ミホ〜You were the source of energy〜
ミホ〜You were the source of energy〜
「社交的で明るくて、人当たりがいい。笑顔が似合う。友達がすぐにできる人気者」
うちの第一印象はきっとこんなもんやろ。
そう言われるのは別に嫌いじゃない。嬉しいやん、そりゃな。
でもうちにはうちしか知らん過去があるんや。うちは二つの立石ミホを知ってる。
明るくて人気者の立石ミホと根暗で一人ぼっちの立石ミホ。
うちの過去、特別に教えてやんで。
しっかり、聞いときや。
今から数年前。カワグチから遥か西にあるオオサカ。
活気のある町で美味しい食べ物などがたくさん集まる西の台所のような場所だ。
立石ミホはそこで生まれ育った。
立石ミホ、現在十四歳。
そして食い倒れの町・オオサカにある一軒のお好み焼屋。ここがミホの実家である。ミホの父・立石ケンタが店主として店を経営し、母・立石カナミが手伝いをして生計を立てている。
そしてミホには姉が二人いた。
大雑把だが姉御肌で頼り甲斐のある長女・立石ホノカ。優しくて悩み相談にも乗ってくれる次女・立石チカ。そして三女がミホなのである。
「ねえミホ。見てや! これ可愛いやろ?」
「うん・・・」
「ミホはこれが似合うと思うねん。今度遊びに行こや!」
「うちはええよ・・・。どうせ似合わんわ」
ミホは俯いて言った。それを見た次女のチカはミホに言った。
「そんなことあらへんで。お姉ちゃんはミホのこと可愛くしたろって思っとんのよ? お姉ちゃんに任せてもえんちゃう?」
「チカ姉ちゃんまで・・・。もうええよ」
ミホの口から出てくる言葉は全て消極的で元気の欠片もないものだった。
当時のミホを一言で例えるなら「おとなしい」「控えめ」という言葉だろう。しかし、言い換えれば「根暗」「陰キャ」と言ったところだ。
人と関わるのが苦手て人との関わりを避けている。そんな少女だった。
血縁者である姉妹であっても引っ込み思案は変わらないが、学校では完全に浮いた存在になっていた。
環境に馴染むのが苦手なミホにとって、学校という場所は地獄同然の場所だった。別にいじめを受けているわけではないが、楽しいと感じたことは一つもなかった。
学校に行くのは「義務」だから。ここを通過しなければ高校に行けないから行く。
それがミホが学校に行く理由だった。
ミホは成績も平凡で全てが平均で、当たり障りのないそして大きな個性の光も見えない無個性な少女だった。ミホはそんな自分を変えたかったが、変わる勇気がなくて現状維持に甘んじていた。
中学校でも友達などおらず、ずっと教室の隅にある自分の席で本を読むような日々を送っていた。誰もミホに話しかける人などいなかった。
そんなある日のことだった。
学生ならば誰しもが通る進路問題へとミホもぶつかった。将来なりたい職業や展望がぼんやりでも持っているものではあるが。
「立石は将来どうなりたい?」
「・・・よくわかりません。やりたいことがありません」
「まあ中学生だもんな。高校に進学すれば夢が見つかるさ。でもな、立石。何かしらに興味を持つことをしてみたらまた世界は変わるぞ」
担任教師との二者面談。ミホは何も将来の展望など何もなかった。
興味を持つことをしよう。そう思っても、長年おとなしめで気持ちが揺らがない生活を送ってきた代償だ。そんな興味など沸くわけもない。
ミホはため息を吐きながら家路を急いだ。
家ではカナミが夕食の準備をしていた。
「ママ! チカ! ミホ! 美容師の専門学校に受かった!」
「ほんま?!」
「おめでとうお姉ちゃん!」
ホノカが手に合格証を持ってリビングへ駆け込んできた。驚きのビックニュースに料理中のカナミは手を止めて喜んだ。
長女のホノカはオオサカ内にある美容師専門学校に受験していた。その日はちょうど合格発表の日だったのだ。カナミ、チカが喜んでいる中ミホはポカンと立ち尽くしていた。
「おめでとう、ホノカ姉ちゃん・・・」
「ありがとう! これでミホのこと可愛くしてやれるで! 姉ちゃん頑張るわ!」
ミホはこれ以上何も言えなかった。
その日の夕食はホノカの合格で話題は持ちきりになった。家族がワイワイと賑やかに話している中、ミホは静かに夕食を食べていた。
その様子を心配していたのは父であるケンタだった。
夕食後ミホの隣に座ってケンタは話し出す。
「ミホ。どうしたんや?」
「え?」
「お姉ちゃんのこと嫌いなんか?」
「嫌いじゃないよ」
ミホは首を横に振った。パパに話せることは話しな、とケンタはミホに言った。ミホはケンタに夢がないこと、将来の展望がないことを話した。するとケンタはそうかそうか、と聞いてくれた。
「今の子は大変やな。中学から将来のこと考えないけんなんてな。パパはバカだからなーんにも考えとらんかったで!」
「そうなの?」
「ミホはそういうところがパパにそっくりやからな。まずは気楽に考えろ。パパは人道から外れた職業を選択しない限り、ミホの味方やで」
ケンタはニッと笑った。
ミホは小さい声で「パパ、おおきに」とつぶやいた。
その後、次女のチカもデザインが学べる学校への進学が決まり、ミホはだんだん焦り出す。学校の教師が急かす中、ケンタが「大丈夫、パパが味方」と何度も言い聞かせたことを思い出しては平常心を保ち続けていた。
そんな中でミホの中でぼやーっと何かが浮かんだ。それがミホの将来を決定づける一つの道標になった。
それが、
「誰かの役に立ちたい」
これが数年かけてたどり着いたミホの将来の展望であった。
それから三年後のこと。
ミホは高校二年生になっていた。ミホは変わらず、引っ込み思案で高校に進学しても友達が誰もいなかった。
「ねえねえ。あの子」
「ああ、立石さんでしょ? あんまり話したことないんだよねー。話しかけづらくね?」
同級生はこそこそと話す。
ミホは完全にクラスから浮いた存在になってしまった。高校生活が楽しいと思ったことなどなかった。いついじめの標的にされるのかヒヤヒヤしていた。しかし、ミホには対抗する術がない。
授業が終わりミホは夕方のオオサカの町を歩いて家へ戻っていた。すると紺色の制服に身を包んだ大人たちとすれ違う。
「なんや?」
ミホが振り返るがその大人たちは走っていたため、どういう人かわからなかった。もしかしたらサラリーマンなんだろうか、とミホはそう考えて歩き出そうとするとおばさんたちが集まって井戸端会議をしだす。
「また悪霊が出たんやって!」
「え?! 怖っ! どこで出たん?!」
ミホはブルッと身震いをした。
オオサカにも悪霊が夜な夜な出現し、人々を襲っている。そのニュースは毎度見ているため、ミホも怖くて仕方ない。
しかも当時はまだ悪霊研究もそこまで進んでいない時代だった。迷信が多少残っている時代でもあった。迷信の一つに「普段から気持ち的にもマイナス思考な人間は悪霊に狙われやすい」というもの。
その迷信を当時のミホは信じていた。
ミホは分かっていた。自分が悪霊にとって餌食になることを。ミホは急いでその場から離れて急いで家へ戻った。
するとカナミが出迎えた。
「ミホ大丈夫だった?! ミホの帰り道近くで悪霊が出たって今学校から連絡入って!」
「うちは無事や。心配しなくても・・・」
カナミはよかった、と胸をなでおろす。そしてカナミはテレビをつけると早速悪霊関連のニュースが流れ始めた。
「オオサカで悪霊が出現しました。出現から三十分後には浄化されました。怪我人はいないとのことです」
ミホはそのニュースを見て身震いする。するとテレビに先ほどミホがすれ違った制服を着た大人たちが立っている。
ミホは先ほどからその大人たちをジッと見つめていた。そしてカナミに言葉を投げかけた。
「ママ」
「ん?」
「あのテレビに映ってる、紺色の制服を着た人誰? 警察官?」
カナミはテレビに目を移す。するとああ、と声を漏らした。
「警察官やないよ。浄化師やね」
「浄化師?」
カナミの言葉にミホは首をかしげた。カナミはミホに浄化師のことを大雑把に説明した。
「簡単に言うと悪霊を退治する人や。私たちがこうして悪霊に襲われないのも、この浄化師の皆さんが命かけて守ってくれてるからや」
ミホはへえ、と声を出した。
その日からミホの頭の中から浄化師という存在がずっと引っかかり、頭から離れなかった。何にも興味を持てなかったミホが興味を持ったものが「浄化師」ただ一つだったのだ。
ミホはスマートホンなどを使用して浄化師について調べた。浄化師はどういう人なんおか。なるために必要なものはなにか。どうすればなれるのか。浄化師になったときのメリットとデメリットなど全てを調べ尽くした。
ミホも驚いていた。ここまで興味を持ったのは初めてだと。そして同時に思った。この興味は最初で最後かもしれないと。
浄化師は警察でも自衛隊でも公安警察でも対処ができない悪霊を浄化する専門職。今の時代、科学が発達し怖いものなしと呼ばれた人類の前に現れた大きな脅威。それに命がけで立ち向かう人たちのことだ。
ミホは自然と浄化師の魅力に囚われてしまっていたのだった。
そして高校三年生になり本格的に進路を決める際、ミホはトウキョウの大学へ進学することを前提に勉強を進めていたが浄化師になるため浄化師専門スクールに進学することを学校の進路調査書に書いて提出した。
もちろん呼び出されるのを覚悟でだ。
ミホは担任の教師から呼び出され、理由など様々な理由を問いただされた。大学ではなくどうしてそっちに動くのかと。ミホは怖かった。全てを否定されるのではないかと。しかしミホは言い切った。
「私は人の役に立ちたいだけなんです。今まで興味を持つものを探せって言われてきて、唯一浄化師だけが興味を持ったんです。きっとそれは最初で最後だと思うんです」
ミホの熱意は本物だった。担任の教師はおとなしいミホがここまで熱意を伝えてくるのは初めてだと思った。担任の教師も負けたよ、と折れた。
担任の教師は浄化師専門スクールを調べた。その時、オオサカに浄化師専門スクールがないという事実を突きつけられた。どっちにしろトウキョウへ行かなくてはならないことを知ったミホは驚いた。
その日、ミホは両親に浄化師になりたいことと大学ではなくトウキョウの浄化師専門スクールに行きたいことを伝えた。
大学に行くとばかり考えていたカナミは驚き、大激怒した。
「ミホ! 浄化師になるって正気なん?!」
「うちは人の役に立ちたいんや! 私は悪霊から人を守る浄化師になりたいんや!」
「人の役に立つ仕事は浄化師だけじゃない! 他にもたくさんあるわ! 浄化師だけはやめて!」
「うちが初めてやりたいって思えることなんや! ママ、お願い!」
「ダメったらダメ! 私は認めへんで! ママの言うこと聞かんなら今すぐここから出て行くんや!」
ミホはカナミと初めて大喧嘩をした。その様子を見ていたケンタと二人の姉も驚いた。カナミはミホがおとなしい性格であることを熟知し、猛反対すればミホは謝罪すると考えていた。
ところが。
「・・・よー分かったわ。出てくわ」
「は?」
「うち、出てくわ。娘の夢を応援できない親なんかこっちから願い下げや! さよなら」
ミホはそう吐き捨てるとリビングから出てってしまった。ミホの口から出てきた言葉にカナミは驚いた。ミホが反抗するなど初めてだったからだ。
ミホは本気だった。ミホは部屋に戻り貴重品などを全てカバンに詰め込んだ。そのまま玄関へ急いだ。するとホノカとチカが立っていた。
「何?」
「ミホ。落ち着いて。出て行けなんて本心やあらへん」
ホノカもチカも怒りに胸を焦がし目がギラついたミホを見たのは生まれて初めてだった。カナミの言葉が本当にミホの怒りのスイッチを押してしまったと思い知らされる。
「お姉ちゃんたちもうちの邪魔するん?」
「邪魔なんてせえへん! うちらは応援しとるよ。最初は驚いたけど、どのような形であれそれがミホの選択ならうちらは応援するだけや」
ホノカはそうミホに言い聞かせた。
そしてチカは持ち前の優しさでミホに言った。
「お姉ちゃんもうちもミホの味方やで。でもなると決めたからには絶対に浄化師にならんとダメやで?」
ミホはそれを聞いて目に涙を浮かべてそのまま泣き崩れた。
ミホは結局家を出て行くことはしなかった。ホノカとチカがカナミとケンタに経緯をしっかりと話した。カナミはまだ納得してない様子だった。ケンタも驚いていたが、ホノカとチカの説得で納得した。
「ママもママやで。ミホに出て行けなんてあんな言い方することないやん。このままじゃミホは一生ママへの恨みを抱いたままになってしまう。それでもええの?」
「それは・・・」
チカが聞くとカナミは俯いた。
それ以来ミホはカナミと一切喋らなくなってしまった。ミホは志望通りトウキョウの浄化師専門スクールに合格して通うことになった。
ケンタとホノカとチカは喜んでくれたが、カナミは心配で浮かない顔をしていた。
そしてミホはカナミと一切喋ることもなく、トウキョウへ行ってしまったのだった。
ミホはその後浄化師専門スクールに入学し、厳しい訓練や座学に耐えた。くじけそうになったこともあったがカナミを見返すという狙いもあったため、乗り越えられた。
そして浄化師専門スクールにはミホのことを全く知らない人たちが集まっていた。そこで初めて友達が出来た。その友達がミホの性格を変えた。
その友達はミホをトウキョウの様々な場所に連れ回した。その中でミホは楽しみを覚え、ミホの根暗で引っ込み思案な性格は真逆の社交的な性格へと変貌してしまったのだった。
これにはオオサカの姉たちも驚いていたが、ミホが明るくなって逆に嬉しくなったと電話で言った。しかし姉たちがカナミに変わろうとしてもミホはその瞬間に電話を切って一切の関わりを持とうとしなかった。
ミホはその後無事浄化師専門スクールを卒業し、悪霊対策部の浄化師認定試験にも合格し、無事浄化師となった。
ミホは帰る気など全くなかったが、配属される前に実家へ戻った。相変わらずカナミとの会話は皆無だった。
「ミホ。所属先は決まったん?」
「うん。決まっとるよ」
「どこにするん? やっぱりオオサカか?」
「ううん。カワグチの日本御霊浄化組合にした。うち、根暗やってん。昔の友達に会いとうないねん」
ミホの言葉はしっかりとしていて誰も反論できなかった。すると沈黙を通していたカナミがミホに話しかけた。
「頑張っておいで」
「・・・」
「ミホ。ママはミホの味方やで。ママ、反省したんよ。子供の将来を全て否定するなんて親のすることじゃないってパパに怒られたんよ」
ミホはケンタの方を見るとケンタは静かに頷いた。
「カワグチは遠いから体にだけは気をつけて頑張ってね。もし何かあったらオオサカに帰ってきてええんやで?」
ミホはそれを聞いてリビングから急いで部屋へ戻った。カナミは追いかけようとするとケンタが止めた。ケンタは後でカナミと共にミホの部屋の前へ行くとミホのすすり泣く声が聞こえた。
ミホもカナミと仲直りがしたかったが意固地になってなかなか歩み寄れなかったのだ。数年に渡って続いた親子喧嘩は終わったのだった。
ミホは家族に見送られてオオサカからカワグチへ移ることになったのだった。
引っ込み思案な少女は立派な夢を叶えて飛び立っていったのだ。これが立石ミホの辿った人生の道である。




