・・ なんというダンジョンだ」


「舐めたマネをしやがって・・・  絶対に敵を取る」



珍しくソフィーが腹を立てている。

口調が貴族の妻らしくないのですが。



「マロンの索敵と互角の探知能力でしたからね。全員で索敵をお願いします」



そう言って一歩ずつ前進。

わたしは広く、浅く、鑑定しながら進んでいる。


天井に鑑定に引っ掛かる奴がいる。

多分、さっきいた場所より我々に近づいている。



「います」

「見えてる」



ソフィーには既に見えているらしい。


ソフィーは剣を杖代わりに何かの魔法を使った。

ソフィーは完全に魔法使いに転職したらしく、全ての魔法を無詠唱で予備動作なしでぶちかます。


今回使った魔法は、名前は知らないが、辺り一面の水分を凍結させるものだった。


突然洞窟内の温度がガクンと下がった。

と思うまもなく、洞窟内に霧が立ちこめた。

見る見るうちに天井、壁、床の水分が凍り付く。


天井にへばりついていたバジリスクは、たくさんある足が天井に凍り付き、身動きが取れなくなり、そのまま体の芯まで凍り付いた。


近づいて天井を見上げる。

吐く息が白い。


バジリスク。

体長50cmほど。

足が8本。

死んでいる。



こういう奴って解凍とともに生き返りそうだからな。

天井にへばりついているバジリスクの首に剣を突き立てる。

胴と首を切り離されると、バジリスクは床に落ちてきた。


魔石を取り出そうとダガーを持って近づくと、ソフィーが



「触るな!」



と警告した。



「まず鑑定しろ」



種族:バジリスク

年齢:1歳

魔法:石化

特殊能力:無し

脅威度:B



ソフィーに鑑定結果を伝えるとホッとしたようで、



「魔石を回収して良い」



と言った。


バジリスクは猛毒を持つ個体がいるらしく、その場合、解体には専用の装備が必要になるという。

なんかそう言われると解体したくなくなる。


バジリスクの魔石は、体の大きさに比べると驚くほど大きく、無色透明の美しい魔石だった。



◇ ◇ ◇ ◇



マロンを先頭に、そぉ~っと6層の探索を進める。


マロンに言わせるともう大丈夫。

バジリスクより遥かに先に探知出来る、とのこと。



6層の特徴は魔物が待ち受ける部屋が無いこと。

ジメジメした一本道を進む。


そんな中、やや通路が広くなった場所があった。

見覚えのある赤い奴がいる。

1匹。

中ボスのようにたむろしている。


そしてマロンが注意を促す。

レッドサーペントの背後の天井にバジリスクがいる。



「任せろ」



そうソフィーがぼそりというと、やや広めの通路に霧が立ちこめ始めた。

異変を感じたレッドサーペントが動き始めたが、動きが遅い。

ソフィーが睨みつけるとレッドサーペントが動かなくなり、表面が白くなり始めた。

レッドサーペントの体内温度が氷点下に下がったらしい。


魔法を止めて貰い、クロエがレッドサーペントの首を落とし、ジークフリードがバジリスクの首を落とした。

このバジリスクは毒を持っていた。



6層の探索は亀の歩みの速度だが、順調に進んでいる。

時折レッドサーペントとバジリスクのペアが出てくる。


マロンが魔物を探知し、ソフィーが凍え殺す。

魔物が気温の変化の影響を受けやすい爬虫類ということもあるだろう。

安定して魔物を退治していく。


ソフィーが操る冷気の魔法は火魔法や土魔法と違って目に見えない為、魔物達は気づいたときには手遅れになっている。

特にバジリスクは体が小さいので、芯まで凍り付くのが早い。


最初だけマロンを危険な目に遭わせてしまったが、それ以降は安全運転で進んだ。



◇ ◇ ◇ ◇



階層ボス部屋らしき部屋の前にいる。

6層で出て来た最初の部屋の前だ。



「これまでの傾向から、この中にいるのは蛇かトカゲの類いでしょうね」


「ヒドラじゃなければ良いが」


「開けるの止めますか?」


「パーティオーナーのお前の判断に従おう」


「開けるの一択で」



扉を開けた。


中にいたのはたったの1匹。

全長3mほど。

赤いトカゲ。


鑑定。



種族:クリムゾンリザード

年齢:1歳

魔法:無し

特殊能力:全身毒

脅威度:B



「クリムゾンリザードです。脅威度B。全身に毒があります」



すぐにウォルフガングの指示が飛ぶ。



「噛まれるな。引っ掛かれるな。 唾液や涙も毒だ。血は猛毒だ」


「ビトーとマロンは待機」


「マロンは毒にやられた奴を後方へ運ぶ役」


「ビトーは解毒・回復に専念」


「前衛は大楯で専守防衛」


「ジークは絶対に盾術を使うな」


「はっ」


「ソフィー、体液が飛び散らないように凍結」


「はっ」



ソフィーは返事と共にクリムゾンリザードを冷やし始める。

一気に部屋の気温が下がり、クリムゾンリザードを中心とした空間に霧が発生する。

クリムゾンリザードが異変に気付いたときには4本の足は床と一体化して凍結しており、自由に動き回れなくなっていた。


このまま完全に凍結するまで待とうと思っていたら、クリムゾンリザードは唾を吐いた。

マミーみたいな奴だ。


唾は空中を飛んでいる内に凍り付き、小石みたいになって床に落ちた。


奴の抵抗はそこまでだった。

赤いトカゲがビッシリと霜を纏い、白いトカゲになったところでウォルフガングが首を落とした。



「さて・・・」



ウォルフガングはクリムゾンリザードの死骸にソードオブヘスティアを向け、出力を調整しながらジワジワと焼き始めた。

頭も胴も焼いた。

奴が吐いた唾も焼いた。


魔石だけ残った。


ソードオブヘスティアの先端で魔石を引っかけ、待機する我々の方へ転がした。



「ビトー、まず洗って毒を落としてくれ。それから鑑定してくれ」



言われるままに傷を洗浄するように魔石を洗浄。

猛毒が付いているとイヤなので3回洗浄。


そして鑑定。



種類:クリムゾンリザードの魔石

属性:無し

魔法:解毒

特殊能力:所有者の魔力を込めると治癒魔法:キュアを使える



これは、これは。


凄い魔石ですね。

しかも使い捨てではない。

全冒険者垂涎のアイテムじゃないですか。



「どうだ?」



鑑定結果を伝えると、ウォルフガング以外の皆さんが目の色を変える。

ソフィーでさえ知らなかったらしい。


私が預かった。




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