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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
結ばれた兄弟の絆編
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ヤタガラスのある日〜Where the wind blows〜

結ばれた兄弟の絆編

ヤタガラスのある日〜Where the wind blows〜



 私たちが暮らす日本にはとても面白い風習がある。

 それはお盆である。

 真夏の暑い日にあの世から死んだ魂たちが大好きな家族の元へ帰ってくる。大好きな家族の元へだ。海外ではなかなか見られない風習かもしれない。

 魂は侮れないのだ。

 たとえ肉体が朽ちて無くなってしまったとしても、愛しい人へ会うためだったら魂だけになってもやってくる。

 そう、たとえ色々な意味でも離れ離れになって心も見えない状態になってしまっても、必ずリボンのように結ばれると私は思っている。



 午前十一時。カミネ地区。自然の森公園付近。

 太陽が照りつける少し汗がにじむくらいの暑い日だった。

 自然の残るカミネ地区にある自然の森公園にスセリの姿があった。そしてもう一人。ライフルを背中に背負ったシュンも一緒だ。

「あくまでお前は悪霊を探す要員だ。変な動きしたらシバくからな」

「・・・はい」

 シュンが脅しにも似た言葉をスセリに言った。

 今から数ヶ月前にスセリは闇の浄化師・八十川エイタに襲われ生死の境をさまよった。退院後は怪我が完全に完治するまで現場業務は絶対禁止となった。スセリは疼痛コントロールをしながら今日まで過ごしてきたが、腕はまだ動かせないが痛み止めなしでも問題ないくらいまで回復してきた。

 アズミからスセリのツキヨミ能力に問題がないことが証明されたことでスセリは浄化こそできないものの、昼のパトロールに悪霊を探す係として同行することがヒジリによって許された。

 そして浄化師連続傷害事件もスセリが襲われた日を最後にぱったりとなくなった。悪霊対策部は昼のパトロールを再開すること、しかし大事をとって二人一組による体制を継続するように通達を出した。

 そしてスセリはヤタガラスに闇の浄化師の存在をしっかりと話した。彼の名前が八十川エイタという男であること。浄化師に対して恨みがあること。口調ぶりからまだ事件は終わっておらず必ず誰かが狙われるということ。

 このスセリの発言から二人一組の体制が継続されたのだ。

 昼のパトロールの同行もスセリが発言して認められたことだ。スセリは動けなくても自分のツキヨミの力が生かせるならと同行をしている。

 今日スセリとシュンがやってきたのはカワグチの中でも自然が色濃く残るカミネ地区だ。自然の森公園が整備され、休日になれば多くの家族連れがピクニックにやってくるのどかな地区だ。

 悪霊出現率もまずまず。悪霊出現はあるが頻発することはない。

 シュンと一緒に歩き二人は自然の森公園の中にある広場へやってきた。そしてシュンは背中に背負ったライフルを構えた。

 カチャン。

 安全装置が外れた。公園に悪霊がいるという索敵結果が出た。その瞬間にシュンはスセリの腰に下げていたホルスターから小型拳銃を抜いた。

「阿部。周りをよく見て悪霊の位置を教えろ」

「ラジャ」

 シュンは小型拳銃の引き金を引いて地面に弾丸を撃ち込んだ。太陽の光に照らされて弾け飛んだ。キラキラと輝く浄化水晶がスセリのツキヨミのスイッチを入れる。スセリはすぐに周囲を確認する。

 広場をぐるりと見回すと道の端に黒い靄があった。悪霊はスセリをしっかりと捉えていた。

「いました!」

 スセリがそう言うと見つかった、と思った悪霊がスセリを襲おうとする。しかし照りつける太陽の下を出て行こうとはしない。主に夜に活動的になるからだ。スセリが一歩引いている姿を見てシュンが動きだす。

 シュンがライフルを構えると悪霊は驚いて消えてしまった。

「消えた?!」

「ビビって逃げたんだろう。随分弱虫な悪霊だな。まあいい。今日の夜に浄化することにはなるだろうがな」

 シュンはそう言ってライフルを戻し、小型拳銃をスセリのホルスターにしまった。

「カミネ地区は一通り見た。戻るぞ」

「ラジャ」

 シュンに言われてスセリはシュンの後ろをついて歩いていく。シュンの歩く速度は速くてスセリは少し小走りになる。

「シュンさん。速くないですか?」

「これが俺の普通だ。阿部が遅いだけだ」

 ええ?! とスセリは嘆きの声を漏らした。

 現在スセリは二十二歳。それに対してシュンは二十七歳。スセリとの年齢は五歳。年齢こそ離れているもののそこまでの歳の差はない。しかし、スセリにとってシュンは偉大であり、シュンの背中は憧れでもあり大きく感じていた。

 ヤタガラスのスナイパーの異名はあながち間違ってないかもしれないとスセリは常々思うのであった。

「こちら鳴海。カミネ地区のパトロール終了。鳴海及び阿部両名異常なし。これより草薙館へ帰還します」

 シュンはインカムを起動して状況を説明し、自然の森公園を後にする。二人はヤタガラス専用車に乗ってきたが、車に乗り込む前にスセリはシュンに言った。

「シュンさん。あの・・・」

「どうした?」

「寄りたい場所があるんですけど、いいですか? 歩いて行ける距離なんですけど・・・」

「構わねえ」

 スセリは反対されるかと思っていた。しかし意外にもシュンはスセリの提案に対して首を縦に振ったのだ。少し驚きながらスセリとシュンはとある場所に向かって歩き出した。



 午後十二時。カミネ地区。遊具のある庭のある建物の前。

 スセリとシュンがやってきたのはとある建物の前。建物の前には大きな庭があり、子供が遊ぶような遊具や砂場、水道など保育園を彷彿とさせるような雰囲気がある。

「懐かしい・・・」

「おい、阿部。ここはどこだ?」

「私が十八歳まで暮らしていた児童養護施設です」

 スセリがそう言って見上げた。シュンはここか・・・とつぶやいた。

 カミネ地区にあるここはスセリが十八歳まで入っていた児童養護施設だった。自然の森公園からほど近く、スセリも子供のころはよく施設職員と一緒に自然の森公園へ遊びに行っていたことも思い出す。

「変わってないなあ・・・」

「阿部。お前は自分自身の人生を呪ったことはあるのか?」

 シュンが聞いた。

 スセリがえ? と言うとシュンはスセリから目線をそらして聞いた。

「親戚からたらい回しされて最終的には施設に送られた。お前は施設での生活は辛くはなかったと言うが、お前の中には俺たちが想像している以上の憎悪の塊と絶望の塊がある。人生を呪ったことの一つや二つあるだろう?」

「・・・呪いましたよ」

 スセリはそう言って空を仰いだ。

 スセリとシュンは児童養護施設の前を後にし、車が停めてある自然の森公園の駐車場へ戻る。戻りながらスセリは話した。

「私をこんな目に遭わせた全ての要素を呪いました。でも親戚が私を遠ざけた理由も今ならなんとなく分かる気がしてしまいます。だからと言って私は許すわけがないんですが・・・」

 スセリは苦笑いをした。それをシュンは静かに聞いていた。

 すると風が吹いてスセリの髪の毛を揺らした。スセリがふと見るともう自然の森公園の駐車場にたどり着いていた。

 スセリは助手席に座り、シュンは運転席に座って車を動かし始めた。

「阿部は阿部らしく生きてればいい。親戚たちがどんな難癖をつけて阿部を引き渡せだ、阿部と親戚関係を結び直すだと言おうが金山さんが守ってくれる。余計な心配するんじゃねえ」

「シュンさん・・・」

 スセリは運転しているシュンの横顔を眺めた。まっすぐ見つめる視線の先をスセリは無意識に追いかけた。クールな雰囲気の中に燃える小さな炎。それを持つのが鳴海シュンという男だ。

「今から草薙館に戻るぞ」

「はい」

 シュンの運転する車に揺られながらスセリはチュウオウ地区へ戻るのだった。



 午後十七時。チュウオウ地区。草薙館。立石ミホの部屋。

 太陽が傾いてすっかり真っ暗になった。スセリはミホの部屋にいた。二人は部屋の中で雑誌を見て雑貨を見ていた。

「スセリちゃん! これ可愛いやろ! 今度これ買おうと思うとるんよ!」

「これキュテリアが販売してるんだ。もしかしたらハルカのデザインしたものなのかも」

「ハルカってスセリちゃんの親友の?」

「そう。ハルカはこの雑貨を作っている会社で雑貨デザインをしてるんだよ。後で連絡して詳しく聞いとくよ」

「ほんま?! おおきに!」

 年相応の顔を見せる二人。ミホの視線はスセリの肩へ注がれる。その肩は八十川エイタに撃たれた傷が残っている。

「ミホ?」

 スセリが聞くとミホは雑誌をテーブルに置いて言った。

「スセリちゃんが入院してた時に鳴海先輩がちょっと怖いこと言ってて。思い出しちゃった」

「怖いこと?」

 スセリが聞くとミホは体育座りをして曲げた膝の上に顎を乗せてまっすぐ見つめる。

「闇の浄化師は虎視眈々とうちらを狙ってる。次の犠牲者がサトミ先輩、熱田先輩、鳴海先輩、うちになっておかしくあらへんって・・・。うち、怖くなって」

 シュンの脅しにも聞こえる言葉だ。しかし、経験したスセリにとってみればシュンの言葉は正論をついていた。いつヤタガラスの誰かが狙われるか分からない。恐怖を煽る言葉だ。

 以前のスセリだったら怖いよね、と言うように同情するところではあるがスセリはすでに襲われている。同情するわけにはいかなかった。

「シュンさんの言葉は間違ってないよ。あいつは必ず私たちの前に現れる。ヤタガラスの翼をへし折ろうと画策しているはず。ミホに私のような怪我してほしくないもん」

「スセリちゃんに言われると説得力あるわあ」

 ミホはそう言ってお茶を飲んだ。

 スセリは雑誌を広げてまた読み始めた。

 スセリは穏やかに過ごしていたがエイタに対する憎しみは消えなかった。必ず報復をするとスセリの中にある真っ黒な憎悪がそう思わせる。終わりの見えない戦いにスセリたちヤタガラスは身を投じていくのであった。



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