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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
繁華街の厄介者編
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絶望と犠牲〜After the storm〜

絶望と犠牲〜After the storm〜



 あれからどれくらいの時間が経過したんだろう。

 私はあの後意識を失い、サトミさんの表情を最後に意識を失った。

 私は眠っている間、いろんな夢を見ていた。しかし思い出すのは、絶望にも似た子供の頃の経験だった。私はいつも絶望と隣り合わせの生活を送ってきた。

 そのせいなのか、私の性格はねじ曲がり、容易に心を開くことはなかった。

 そんな自分だから、自分の身を犠牲にしても構わない。そんな考えが身についてしまったのかもしれない。



 ニシ地区の悪霊浄化から二日後。

 スセリはゆっくりと目を覚ました。

「スセリちゃん!」

 ミホの声がしてスセリの意識がはっきりしてくる。スセリはゆっくりと上半身を起こす。スセリはジャケットを脱いだ白いシャツ姿でベッドに横になっていた。額には包帯が巻かれている。

「ミホ?」

「スセリちゃん! どこも痛くあらへん?」

「うん。大丈夫。私どうして?」

「スセリちゃんは頭怪我して岩永さんとこに連れて行ったんよ! 処置してもらった後でヨシキさんが部屋まで運んでくれたんやよ!」

 そうだったんだ、とスセリは呟いた。するとミホは怖い顔をしてスセリに近づいた。

「うちと約束したやん。もう自分を犠牲にするような作戦はしないって!」

 ミホの言葉にスセリはごめんね、と呟いた。スセリはなんとなくわかっていた。自分がこのように自分が犠牲になる作戦しか考えられないのは、自分の歪んだ性格のせいであると。

 もう二度としない。

 そう決めたのにスセリはその方向性にしか考えられなくなっていた。

「私馬鹿だからさ。ごめんね」

「スセリちゃんが次そんな行動を起こしたら、うちが全力で止める。ええね?」

「うん」

 ミホに強く言われてスセリは頷くことしかできなかった。

 その後、スセリはミホと一緒にパブリックルームへ行くとそこにはヤタガラス全員と岩永兄妹が待っていた。

「スセリさん、怪我は平気?」

「はい。ご心配をおかけしました」

 スセリは心配して声をかけたサトミに頭を下げた。

 するとヒジリがスセリに目を向けた。

「今回の悪霊浄化本当にお疲れ様。詳細はすでに綿津見に報告済みだ。今回は鳴海のお手柄だな。そして阿部もだ」

「ありがとうございます」

 スセリは頭を下げた。

 今回の浄化業務で怪我人を処置したゴウが報告をする。

「今回怪我人はそこにいるお嬢ちゃんだけだ。お嬢ちゃん、めまいや吐き気なんかはしねえか?」

「特にないです」

「まあ歩いて立ちくらみもないし歩行も正常だ。もう心配する必要はねえだろう」

 ゴウはそう言ってスセリの怪我状況の様子が書かれた紙をテーブルに置いた。

 今日は通常業務は凍結され、緊急通報のみ対応となった。浄化師たちは疲労困憊しており、各自部屋で休んでいた。

 パブリックルームに残っていたヨシキはヒジリと一緒にお茶を飲んでいた。

「熱田」

「金山さん」

「俺は心配だったんだ。お前は血の流れた現場を見ると思考が停止する。今回の現場はまさに言葉通りの現場だったからな」

 ヒジリはヨシキが持つトラウマを知っている。ヨシキを新人時代から見守ってきたヒジリはヨシキの心の傷が癒えるのを待っていた。しかし、押し寄せるトラウマの波をヨシキは一人で戦っていた。

「僕は大丈夫です。僕がトラウマに囚われたままだったせいで阿部に迷惑をかけたので。阿部には申し訳ないと思っています」

「克服は難しいかもしれない。だが、時間がかかったっていい。この世に完璧な人間なんていないんだから」

 ヒジリはそう言ってヨシキの背中をポンと叩いた。

 ヒジリは思い出していた。震えながら草薙館にやってきた幼い少年は、立派な浄化師となっていることに。

「熱田」

「はい?」

「これからも頼むぞ」

「わかってますよ」

 ヨシキは笑った。



 スセリは自分の部屋にいた。

 結んでいた髪の毛を解いてベッドの上で仰向けになっていた。

 空は夕暮れに染まり、窓の外を見た。

 するとミホが言った言葉が頭の中で響く。


「もう自分を犠牲にするような作戦はしないで。もし次そんな行動を起こしたら、うちが全力で止める」


 スセリは額に触れる。

 スセリが身を呈する行動に出るたびに体のどこかに怪我を負っている。ミホがそう忠告してくるところも分かっている。

「もう少し自分を大事にか」

 スセリはそう呟いた。

 一方所長室ではヒジリが書類整理をしていた。すると大きな茶封筒が届いた。宛先を見ると、ヒジリ宛。そして宛名は明智大学大学院。ヒジリがスセリの目の力についての解明を依頼した専門機関である。

 すでにゴウが視力検査の結果を明智大学大学院へ郵送している。それに関する返事が返ってきている。ヒジリは茶封筒を開く。

 そこにはパソコンで打ったであろう書面が入っていた。

 書面にヒジリは目を通す。


 日本御霊浄化組合 金山ヒジリ様

 ご無沙汰しています。先日、日本御霊浄化組合専属のかかりつけ医である岩永医師より、対象者である阿部スセリさんの視力検査の結果が無事こちらの手元に届きましたことをご報告させていただきます。

 視力検査の結果を初見で見たところ、目の機能自体は正常で大きな病気が要因ではないかと思われます。しかし、一般的な正常値でもそれが浄化師で悪霊を捉える目を持つ人物となれば話は変わってきます。

 近日中に本学へ足を運んでいただき、詳しい調査をしたいと考えております。日時はそちらにお任せし、都合のつく日にもう一度ご連絡をしていただければと思います。

 お手数をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い致します。


 明智大学大学院教授 大浜アズミ


 ヒジリはその手紙を持って急いでスセリの元へ向かったのだった。

 こうしてニシ地区を騒がせた悪霊は無事に浄化された。スセリにも研究者という専門家のメスが入る。どんなことが起きるのかヤタガラスの面々はまだ知るわけがなかった。



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