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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
02 メッサー冒険者ギルド編
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24/368

024話 メッサー迷宮探索1

メッサーダンジョンは森の中のやや盛り上がった丘の麓にある。

そしてその入口は頑丈一式の巨大な鉄の門扉が備え付けられている。


一見すると核廃棄物の最終処分場の入口か、サ○ダーバ○ドの秘密基地がありそうな雰囲気だ。


なぜ巨大な鉄門扉があるかというと、ダンジョン内でスタンピードが発生したときに魔物をダンジョン内に閉じ込めるためだ。


およそ40年前に扉を閉めたことがある。

そのときは3ヶ月間閉めっぱなしだったそうだ。

ダンジョン内で行き場を無くした魔物同士が殺し合い、適正な数に落ち着くらしい。

リアル蠱毒である。生き残った魔物が恐ろしい。


ちなみに門を開ける判断はかなり紛糾したし、開門時はA級パーティを複数雇い、騎士団総出で万一の事態に備えたという。



◇ ◇ ◇ ◇



メッサーダンジョン挑戦1日目。

ダンジョン前に冒険者ギルドの出張所があり、ダンジョンに挑戦する冒険者の入山記録ならぬ入ダンジョン記録を録っている。

出張所に寄って入ダンジョン記録を残し、鉄門扉を潜る。

鉄門扉を潜ればもうダンジョンの中だ。

保存食、水、食器、ポーション、地図、包帯、タオル、カンテラ、その他小物類は、フェリックスに魔改造されたスーパー背負い袋に入れて私が背負っている。

背負い袋は重さを感じず、中の荷物の偏りも感じない。凄いと思う。


メッサーダンジョンの1層目は見た感じ洞窟なのだが、なぜかそれなりに明るい。

カンテラや松明は必要ない。昼でも夜でもない。薄暮の世界。

ダンジョン七不思議だ。

ダンジョンの床は草原と違って凸凹が少なくて走りやすい。そこは助かる。


既にフェリックスは背負い袋から出ている。

前衛はマロンと私。後衛がフェリックス。

マロンと私はダンジョン初挑戦。

ガクブルでへっぴり腰なのに比べ、フェリックスは泰然としている。



私たちは未踏破エリアを進んでいる。

1階層の未踏破エリア3カ所のうち、今探索中の1つ目は割と入口の近くにある。

なぜ入口に近いのに未踏破なのか。

それは初心者にとって厄介な魔物が出るからだ。

出てくる魔物はゴブリン。


ゴブリンは初心者のレベルアップ専用魔物の代表格だが(と言いつつ私は死ぬほど緊張したし、初征伐の時は頭が真っ白になって記憶が飛んだが)、ここのゴブリンはホブゴブリンがゴブリンを5体従えて出てくる。

つまり魔物もパーティを組んで集団戦を仕掛けてくるのだった。


これは初心者パーティにとっては脅威である。

ゴブリンリーダーであるホブゴブリンが冒険者パーティ内の最も弱いメンバーを見抜き、配下のゴブリンに命令し、弱者を集中攻撃する。

冒険者パーティのリーダーが壁になろうとするが、ゴブリンどもは回り込んで後ろのメンバーを攻撃する。

そしてホブゴブリンがパーティリーダーと相対する。


ホブゴブリンは脅威度Eクラスの魔物。

ダンジョンに潜れる冒険者はE級以上。

つまりダンジョン初心者にとってホブゴブリンは自分と互角か、互角以上の魔物なのだった。

リーダーは、パーティ内の弱いメンバーを庇いながら戦うと、負ける可能性が高まる。

もしリーダーがやられるとパーティ全滅の恐れがある。

弱いメンバーがやられるのを見捨てて戦闘継続することもできるが、その時点でパーティは空中分解だ。


中級冒険者パーティなら何の問題も無い。個の力で蹴散らす。

だが中級冒険者にとってゴブリンやホブゴブリンを狩ってもレベルアップは望めない。

しかも装備は傷つく。汚れる。


以上の理由で冒険者ギルトでは初級冒険者に対して口酸っぱく注意し、中級者になるまでは近づくなとくどくどと念押しし、結果的に放置されたエリアだった。



洞窟はかなり幅の広い一本道。

柱がないので一見落盤が怖いが、心配無用とのこと。

ただし広範囲攻撃魔法は使わないこと。何が起きるかわからない。


フェリックスは余裕綽々で、


「僕が最初にホブゴブリンを倒す。ビトーとマロンはゴブリンを倒す」

「わかった」

「ワウ」


つまりフェリックスが敵の指揮命令系統を破壊するので、混乱に陥った子分どもは私とマロンで経験値稼ぎをしてね、ということだった。



◇ ◇ ◇ ◇



マロンより先にフェリックスが気付いた。


「くる」


私は無詠唱で闇魔法『認識阻害』を発動する。

そして壁に貼り付き、息を潜める。

マロンとフリックスは壁際によって身を潜めると、それだけでカモフラージュになっていた。

ゴブリンどもは我々に気付いていない。

ゴブリンが5匹通り過ぎ、最後にホブゴブリンが通り過ぎるのを見送った。


突然ホブゴブリンの首が「ドサリ」と落ちた!


後でフェリックスに聞くとウィンドカッターを使ったとのことだった。


フェリックスのウィンドカッターは、ブラックサーペントと渡り合ってその背骨を断ち切るほど。

だから無詠唱で発動するのは何となく予期していた。

しかしフェリックスは予備動作無し、精神集中の気配無し、身じろぎもせず、壁際に佇んでゴブリンどもを眺めていただけ。

フェリックスの中でいつ魔力を集中し、いつ機が熟し、どんな精神作用で魔法を放ったのか、全く感じ取れなかった。


敵にも味方にも魔法の発動タイミングを気取らせない。

恐ろしい。

魔法使いって恐ろしい。

腹の底から震えた。

フェリックスが味方で本当に良かった。


さて気の毒なホブゴブリン。

首と胴体がおさらばしたときの音は殆どしなかった。

床に首がドサリと落ちた音で、ゴブリンどもは異変に気付いた。

ホブゴブリンの首は、我々が潜んでいる方にコロコロと転がってきた。

まだ立っているホブゴブリンの胴体の頸動脈から、血が2筋、ピューと噴水のように吹き上がった。


うはー

スプラッター映画のようだ。

地面に転がるホブゴブリンの首を見るとにやけた表情のまま。

自分が死んだことに気づいていない。

気持ち悪い・・・


本来ならホブゴブリンの首が落ちると同時にゴブリンの群れに飛び込まねばならないのだが・・・ 凄惨すぎて咄嗟に体が動かなかった。


私とマロンはゴブリン5匹を倒さねばならない。

すくんでいる場合では無い。

「そのとき義経少しも騒がず」そう頭の中で唱えながら、おもむろにゴブリンの群れに襲いかかった。


私はショートソードで3体、マロンが牙で2体倒した。



「ホブゴブリンを倒したらすぐに飛び込むように」


正座してフェリックスのお小言を頂戴してから魔石を回収し、ホブゴブリンが装備していた粗末なショートソードも回収。

一本道を先に進む。



もう一度ホブゴブリンとゴブリンのパーティと出会う。今度はうまく連携する。

特に苦労すること無く敵を全滅させるが・・・

やっぱり頸動脈から血が2筋。噴水のように、盛大にぶしゅーっと。

うはー。

何度見ても慣れない。



ホブゴブリンとゴブリンのパーティと出会う。3度目だ。

今度は私がホブゴブリンを倒してみた。

認識阻害を展開したまま背後からこっそりと近づいて、ショートソードで首をバッサリとやる。

技術的、戦術的に苦労することは無い。

ショートソードを研いでおいたから、コロリと首が落ちる。

やっぱり頸動脈から血が2筋、盛大にピューッとなるわけで・・・

続けざまに私がゴブリン3体、マロンが2体倒す。

慣れるしかない。慣れるしか・・・



またまたホブゴブリンとゴブリンのパーティと出会う。

スプラッターに慣れるため、もう一度私がホブゴブリンを倒す。

やっぱり頸動脈から血が2筋。ピューッと噴水のように・・・

慣れない・・・

背中がゾクゾクする。

いやまて。

慣れてよいのか?

慣れてしまったら人格が変質してしまいそうな気がする。



座り込んで弱っていると、フェリックスが


「では隠れずに正面からぶつかってみる」


そうしてみることにした。


5度目のホブゴブリンとゴブリンのパーティとの遭遇戦。

今度は私が姿を現して、正面からホブゴブリンと激突した。


ホブゴブリン。

脅威度Eの魔物。

得物はお互いにショートソード。

真正面から当たるにはG級冒険者の私の手にはちと余る。

自分から攻勢に出られない。受け一方になる。

それでも闇魔法『デ・ヒール』で敵のHPをじわじわ削る。


ゴブリンどもが散開して私の背後に回り込もうとする。

つまりホブゴブリン+ゴブリン5匹の全員が私に襲いかかってくる。

これが噂のパーティ内で一番弱い奴を狙い撃ちにする戦法か。

つまり私が一番弱い、と。

回り込もうとするゴブリンどもはフェリックスとマロンが始末してくれる。


何合もしているうちに、ホブゴブリンの感情を読み取れるようになった。

自然と鑑定していたようだ。

ホブゴブリンは異質だった。


どうやら私はホブゴブリンやゴブリンを人間に近いものと思っていた節がある。

奴らは奴らなりの生活や感情があって、それは簡単には理解できないが、存在を認めることはできるだろう、と勝手に思い込んでいた節がある。

異教徒に対するようなものだろうと思い込んでいた。


全然違った。

ホブゴブリンは、私を、マロンを、フェリックスを、憎んでいない。

嫌悪の感情も伝わってこない。

必死にダンジョンを守ろうとしている訳でもない。

ただ、ただ、我々を馬鹿にしている。蔑んでいる。

楽しみながら殺したいと思っている。

殺すことが大好きだ。殺すことは爽快だ。


以前、何組もの初心者パーティをなぶり殺しにした。

全員の足を潰し、逃げられないようにして、一人一人じわじわ殺した。

痛みに耐えきれずに漏れるうめき声が、慈悲を請う悲鳴が快絶だ。

もう一度あの快感を味わいたい。

人間をいたぶりながら殺したい。苦痛を与えながら殺したい。

殺す。殺す。楽しい。殺す。殺す。


・・・


絶対に分かり合えない相手だと言うことを理解した。

これだけ純粋な悪意を向けられたら興醒めした。

そしてゴブリン種を殺すことに罪悪感が無くなった。

罪悪感がなくなると、思い切り冷酷にデ・ヒールを掛けることができた。

無詠唱で強めに。

火魔法や水魔法のように “見える魔法” ではなく、 “見えない魔法” なので、完璧な不意打ちを喰らわすことが出来る。

両足と両腕が攣った状態にしてやり、動けなくなったホブゴブリンを一撃で倒した。

ホブゴブリンの死骸を見下ろすが、何の感慨もない。

憑き物が落ちたような気分だ。


人間の中にもこんな殺人鬼がいることは理解している。

私はそいつらにもこんな態度を取るのだろう。



◇ ◇ ◇ ◇



ゴブリンたちの魔石を取り出し、死体を壁際に片付けていると、床に妙な岩の出っ張りがあることに気付いた。一人用のベンチとして使うのにちょうど良い感じ。

最初からあったかな?


フェリックスが教えてくれた。


「それ、宝箱」


ぜんぜん宝箱っぽくないんだが。

鑑定してみる。

宝箱だった。

罠は無いので開けてみる。

やや長めのショートソードが出てきた。



【脇差】

芯鉄に玉鋼を用いた片刃剣。抜群の切れ味と耐久性を誇る

自動修復機能(低)あり



刀身はショートソードよりやや長い。

斥候が使う剣としてちょうど良い長さ。

良い物が出た。これを私のメインの武器とする。


第一層にしてはずいぶん良いアイテムが出たが、これは正しい姿なのか?

疑問に思ってフェリックスの意見を聞く。


「このエリアはスタンピード以降、一度も踏破されていない。ほぼ処女地。そして冒険者がいっぱい死んでいる。こんな良い場所は良いアイテムが出る」


「良い場所」という表現に???だったが、思いがけないご褒美をもらった気分でほくほくしながら先に進む。

行き止まりまで行った。

この通路は途中に部屋が無かったので、これで踏破だ。



経験値稼ぎとアイテム探しのため、もう一度このエリアをローラー作戦する。

ホブゴブリンとゴブリンのパーティは、ほぼ前回と同じ位置で出現する。

今度は私とマロンの二人だけで倒す。

ホブゴブリン+ゴブリンを私が、ゴブリン×4をマロンが倒す。

ゴブリンが逃げようとしたり、背後に回り込もうとしたときは、フェリックスが風魔法で行動制限するので安定して戦える。


私のレベルが上がったらしく、また脇差が優秀らしく、デ・ヒールを使う必要も無くなった。

真正面からホブゴブリンを一撃で倒す。恐ろしい切れ味だ。

片刃でよかった。両刃だったら自分で自分を傷つけそうだ。


優秀な装備なのは有難いが、斥候らしい戦い方になっていない(剣士のような戦い方になっている)のはよろしくない。

斥候のスキルを磨くことにする。


闇魔法の認識阻害を使わずに、素の状態で息を殺して気配を消す。

マロンにも言い聞かせる。

ゴブリンが近づくのを待っていると、5mの距離までホブゴブリンに察知されなかった。連中が気づいた途端に襲い掛かり、死体にした。

私の服装は迷彩柄にした方がよさそうだ。

マロンとフェリックスは元々迷彩柄だ。



結局ゴブリンの出るエリアを3往復した。

壁や床の凹凸を注意深く探っていくと宝箱を2つも発見した。

岩牡蠣を採取している気分だ。

いずれも罠は無く、下級ポーションと隠密のシールドが出た。

気味が悪いほど大当たりだ。



【下級ポーション】

傷の回復を促す薬


【隠密のシールド】

装着すると周囲の風景に合わせて模様が変わる小盾

自動修復機能(中)あり

盾自体の大きさ、防御力はスモールシールドと同じ



未踏破エリアでは良い物が出るとは聞いたが数が多くないか?

フェリックスの豪運のおかげかな、と聞いたら


「ここで初級冒険者がいっぱい死んだお陰。彼らの装備品のうち、ダンジョンに消化されなかった優秀な装備が魔道具に変わった。そして誰もそれを取りに来ないからいっぱい残っていた。その証拠に出てきたのはショートソードと小盾。両方とも初心者の装備」


なるほど。


「初級冒険者がいっぱい死んだお陰」という表現は気になったが、言いたいことはわかった。

下級ポーションは背負い袋に収納。隠密のシールドは左腕に装着。それまで装着していた小盾は右腕に装着した。



そしてフェリックスから「そろそろ帰ろうか」と言われた。




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