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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
06 メッサー脱出編
63/302

063話 ラミアの事情


レイに聞いてみた。

最近ラミア達が気に入って食べているのはなに?



「プランテンとヨーグルトはいつも通りね。それ以外は瓜かな」


「売ってるところは知ってる?」


「うん。一緒に行こう」



案内されたのはメインストリートから一本入ったところの果物屋。

フルーツショップ。

この世界でフルーツ専門店? 商売になるのだろうか。


売っていました。瓜。

瓜というよりメロンですね。



「おやじさん。ここに並んでいるのは食べ頃はいつ?」


「三日後だな」


「今すぐ食べ頃の奴はないかな?」


「あるよ。右奥だ」


「果肉は青かな? 赤かな?」


「今は青だな。赤が欲しかったかい?」


「いえ。青が好きです」


「赤は終わっちまったよ」


「じゃあここに並んでるやつ(30個くらい)と食べ頃の全部(10個)下さい」


「なんだって? 持てるのか?」


「ええ。何とか」



そう言ってレイに目配せをすると、レイが親父と話し始める。

その隙に背負い袋にどんどん入れた。


他のフルーツを見る。

暗紫色のダチョウの卵のようなフルーツがある。マンゴーだろうか?



「これも下さい」



もちろんプランテンも山盛り買って御代を払った。


途中、ヨーグルトの大瓶も10本買い求めて、レイとマロンと古森へ向かった。



◇ ◇ ◇ ◇



古森の入り口でユミの出迎えを受けた。


アイシャに挨拶をした。



「久しぶりね」


「ご無沙汰をしております」


「なかなかのご活躍だったみたいね」


「ご存じでしたか」


「聖牛というのは面白いわ。どうしてあんな物を知っているのかしらね」


「一体アイシャ様の情報網はどこまでカバーされているのですか?」


「ふふっ 必要な情報は常に集めていますわ」


「私に必要な情報はございますか?」


「それはハーフォードのこと? それともメッサーのこと?」



一瞬言葉を失った。


ハーフォードで私が知らねばならぬ、そして見落としている情報があるのだろうか?

呆然としている私にアイシャが微笑みかけた。



「今はメッサーの事ね」


「はい」


「では舟を出しますのでアレクサンドラのところへ行きなさい」


「はい。ではその前に・・・」



背負い袋に入れてきたプランテン、メロン、マンゴー、『ハーフォードの月』を出す。



「メロンはこちらが食べ頃です。こちらは3日後に食べ頃になります」


「あら、瓜に食べ頃なんてあるの?」


「ございます」


「教えてくれなかったわね」



アイシャがギロリとユミを睨む。

ユミは固まって動けない。



「アイシャ様。これは知らないとお教えすることができませぬ」


「なぜユミは知らないの?」


「ユミもレイも私も貧乏だからでございます」


「どういうこと?」


「メロンは金持ちの食べ物でございますれば」


「お前はなんで知ってるの?」


「会社の同僚に聞いたことがございます」


「かいしゃ?」


「はい。昔その様な場所で働いたことがある、とご理解下さい」


「お前にはまだまだ秘密がありそうね」



それから「飲み過ぎに注意してくださいね、痛風によくありません」と言って『ハーフォードの月』の栓を抜き、グラスに注いだ。



「私が毒見をいたします」



そういってエリスが受け取り、口を付けた。

一瞬エリスの動きが止まった。

口の中、隅々まで酒を行き渡らせ、うっとりとしている。


その後 「ぐびびびびっ」 とグラスを一息で飲み干した。



「ちょっ! エリス、お前っ!」


「族長、申し訳ございません。もう少し毒味が必要かと」


「グラスを離しなさいっ!」



すったもんだの後、アイシャがうっとりとした表情で瓶を抱え込んでいた。



「こんなにうまい酒があるとは知らなかった。もっと持ってきなさい」



『レントの誉』、『ハミルトンの雫』も出すと、ラミア一同ド宴会になった。



「あの皆様、そんな勢いで飲まれますと、あっという間に無くなってしまいます」


「大丈夫よ。ヒックスとの交易品に指定すればいいんでしょ」


「このお酒はハーフォードで求めました。いずれもハーフォード領内でも幻と言われるほど貴重な物でして、ヒックスで入手するのは困難かと」


「お前がハーフォードと古森を毎日往復すれば良い」


「アイシャ様、目が据わっておられて怖いです」



とりあえずユミのためにもアイシャの機嫌が直って良かった。


ミューロン川を渡るのは明日にした。



◇ ◇ ◇ ◇



ミューロン川を渡っている。

いつも通りシャロンに小舟を押してもらっている。

小舟には私とマロンが乗っている。



「その後お変わりありませんか?」


「以前に比べて川渡りをする頻度は増えたわね」


「それは私のせいでしょうか?」


「そうねぇ。間接的にはそうかもね」


「大変申し訳ありません」


「いいのよ。族長の命令だからね。族長が必要と判断したら何度でも渡るわ」



そんなことを話しながらのんびりと川を渡った。



岩の森に着くとまずはアレクサンドラに挨拶。


そして背負い袋に残っているプランテン、メロン、マンゴー、ヨーグルトを全て出す。

岩の森のラミア達は嬉しそうだった。

岩の森では直接人間と交易をしていないので、古森のように贅沢に食べられないと嘆いていた。



三種の酒。 『ハーフォードの月』、『レントの誉』、『ハミルトンの雫』。


いずれも2瓶ずつ背負い袋の中に残し、それ以外を全て出した。



「これは何?」


「酒でございます」


「酒はわかるけど」


「それぞれ『レントの誉』、『ハミルトンの雫』、『ハーフォードの月』という名のハーフォード領の銘酒でございます」


「私たちには蛇酒があるがの」


「はい。たまには目先の変わったものを味わってみたくなるときもございます。その様な時におすすめします」



アレクサンドラがもう一つ信じていない感じがしたので、『ハーフォードの月』を一本抜いて、毒味をして、アレクサンドラに勧めた。


アレクサンドラは一口飲むと、しばらく私を見ていた。


そして黙々と飲み始めた。



「・・・・」


「あの・・ アレクサンドラ様?」



アレクサンドラはだまって空のグラスを突き出した。

促されるまま注ぐと黙々と飲んでいる。



「族長?」



ペネロペが問いかけるがアレクサンドラは顔を逸らす。



「皆の衆、族長が乱心じゃ!!」



ペネロペの掛け声とともにラミア達がワッと族長の家になだれ込み、ド宴会が始まった。

すっかり上機嫌になったアレクサンドラに捕まり、乳房の谷間で弄ばれた後、ペネロペを交えて打ち合わせに入った。

メッサー冒険者ギルドの情報は、ヒックスで聞いてきた内容と同じだった。


ミリトス教会が治癒能力を失ったのも確実のようだ。



「もともと下っ端がロクな治癒能力を持たないのはわかります。ですが、枢機卿や大司教クラスはいかがでしょう?」


「その辺も治癒能力を失ったと聞くの」



ということは、ハーフォードで行った解呪が地味に効いているのかもしれない。



「メッサーでギルド長を襲ったのはレッドサーペントで間違いないでしょうか?」


「うむ。間違いない」



レッドサーペントが出て来たら私が潜入しても死ぬだけだ。



「で? お前はどうしたい?」


「メッサーへ赴き、師を救出したいと考えます」


「一人で行く気か?」


「ラミアの皆様の御力をお借りしたく存じます」


「報酬は?」


「私の力で皆様が満足されるのは治癒だけです。既にアイシャ様経由で伝わっているかと存じますが、ご要望あらばこのビトー、いつでも駆け付ける所存です。

足りませぬか?」



私がどれほど凄んだところでラミアに対して屁のツッパリにもならない。


だが、それでも精一杯声を張って睨みつけるようにしていうと、アレクサンドラが私を優しく抱き寄せた。



「それで良い。お前の口からそれを聞きたかった」



断られたら行けるところまで一人で行ってみるつもりだった。

安堵から全身の力が抜け、震え始めた。

アレクサンドラの上半身にしがみつき、自分から彼女の胸に顔を埋めた。


しばらくしてアレクサンドラが話し始めた。



「それにな。冒険者がサーペントと戦って討伐するのは構わぬ。それは自然の摂理じゃ。だが我らに断り無くサーペントを集め、己のくだらぬ目的のために使役するのは容認できぬ。それがいくら “あやつ” だとしてもだ」


「サーペントたちがどこに匿われているのかおわかりなのですね」


「そうだ」


「そして下手人の目安もついておられるのですね」


「そうだ」


「それはあえて伺いません」


「その方が良い。あやつに関わった人間は廃人になるといわれておる。お前もメッサーへ行ったときは関わらぬよう注意せよ」


「はっ」



それからメッサーへの行程、移動の足、同行するメンバーの選定、冒険者ギルドへ潜入方法、対象を連れ出す方法、対象の人数、サーペントの解放、メンバーの合流など、詳細を詰めた。


いつもは3人一組で自由に行動するラミアだが、3人組の基本は守りつつ、今回は複数のパーティが参加するので総指揮を置く。


総指揮官はペネロペ。


そしていつもは素手のラミア達が、今回はショートソードを携行する。

ショートソードとは言っても私が使うようなヤワな小刀ではない。

私の感覚では、驚くほど刀身が厚くて長い鉈だ。


そして岩の森とメッサーの中間地点まで予備隊を展開する。



予備隊を含めた岩の森の総指揮はアレクサンドラ。



私はラミアに背負われて行軍することになった。


マロンは岩の森に止まるよう説得された。




脅威度A(災害クラス)の実力を誇るラミア達がここまで人数を掛け、準備する相手。


一体何者なのか。




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