中乗り前降り
和田昇二はごく普通のバス運転手である。毎日でっかいバスを運転し、毎日小さい子供にボタン押していいよと言ってあげる、齢35のバス運転手である。今日も今日とて、座席の一番後ろに置き去りになっていたくまちゃんを事務所に届けた後、行きつけのコンビニでキュウリのきょんちゃんと赤鬼殺しを買って帰路についていた―――のだが。
キイギギギュ―――!!ギュイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。和田昇二の魂と、女神が対面している。
「和田昇二さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
和田昇二(35)
レベル21
称号:転生者
保有スキル:中乗り前降り
HP:20
MP:20
「というわけで、いきなり草原に放り出されたな、どうした、いったい。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がバス運転手の前に現れた!
「おおお?!スライム?!戦う?武器ぐらい用意してもらわないと無理だろ!!」
うろたえる、バス運転手。
「あ!保有スキル!中乗り前降り?バスは…?」
うばほん!!!
バス運転手の前にいつも乗ってるバスが現れた!!
「ご乗車の方は、バス中ほどの入口よりお乗りください、整理券も取って下さいね。」
スライムは整理券を一枚取ってバスに乗車した!アッ、この下車ボタン押したい!!
「下車ボタン、まだ誰も乗ってないから押していいよ!」
≪ピンポーン!次、下車します≫
スライムは大喜びでボタンを押している!バスの停車駅でオークが待っているぞ!
「ごめんね、お客さんが乗ってくるから、もうボタン押さないでね。」
スライムはしゅんとした。
次々にバスにお客さんが乗ってくる!次々にお客さんがバスを降りる!バスは終点に到着した!
「お客さん、終点の草原の果てだよ。降りてね。」
やだ!!もっとボタン押すんだい!!スライムはバス運転手を捕食した!スライムは心行くまでボタンを押し続けたという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
バス運転手は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
バス運転手はコンビニでキュウリのきょんちゃんと赤鬼殺しを買って帰路についた。自宅近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「あと少し早く通りかかってたら明日のバス運行がヤバかったかもな…。」
バス運転手は、産気づいた妊婦さんを病院に届けるという偉業を成し遂げて一躍有名人になったものの、その時同乗していためんどくさい人に絡まれるようになり、ずいぶん辟易したのち事務職に転向しバスの運行表管理の仕事に邁進しましたがまさかの過疎化でバス会社が消滅してしまい定年間際に職を失ったものの、幼稚園バス運転手として再スタートを切り、安全第一できっちり勤め上げ73歳でこの世を去ったという事です。




