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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
02 メッサー冒険者ギルド編
23/301

023話 迷宮について

ダンジョンに潜る前にダンジョンの勉強をする。

知識は生還率に直結する。

冒険者ギルドの資料を読み、フェリックスとマロンに話して聞かせる。

他人に説明すると知識は整理される。


冒険者ギルドはダンジョンの資料が豊富だが、系統的ではない。

そもそもダンジョンとは・・・ といった初心者向けの教科書的な物ではなく、


「○○ダンジョンの○階層はこうだった」


「△△ダンジョンの深層で出てくる魔物の特徴は**なので、事前に××を用意していけ」


といった事例集がメインだ。


それでも事例集を読み込んでいくと、朧気ながらダンジョンの全体像が見えてくる。

冒険者ギルドの受付で師匠の横に立ちながら師匠に質問をして、自分なりにダンジョンについて理解していく。



まず用語の説明。

公文書には「迷宮」と記載される。

口語では「ダンジョン」と言われる。

同じものです。


ダンジョンを訳すると「監獄」「牢獄」「拷問室」という、あまりお近づきになりたくない意味が出てくるが、この場合は迷宮を指す。


ダンジョンができる原理はおおよそ以下の通りと考えられている。


洞窟、崖の割れ目、地面の凹みといった場所に魔物の墓場ができる。

魔物の死体に魔力が残っている場合、アンデッドになるか、魔力が抜けて魔力溜まりを作るか、いずれかになる。

魔力溜まりになった場合。一定の量の魔力が溜まると魔力のダンジョンコアが生まれる。

この段階で『生き物』になる。


(なんだか星が生まれる過程の講義を受けているような気がしてきた)


ダンジョンコアは周囲の土地を自分に都合の良いように変質させ、自分のダンジョンを作る。

ひとたびダンジョン化すると地下深く浸食し、ダンジョンが成長する。

山地で発生したダンジョンは上に伸びるケースもある。


ダンジョンの成長は、ダンジョンコアが持つ魔力量とダンジョンの大きさが釣り合うところで停止する。


魔物を討伐した時、死体を焼却しろと言われるのは、魔力を霧散させてアンデッド化を防ぐことと、ダンジョンを作らせないという二つの意味がある。

これは人間も同じで、アンデッド化と墓地のダンジョン化を防ぐため、遺体は荼毘に付される。



ダンジョンは一個の魔物(生き物)と考えられる。

そう考えられる理由はダンジョンに成長と死があるためである。


生きているダンジョンはコアが魔力切れになるまで魔物を生み出す。

ダンジョン内で冒険者や魔物が死ぬとダンジョンが遺体を吸収し、残留魔力を吸い上げ、コアに魔力を戻す。

大勢の冒険者が死んだダンジョンでは、コアに戻る魔力量が増えるため、ダンジョンの階層が増えるなど、更にダンジョンが成長することがある。


コアが破壊されるとダンジョンは活動を停止する(死ぬ)。

死んだダンジョンは単なる洞窟になる。

死んだダンジョンが魔物の墓場になり、魔力が溜まった結果、再び生きたダンジョンになるケースもある。


大変珍しいケースだが、コアを複数個持つダンジョンもある。


コアから漏れ出る魔力が様々な魔物を生み出し、または引き寄せ、強化し、外敵からダンジョンを守るために使役する。



コアによって生み出され、ダンジョン内をうろつく魔物は、ダンジョンの腸内細菌、または自己免疫機能と考えられる。

階層の要所に配置されたボス部屋ボスキャラは、白血球、キラーT細胞、マクロファージと考えられる。


ダンジョン内で死んだ魔物や冒険者はダンジョンに吸収され、コアの栄養になる。

これらは胃腸の働きだろう。


しかし消化しようとしたものの、消化しきれずに残ってしまうモノもある。

ダンジョン内で廃棄された武器や防具、道具類である。

これは人でいうところの胆石や結石のようなもので、再び迷宮内に排泄され、誰かが掃除してくれるのを待つ。

これが迷宮内の宝箱と考えられている。


宝箱は、ダンジョン内に残された遺物をダンジョン自身が長い時間を掛けて「アアデモナイ、コウデモナイ」とこねくり回した挙げ句、消化できずに再びダンジョン内に放り出したものなので、特殊なモノに変質していることが多い。

宝石、レアアイテム、レアポーション、または魔改造された武器に進化している場合がある。


これらは特殊効果が高く、市場に出ると高額で取引される。

元の世界で言えば牛黄や竜涎香のようなモノと考えられる。

もちろん何に使えるのかわからない謎アイテムもある。


多くの冒険者が死んだダンジョンは、宝箱が出る確率が高い。

それも死んだ場所に出る可能性が高い。


宝箱は “THE宝箱” という感じで排出されるのではなく、岩肌の一部のように見えるため、かなり注意しないと見落とす。




セーフティゾーン(安全地帯)はダンジョン最大の謎である。


セーフティゾーンの定義は、魔物が湧かず、魔物が入ってこない場所とされる。

セーフティゾーンでは無防備に寝ていても魔物に殺されることはない。

ただし他の冒険者に殺されることはある!


セーフティゾーン以外では(魔物も冒険者も)死体はダンジョンに消化吸収されるが、セーフティゾーンでは消化吸収されない。

セーフティゾーンで死んで放置された場合、どうなるかは謎である。

師匠に聞いたが珍しく口をつぐんで答えなかった。


セーフティゾーンの正体については様々な議論があるが、ダンジョンが1個の魔物(生物)であるという説を採用すると、セーフティゾーンは憩室のようなものと考えればどうだろう。

魔物はメインストリート(胃腸)を流れてくる食物・雑菌(冒険者)を消化分解(殺す)するが、憩室はダンジョンの異常なので正しく機能していない。


ダンジョンの立場から見ると、セーフティゾーンがたくさんあると不健康ということになる。


ダンジョンの複数の階層は、それぞれ口・食道・胃・十二指腸・小腸・大腸に相当する。そして各々住み着く細菌が異なるように魔物の種類も異なる。

と考えられる。



ダンジョン内は土魔法は効力が弱いとされる。

ダンジョンが生物の体の中であると考えれば土は存在しない。

従って土を操る魔法は分が悪い。



これもダンジョンの不思議だが、ダンジョン内は昼も夜も無いとされる。

常に薄暮の世界である。



コアを壊されるとダンジョンは機能を停止する。

コアは心臓か脳に相当すると考えられる。



◇ ◇ ◇ ◇



ダンジョンは、必ずといって良いほどダンジョン都市を持つ。

ダンジョンが元気だと都市も栄える。

ダンジョンが死ぬ(コアが破壊される)と都市は寂れる。


ダンジョンの規模と都市の規模はおおむね比例する。

これから私が潜ろうとしているメッサーのダンジョンで見ると、メッサーの街はそれほど大きくないが、王都が隣接する。

つまり国内随一の規模のダンジョンである。


ダンジョンの規模と都市の規模の相関は経済で説明される。

ダンジョンの難易度が高い、または階層が多いと、ダンジョンで死ぬ冒険者が増え、結果としてダンジョンで出る宝物が増え、お宝の質も上がる。

更に冒険者が集まる。

もちろんコアの栄養も増えるので、ダンジョンは発達する。


冒険者人口が増えると都市の総人口が増える。

冒険者が増えると、冒険者が必要とするギルド、宿屋、食堂、酒場、娼館、店舗(武器・防具・アイテム・食料などを売る店)が増え、街が発展する。

店舗が増えると納品する農家が増え、酪農家が増え、酒造家が増え、武器職人が増え、防具職人が増え、夜の女が増え(夜の男も)、流通業者も増える。

そしてその人たちの家族も集まる。

家族が増えると肉屋、八百屋、服飾屋も増える。

結果、増えた冒険者の十数倍の人が集まる。

都市の経済が何倍も大きくなるのだ。

これは元の世界のゴールドラッシュと同じ構図である。


メッサーのダンジョンはまだ攻略はされていない。

探索の先頭を走る冒険者は6階層まで潜っている。

6階層まで潜るにはB級冒険者上位の実力が必要とされる。

途中の階層も完全に探索され尽くした訳ではない。

深層階になるほど地図上の未踏破部分が多い。

全部で何階層あるか未だ不明だが、この規模の迷宮だと10階層はあるだろうとみられている。


想像以上に探索は進んでいない。

これはダンジョンが難しいのか、政治的理由からなのか、全くわからない。

まだまだメッサーの街、および王都は大きくなる余地が残されている。



◇ ◇ ◇ ◇



師匠から、メッサーのダンジョンで出てくる魔物について講義を受けた。

階層別の魔物はおおよそ以下の通りである。(カッコ内は脅威度を表す)


1階層:ゴブリン(F)、ホブゴブリン(E)、キラーアント(F)、オーク(E)

2階層:オーク(E)、コボルト(D)

3階層:キラービー(E)、キラーアント(F)

4階層:ゴブリンキング(D)、ホブゴブリン(E)、ゴブリン(F)

5階層:オークキング(D)、オーク(E)、コボルトキング(C)、コボルト(D)

6階層:スケルトン(E)、ゾンビ(E)、グール(D)


一見2層~4層の魔物の強さが変わらない様に感じる。

しかし、出てくる魔物の数が多い、魔物が統率された行動を取る、といった要素がからむため、魔物の単体の脅威度と階層の攻略の難易度が一致していないだけである。


また、6階層で待ち構える魔物のレベルが低い気がする。

だがこれはメッサーダンジョンの最初のアンデッド階であることが大問題だ。

脅威度だけでなく、強烈な腐臭に耐える必要がある。

使いこなした装備がドロドロに汚れる。

探索がなかなか進まないのはこのあたりに原因がありそうだ。


とりあえず1階層を勉強しておく。

1階層で出てくる魔物は ゴブリン(F)、ホブゴブリン(E)、キラーアント(F)、オーク(E)。


ゴブリンは散々相手をした。

私はG級冒険者。

ゴブリンは脅威度Fなので、私より強い。

これまで散々倒してきたので恐怖は感じないが、広い草原で逃げ回りながら戦うのと、狭いダンジョン内で戦うのでは勝手が違うはずだ。

イザというときは逃げろと言われているが、狭いダンジョン内で逃げられるものなのか検証したい。

可能だろうか?

他の冒険者の邪魔をしないだろうか?

また、逃げた先で別の魔物の集団の中に飛び込むという不手際は避けねばならぬ。


ホブゴブリン。

ゴブリンは身長1m強だが、ホブゴブリンは身長1.8mを超える。

私よりデカい。

当然腕力もゴブリンの倍ほどもあり、扱う武器も剣などになる。

脅威度もE級になる。

私はホブゴブリンと手合わせをしたことがない。見たこともない。

一度草原で戦っておきたかった。


キラーアント。

全長70cmほどの殺人蟻。

70cmのアリ・・・ 気持ち悪いことこの上ない。

脅威度はFだが、アリは1匹で出てくることは無いと思った方が良い。

ゴブリンと同じく3匹までならF級で良いが、10匹出たらD級と思った方が良い。

そして私の実力では何匹までなら対処できるのかわからない。

他の冒険者の戦いを見て勉強した方が良いだろう。

(火魔法でば~ん、だったらどうしよう・・・)


オーク。

これもゴブリン同様、初心者のレベルアップ用魔物の代表格だが、ゴブリンよりも肉体派である。

腕力はゴブリンの倍ほどもあり、攻撃力はゴブリンの倍以上。

脅威度Eは伊達じゃない。

外見は二足歩行の豚なので “食用” らしいが、こればっかりは見てみないと何とも言えない。

今度肉屋を覗いてみようと思う。



心の片隅に留めておかねばならないこと。

1階層とは言え、まれに2階層の魔物が徘徊することがある。

場所は2階層へ続く階段の近くに限られる、というが。

もし遭遇したら迷わず逃げること。


ちなみに1階層の魔物と2階層の魔物は仲が悪いとのこと。




こんな感じでダンジョンの勉強をした。




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