062話 メッサーの噂と叙爵
レイから便りを受け取った。
メッサーの冒険者ギルドで職員が襲われ、ギルド長の身に何かあったようだ。
師匠は無事らしいが、職員が減って窮地に立たされているらしい。
自分に何が出来るだろう。
考えがまとまらないのでハーフォードの街を歩いた。
初めてハーフォードの領都の商店街を見て回った。
ここにはヒックスとは別の良さがある。
ヒックスは国際交易都市なので、街全体が華やか。
一方ハーフォードは質実剛健。
国内外トータルの商品の品揃えの豊富さ、高級感はヒックスの方が上だが、国内産の品揃えはハーフォードが上。安さもハーフォードが上。
そして初めて見る商品もある。
私はこの世界にきてから逃げ回るばかりで情報収集が足りていないことを痛感した。
もっと早く見て回るべきだった。
2日後。
ユミから便りを受け取った。
こちらの言葉で書かれていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ビトー・スティールズ様
メッサー冒険者ギルドの情報が入りました。
ギルド長が怪我を負ったという情報があります。
その後、ギルド長の姿を見た者はいません。
ソフィーさんが怪我を負ったという情報があります。
ソフィーさんは怪我を押してフロントに立っているようです。
キルド職員が足りず、ギルドが機能不全に陥っています。
王宮から補充のギルド員が派遣されたそうですが、ノウハウがないため、まともに運営できていないようです。
私にできることはありませんか?
何も出来ないことがもどかしいです。
古森 交易部 ユミ・オークレイ
―――――――――――――――――――――――――――――――――
師匠が傷を負っている。
アイシャ様情報だから間違いない。
自分に何ができるのか。
ハーフォードの街を歩きながら半日考えたが、何も決まらなかった。
自分に出来ることなどたかが知れている。
わかっちゃいるが、私一人で出来ることなど実は何も無いのだ。
こういうときは懐メロだ。
昭和歌謡の名フレーズだ。
『自分の心に素直に生きる』
他人の迷惑顧みず、倫理・自制は放り捨て、自分の下劣な欲望に忠実に生きるのだ。
自分は最終的にどうしたい?
ここハーフォードに師匠を連れてきて、また一緒に仕事をしたい。
毎日お小言頂戴しながらキリキリ働いている自分の姿しか想像できない。
耳や鼻から魂が抜け出ながら草原で討ち死にしている自分の姿しか想像できないが、またそれがいい。
ミリトス教会に殺されるくらいなら、どのような(ミリトス教会の)犠牲を払ってでも師匠を取り戻す。
ハーフォードにおける頼まれ事は完遂している。
ならばもう一度プータローに戻り、メッサーへ潜入し、師匠をブリサニア王国へ連れてこよう。
出来るかどうかはわからない。
だがラミア達の協力が得られれば、だいぶ実現に近づくと思う。
得られなければ自分一人で出来るところまでやる。
駄目だったらそれまでということで。
どうせ無責任にこの世界に放り出された身だ。
好き勝手にやらせて貰おう。
公爵と公爵夫人へお目通りを願い出た。
面会の許可はすぐに下りた。
「閣下、御方様におかれましてはご機嫌麗しゅうございますか」
「うむ。そちも息災そうじゃな」
「ありがとう存じます」
「して、今日はどのような話かな」
「休暇を頂きとう存じます」
「休暇?」
公爵と公爵夫人は顔を見合わせた。
そして理由を根掘り葉掘り聞いてきた。
「友人が苦境に陥っていると知らせがありました。ひとっ走りして助けてこようと考えます」
「その友人とは誰だ?」
「ソフィーと申します。名前を申し上げてもわからないかと存じます。一介の冒険者です」
公爵と公爵夫人が少し離れて密談を開始した。
だが何を話しているのか何となくわかってしまった。
これも鑑定なのかもしれない。
「どこに行くつもりだろう?」
「わかりませんわ。ですがそれを聞いてしまったらお力添えをしないわけにはまいりませぬ」
「そうだ」
「黙って見送るのも悪い手ではございませぬ」
「ビトーが他領に行ったら引き抜かれるのではないか? 既に貴族の間では有名だ。特に此度の解呪について間違いなく王都では噂になっている」
「ええ」
「ビトーの持つ治水に関する知識は我らしか知らぬ。このままハーフォードに落ち着かせたいが、いかが致そうかの」
「今のうちに爵位を与えて取り込んでおくのはいかがですか」
「ふむ。その手が良いか・・・」
密談が終わったらしい。
「ビトー、近う」
「はっ」
「そちを準男爵に叙爵する」
「はっ、 え・・・ あの・・」
「不満か」
「滅相もございませぬ」
「では受けるが良い」
「はっ」
「休暇についてはあいわかった。あす貴族の身分証を授与する。その時に義務について説明させる」
「はっ」
私はハーフォード公爵領の準男爵に就職した。
プータローは回避したが・・・
ソフィーの救出に失敗して他国で捕まった時は、公爵に迷惑を掛けるかも知れない。
う~~む。
ままよ。
自分の心に素直に生きるのだ。
ふっふっふ。
翌日、公爵の側近から説明を受けた。
準男爵とは、領地の経営や政治に参画させるほど優秀では無いが、一芸に秀でる平民を他領に引き抜かれぬようにするときに、よく使う手段だそうです。
貴族の身分証を渡された。
ミスリル製だった。これだけで一財産ではないですか。
身分証の表にはハーフォード公爵家の紋章が刻印されており、裏に
「Baronet、Vito Steels」
と刻まれている。
私が貴族の末端に位置すること、そしてハーフォード公爵の麾下であることが明確にされている。
領地は無い。
世襲は可能だが、公爵の認可が必要。
政治には参画できない。
俸禄は出る。基本給は大白金貨1枚(年俸1億円相当)。
その年の領地の収穫によって多少上下する。
定常業務は無い。
公爵の前に出るときの身だしなみは整える。
年俸1億というと贅沢な暮らしが出来そうに感じるが、一定以上の武力を持つ部下を3名程度雇うことが求められる。
これは護衛のためと、イザと言う時の戦力である。
イザと言う時は、戦力を率いて公爵の命に無条件で従う。
3名なのでたかが知れているが。
貴族街の末端、平民街との境界に屋敷を与えられる。
固定資産税は免除される。
「屋敷の広さに希望はありますか?」
「なるべく小さいのをお願いします」
「どうしてですか?」
「一人者ですので掃除が大変で・・・」
「必要とあらば見合いの席を設けますが」
「拙者まだ修行が足りませぬ故、結婚などと言う大事業は到底・・・」
「・・・」
誤解の無いように補足すると、公爵の側近が結婚を勧めたのは配偶者に掃除をさせるのでは無く、家政婦を雇って配偶者に家政婦を監督させよ、と言う意味でした。
私に下げ渡された家は貴族街と平民街を隔てる壁際にあり、かつ貴族街と平民街の間の通用門に近く、貴族としては最下層の家とのこと。
最下層と言うが、ぱっと見、敷地は500坪。
建物は二階建て。
床面積はたぶん150坪くらい?
風呂付き10LDK(使用人の寝室らしき部屋を含む)という、底辺の私には扱いかねる物件だった。
マロンの部屋は・・・ 一緒の寝室ね。はい。
掃除、どうしよう・・・
私の家が決まったので、公爵に休暇前の挨拶に出向く。
公爵不在のため、公爵夫人に挨拶をした。
「長くとも2ヶ月で片を付ける所存でございます」
「必ず元気に戻るのです。これは命令です」
「はっ」
◇ ◇ ◇ ◇
私の計画はまずヒックスに立ち寄り、最新の情報を入手する。
神聖ミリトス王国への潜入はラミアの河渡しを頼む。
岩の森のラミア達の持つ情報を確認する。
最終目標は師匠の救出&ブリサニア王国への亡命だが、ラミアの協力を得られるか、どこまで実現可能か、そこで判断する。
ということで、ヒックスの両ギルド長とラミアの両族長に渡す手土産を調達する。
先日ハーフォード領都の商店街を見て回った時に目星は付けていた。
「レントの誉」 ハーフォード領北部のレント村名産のウィスキー
「ハミルトンの雫」 ハミルトン村名産のバーボン
「ハーフォードの月」 ハーフォード領南部名産のブランデー
背負い袋 (アイテムボックス)頼みで大量購入。
領都の大店の在庫を全て買い占めるほどの勢いで購入。
公爵に頂いた褒美は公爵領で使って経済を回さないとね。
武器屋をまわったら「斥候の手袋」を売っていたので迷わず購入。
材料と織り方に工夫が加えられた手袋で、薄手にもかかわらず、通常のゴツい籠手よりも防御力が高い。
非常食も思い切って大量買い。
乗り合い馬車でヒックスへ向かう。マロンも乗せる。
よく考えると身分を隠さずに乗り合い馬車に乗るのは初めてだ。
同乗の客を鑑定して怪しい者がいないことを確認し、神聖ミリトス王国の噂を聞く。
すると興味深い情報が得られた。
ブリサニア王国における隠れ信徒の暗躍の情報が各国に拡がった結果、各国でミリトス教を排斥する動きが出ている。
経済面では、神聖ミリトス王国との交易が制限される、神聖ミリトス王国の商品が買い叩かれる、神聖ミリトス王国向けの商品の値段が釣り上がる、といった影響が出ている。
ミリトス教会と繋がりの深い冒険者(過去に何度もミリトス教会の指名クエストを受注したり、守秘義務のあるクエストを受注した者)が、各国の冒険者ギルドから排斥されはじめる、といった影響が出ている。
これらの “汚れた” 冒険者は神聖ミリトス王国に集まりつつある。
ということは、メッサー冒険者ギルドは大変だろうことは容易に想像できる。
ハーフォード公爵領からヒックス直轄地へ入るときに検問所を通るが、冒険者証を見せても何も咎められなかった。
ヒックスの街の西門を入る。
入口で冒険者証を見せると守衛から慇懃に挨拶をされた。
そういえば永久会員証だった。
まず冒険者ギルドに立ち寄った。
いきなりレイをみつけた。フロント業務をしていた。
「ビトー君!!」
抱きついてきた。 と思ったら、マロンがいることに気付いたレイは
「マロン!!」
一瞬で私から離れ、マロンのもふもふをじっくりと堪能していた。
ギルドが空いている時間帯で良かった。
すぐにギルド長室に連行された。
久しぶりにリーと会うと「冒険者だな」という感じを強く受ける。
ハーフォードの冒険者が優しすぎるのだ。
背負い袋から「ハミルトンの雫」(6本)を出して渡す。
「ハーフォードの手土産です」
「おお、すまんな。とても冒険者とは思えぬ心配りだ」
「恐れ入ります」
メッサー冒険者ギルドの噂を聞く。
「最新情報だとギルド長と、何故か受付嬢が襲撃を受けたらしい。
レッドサーペントにやられたギルド長の容態が悪いと聞く。
既に職員も何人か殺されている。
だが犯人が挙げられているとは聞かん」
「現在は王宮から騎士団が冒険者ギルドに詰め、ギルドの治安を担っているらしい」
「ギルド職員の頭数が足りない分は王宮から補佐が出ている」
「だが、なぜ冒険者ギルドが襲われるのか、理由がわからん」
「メッサーの冒険者ギルド長の腕は確かだ。ということは、容疑者は絞られているはずなんだが、捜査が進んでいるという話は聞かん」
「誰かギルド長以外も毒を受けたようだ」
気になったのは
「誰かギルド長以外も毒を受けたようだ」
という情報だ。
ゆっくり情報収集している場合じゃ無いかもしれない。
リーに礼を述べ、商業ギルドへ行った。
実は商業ギルドに行くのは初めてだったが、レイが案内してくれて助かった。
商業ギルドはごった返していた。
ここはいつでもラッシュだそうだ。
レイがラッシュの中を巧みに泳いでギルド長を確保。
初めて入る商業ギルド長室でマーラーに挨拶をした。
「ご無沙汰をしております」
「おお、そちも息災でなによりだ」
「ところで・・・ 私の口からは詳細は語れませんが、ギルド長の読みは当たっておりました」
「おお。それはよかった」
「握らせて下さいました品も抜群の効果を発揮しまして」
「そうであろう」
「御礼と言うには些少ではございますが」
そう言って「レントの誉」(6本)を出す。
「お主、これは幻と言われる・・・」
「『レントの誉』でございます。お納め下さい」
「おお 感謝致す」
マーラーは大切そうに隠し扉の向こうへ収めた。
「ポーションの売り上げは順調ですか?」
「おお、空前の利益を上げ続けておる」
「それはよろしゅうございました。ラミア達のご機嫌はいかがですか?」
「レイ殿のお陰ですこぶる良いぞ。時々ビトーの消息を聞かれるな」
「さようでございましたか」
「ところでポーションについてだがな、少々妙なことになっている」
「妙と申されますと?」
「神聖ミリトス王国への密輸依頼が増えているのだ」
「密輸・・・」
「ミリトス教会に知られないように買いたい、というのだ。金は出す、言い値で払う、と言っておるのだが・・・」
「なるほど」
「あいつら(ミリトス教会)は治癒が自慢だったんじゃないのか? 何が起きているのかわからん。情報が無い」
ということは、いよいよ治癒が駄目になったらしい。
それを民間が感じ取っている。
追い詰められた者は何をしでかすかわからない。 急いだ方が良い。
「では久しぶりにアイシャ様のご機嫌を伺って参ります」
そう言ってマーラーの前を辞去した。




