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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
大宮サトミと凶悪犯編
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作戦会議〜Scary angels〜

作戦会議〜Scary angels〜



 日本御霊浄化組合 ナンペイ地区での捜索作戦被害報告書。

 これには以前私たちが出動した作戦のヤタガラス側の被害についてまとめた報告書のこと。この報告書にはこのように書かれていた。

 日本御霊浄化組合所属浄化師 重症者・一名。中傷者・二名。

 【詳細明記】

 大宮サトミ。状態 重症。

 職務中に持病の心臓疾患の悪化が原因で倒れ、組合かかりつけ医の元へ救急搬送。その後検査の末、入院加療を必須確認し大学病院へ救急搬送し病気療養のためしばらく入院。

 熱田ヨシキ。状態 中傷。

 職務中に悪霊に攻撃され、肩に大きい傷を負わされた。大量出血のため組合かかりつけ医の元へ救急搬送。止血し、大事には至らず。ただし一週間以上一ヶ月未満の休養必須という指導を受ける。

 阿部スセリ。状態 中傷。

 前述同様、悪霊に攻撃され肩に大きい傷と下肢に大量の切り傷を負わされた。大量出血のため前述の熱田と共に組合かかりつけ医の元へ救急搬送。止血し、大事には至らず。『ツキヨミ』の保有者のため追加検査を実施予定。熱田同様一週間以上一ヶ月未満の休養必須の指導を受ける。



 ナンペイ地区での惨敗から一週間後。

 作戦準備室にはシュン、ミホ、ヒジリ、負傷して休養中のスセリとヨシキ、タクヤも集まっていた。議題はもっぱら星見アマツの悪霊浄化に関する作戦会議だ。今回の事案がかなり難題で長期化することは予測できていたが、ここまでヤタガラスに被害が出るとは思わなかった。

「星見アマツの悪霊に対して俺たちは成す術をなくしている。しかも主戦力でもある大宮が持病で休養を余儀なくされた。これ以上、俺は大事な部下が苦しめられる姿を見たくない」

 ヒジリはそう始めた。それは全員が思っていた。そして実際に怪我をしたスセリとヨシキは悔しい気持ちでいっぱいだった。

 あそこで自分が星見アマツの悪霊の刃に倒れていなければ・・・。

 あの時、負の感情に囚われていなければこんなことにはならなかった・・・。

 二人はそれぞれ思いを巡らせた。

「熱田。阿部。お前たち二人のせいではない。それほどあいつは負の感情を吸い込んで強力になってしまっただけだ。しかもあいつは自ら悪霊に堕ちた。それも強さの要因だろう」

 シュンは言った。

「姉ちゃんはどうなったんですか?」

「大宮は明後日手術だそうだ。手術後はリハビリをしてしっかり回復しない限り復職するなと俺から伝えている」

「そうですか・・・」

 タクヤは下を向いた。

 星見アマツの悪霊と実際に対峙したスセリとヨシキが悪霊の特徴を挙げ出した。

 第一の特徴としてはスピードだ。浄化師の目で持ってもスピードは凄まじく追いつけない。気付いた時には傷を負わされている。

 第二の特徴として一振りで相手を戦闘不能にする刃だ。刃の特徴はスセリとヨシキの傷を警察が照合して似た刃の結果が出ている。包丁のような刃物であることがわかっている。

「うちらは生身の人間や・・・。どんなに頑張ってもスピードはどうにもならんわ」

 ミホは言った。まさにその通りだった。悪霊のように自由自在に能力が上がるわけではない。限界がある。

「だったら大量に浄化水晶を奴にお見舞いすればいい」

 ヨシキがそう言った。するとミホは闇雲すぎるわ、と反対する。しかし、ヨシキは対峙してわかったことがあると話を続けた。

「浄化水晶は確実に効果がある。浄化水晶を大量に撃ち込めば勝機はある」

「本気で言ってるんですか? ヨシキさん」

 スセリが聞くとヨシキは頷いた。ヨシキは立ち上がり、説明する。

 相手が悪霊といえど浄化水晶の効果は抜群である。浄化水晶は色によって浄化するパワーが違うことがわかっている。最上級は赤。最上級の赤は希少でそう簡単には発見できない。雲をつかむような話だ。そこでそれよりも劣るが浄化能力が高い黄色の浄化水晶を使用して作戦に臨むべきとヨシキは言った。

「確かにそれなら雑魚悪霊は一発だ。星見アマツの悪霊に一発は難しいが、十発撃てば・・・」

「はい、シュンさん。勝機は確実にあります」

 シュンにヨシキは言った。今全員が黄色ではなく緑や青の浄化水晶を使用している。この二つの色は大量に生み出されるものでなくならない。少し浄化水晶のランクを上げてみるのも悪くはないと。

 シュンはヒジリに進言する。

「ヒジリさん。確かに闇雲ではありますが、勝機はあると思います」

「鳴海。本気か?」

「今まで緑や青の浄化水晶を使ってきたのは、その浄化能力で大体の悪霊が浄化できたからです。しかし、それでは太刀打ちできない。ならば、さらに浄化水晶の浄化能力を上げるしかないと思うんです」

 シュンの言葉にヒジリは唸った。そしてヒジリは決意する。

「わかった」

 ヒジリの言葉を聞いてシュンは頭を下げた。しかし、武器の改良をするには専門家でなければできない。するとスセリが今度は口を開いた。

「大浜先生に相談したらどうでしょうか?」

「大浜さんに? どうして?」

「大浜先生は浄化水晶の研究もしてるって言ってました。大浜先生なら専門家だから武器の改良や浄化水晶のこと知ってるんじゃないですか?」

 スセリが提案したのはスセリの目の謎を解明しようとしているアズミへの協力依頼をすることだった。スセリは以前明智大学大学院へ出向いた際、アズミがそう言っていたことを思い出したのだ。

「ではすぐに大浜さんに俺から連絡しておこう」

 作戦会議は終わった。



 午後十三時。カワグチ某所の大学病院。

 スセリは病院へやってきていた。病室の扉をノックする。すると部屋から声が聞こえてきた。扉を開けるとそこには病院着に身を包んだサトミがベッドに座っていた。

 サトミはスセリの姿を見ると笑顔で迎え入れた。

「スセリさん! 会いたかったわ!」

「サトミさん・・・」

 スセリはスセリのそばの椅子に座った。サトミは鼻に酸素チューブをつけ、腕には点滴が挿されている状態だった。変わり果てた姿にスセリは言葉を失った。サトミはスセリの身体中に巻かれた包帯を見て察する。

「星見アマツにやられたのね?」

「・・・はい。ヨシキさんもです」

「ヨシキも? 大丈夫なの?」

「はい。ゴウさんがしっかりと手当てしてくれて大事には至りませんでした。ただもう少し休養しないといけないんですけどね」

 スセリは言った。

 サトミはスセリに今回は本当にごめんね、と謝った。どうして謝るんですか? とスセリが尋ねるとサトミは言った。

 心臓疾患は幼い頃に受けた大手術で完治したと思っていた。しかし、心臓を悪化させるほど浄化師という仕事は過酷だったことを思い知らされたと。

 サトミは笑った。

「サトミさんはこの仕事に就いたことを後悔していないんですか?」

「してないわ。戦線離脱してしまったことだけが後悔ね」

 サトミは掛け布団をぎゅっと握った。スセリは首に下げた浄化水晶を握った。スセリは決意したように言った。

「必ずサトミさんの仇は取ります。必ず星見アマツを浄化します」

「・・・そうじゃなきゃね。私は信じてるわ」

「サトミさんも手術頑張ってください」

 スセリは草薙館へ戻るため、病室を後にした。



 翌日の午前十時。草薙館。作戦準備室。

 ヒジリは昨日に明智大学大学院へ連絡していた。アズミはそれを引き受け、大学院生であるタイコウを連れて草薙館へやってきた。

「大浜さん。急な申し出をお受けしてもらいありがとうございます」

「金山所長。必ず浄化師の組合には研究者が常駐しているものです。その方は不在ですか?」

「昨今の人手不足でヤタガラスでは研究者はいないんです。私がここに所属して長いですが、研究者をまだお迎えしていません」

 アズミの質問にヒジリが答える。そうでしたか、とつぶやいた。

「だから大浜さんにご連絡をしました。うちの阿部のこともありますし・・・」

 そうですね、と言った。アズミやタイコウの耳にもカワグチを騒がせている星見アマツの悪霊の話は知っている。多くの死傷者を出し、ヤタガラスでも負傷者が出ているという話もだ。

 アズミはスセリを見た。スセリの体には包帯が巻かれ、戦いの代償が見え隠れする。

「そうね。阿部さんのことも聞きたかったし、今回の件は引き受けましょう。その代わり、しばらくここに滞在させていただきたいのです。金山所長、その辺は大丈夫ですか?」

「ええ。草薙館は元々華族の洋館。部屋数はまだまだありますから」

 ヒジリは言った。アズミとタイコウは頭を下げてお礼を言ったのだった。スセリは改めてアズミとタイコウに挨拶に行った。

「大浜先生。タイコウ。お久しぶりです」

「阿部さん。お久しぶりね。でも・・・、少し会わない間にこんな大怪我してしまって・・・。大変だったわね」

「いえ。浄化師認定試験よりも軽いんでどうってことないですよ」

 スセリは笑いながらそう言った。タイコウがスセリの前へ歩み寄る。タイコウは口をゆっくりと動かした。

「スセリさんは怖くないんですか? 悪霊にこんな目に遭わされて」

「怖いですよ。でも私は今までの人生の中で幾度となく死の淵や絶望を経験してきたつもりでいます。悪霊は怖いけど、人生の中での苦しい経験に比べたらなんとも思わないんです」

 スセリの言葉にタイコウはそうですか・・・、と答えた。するとアズミはタイコウの頭をくしゃっと少し雑に撫でた。

「木俣。お前もしっかり成長してくれよ」

 タイコウは頷いた。するとスセリはあることを思い出し急いで部屋へ戻りあるものを取って戻って来た。

 それは以前明智大学大学院へ出向いた時、次持ってきてほしいと呼ばれていた戸籍謄本だった。封筒に入れられた書類を手渡してスセリは仕事へ戻った。



 午後十四時。草薙館。別館の離れ。

 ヒジリとアズミ、タイコウは作戦準備室や居住スペースのある本館から歩いて一分、敷地内にある別館へやってきた。相変わらず蔦の絡まる趣のある屋敷だ。

「金山所長。ここは一体?」

「ヤタガラスの研究棟ですよ。ここでヤタガラス専属の研究者たちが活動拠点を置いて、悪霊や浄化水晶の研究、また浄化師の使う武器の改造や強化をしていた場所です」

「まさか・・・こんなところがあるなんて・・・」

 ヒジリが連れてきた場所はヤタガラス専属の研究者たちが活動拠点にしていた研究棟だった。草薙館の離れを改装してできたものだ。かつてヤタガラスにも研究者が所属していたが時代の流れと人員不足により、十年以上研究者不在だった。結果としてこの研究棟の離れも長い時間閉鎖されていた。

 ヒジリが扉の鍵を開けた。

 少し埃をかぶってしまっている少し薄汚れた研究室が出迎えてくれる。アズミは中へ入り、設備を確認する。戸棚の中にある大量の資料、実験器具などが勢ぞろい。そして壁には強力な赤い浄化水晶が埋め込まれ、悪霊対策も万全だ。

「少し掃除すれば、環境としては申し分ないわね」

 アズミがそう言うとヒジリは頭を下げて礼を言った。そしてもう一つの施設へ案内する。それは研究室からほど近い場所にあるドア。ヒジリが鍵を開けて扉を開ける。そこは窓すらない壁に覆われた真っ暗な小さな空間だった。ヒジリが電気をつけると、壁には大量の戸棚が並べられ、戸棚の中には大量のガラス瓶やプラスチック瓶が並べられていた。

 タイコウが中へ入り、戸棚の中にしまわれた瓶を確認する。その貼られたラベルを見て、目を見開いた。

「大浜先生! これ全部薬品ですよ! 大学院にもない希少な薬品もあります!」

「何ですって?!」

 アズミも中へ入り確認する。

 アズミもタイコウと共に戸棚の中にある薬品を確認する。大学院にも置かれていない希少な薬品が最良の状態で保管されていたのだった。

 アズミがヒジリに尋ねると、ヒジリは扉の前で答えた。

「ここは研究棟の薬品庫です。研究者たちが使用する大量の薬品を保管する倉庫です。今ではあまりお目にかかれない希少な薬品もありますよ」

「素晴らしい。このような場所を提供してくださり、感謝します」

「いえいえ。これも何かのご縁。阿部の目の謎を解明してくれるならば、これくらいはおやすいご用です」

 ヒジリはそう言った。

 アズミはこの研究室と薬品庫をとても気に入り、ここで武器の改良をすることを承諾してくれた。するとタイコウはヒジリが薬品庫の中に入らないことに疑問を感じてヒジリに聞いた。

「金山さん。さっきから扉の前で話してますが、どうしてこっちに来ないんですか?」

 ヒジリが答えようとすると、「馬鹿かっ?!」とアズミがタイコウの頭を小突いた。え?! と驚いているタイコウにアズミは言った。

「薬品庫へ入ることが出来るのは相応の知識を持った研究者だけ! それ以外は立ち入り厳禁なの! 浄化師も薬品庫への立ち入りは禁止されているのよ! 国が定めた立派な決まりごとよ?! これくらい分かってないとダメ!」

「・・・って僕は入っていいの? まず」

 タイコウは自分を指差して言った。するとアズミとタイコウは入り口に立っているヒジリを見た。ヒジリは少し考えて口を開いた。

「まあ木俣くんは大浜さんの研究室に所属していると聞いています。大浜さん同伴ならいいと思いますよ」

「金山所長がそう仰るなら、甘えさせていただきます。薬品庫の管理と使用は厳重に守りますので決して薬品の入った瓶を割るなんて不届きなことを木俣がしないように、監督いたします」

 アズミのただならない圧にタイコウは顔が真っ青になる。薬品の瓶一つ落としたら命がない、と自分に言い聞かせたのだった。

 その日のうちにヤタガラスの浄化師たちの武器が全てアズミとタイコウの元へ持ち込まれた。

 拳銃やライフル、弓矢など武器は様々。かなり骨の折れる作業になることが予想できる。

「多いですね・・・」

「でも私たちがやらなきゃカワグチの人が悪霊に苦しめられてしまうわ。私たちが一肌脱ぎましょ。木俣、迅速かつ使いやすいものに改良するわよ」

「はい」

 アズミはタイコウと共に武器の改良作業に打ち込むのであった。



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