芝刈り機
菅野洋兵はごく普通の庭師である。毎日木を剪定し、毎日玉砂利を発注する、齢29の庭師である。今日も今日とて、池のある豪邸の庭にでっかい岩を納品したあと、行きつけのコンビニでグリーンティーとレタスサラダを買って家路についていた―――のだが。
ギュキュ―――ギュキュキキイッ!!ギュウキギュ―イ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。菅野洋兵の魂と、女神が対面している。
「菅野洋兵さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
菅野洋兵(29)
レベル18
称号:転生者
保有スキル:芝刈り機
HP:98
MP:10
「というわけで、いきなり草原に放り出しやがったな?!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が庭師の前に現れた!
「おっと!!!スライム出たよ!!武器は!なんもないけど!!どうすんだよ!!マジで!!!」
うろたえる、庭師。
「そうだ、保有スキル試すか!!芝刈りきぃ?!」
うばほん!!!
庭師の前に自走式エンジン芝刈機が出てきた!ぶいーん!!
「おお?!これでスライム刈るか!!」
庭師はスライムを刈りはじめた!!自走式で刈ったものはボックスに収納されるぞ!これなら毒にやられる心配もない!庭師はスライムをすべて刈り取った!!
てれれてっててーーー!!!レベルが上がった!庭師はレベルが20になった!剪定刈りバサミ無双を覚えた!!
「おお!すげえな!俺無敵じゃね?!」
そこにゴーレムが現れた!ガキイ―――――――――ん!!ゴーレムに芝刈り機は効かない!芝刈り機は壊れてしまった!
「ぎゃああああああああああああ!!!」
壊れた芝刈り機のボックスから刈り取ったスライムの毒液が漏れだし、庭師に襲い掛かった!庭師は毒が回って絶命した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
庭師は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
庭師は行きつけのコンビニでグリーンティーとレタスサラダを買って店に戻ろうとしていた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと、早く通りかかってたらひかれてたじゃねえかっ…怖い怖い!!」
庭師は、超豪邸の庭造りを任されて超気合を入れて望んだもののお客様の納得がいく庭に仕上げることができずずいぶん凹んだ事もありましたが、庶民向けの雑草取りサービスに力を入れたところかなり高評価をいただけたので独立し、マイペースに仕事を続けながら自宅庭をイルミネーションだらけにした結果、近所どころか全国から見物に来る人が殺到して大変なことになりつつも充実した毎日を送って80歳でこの世を去ったということです。




