フィットネストレーナー
横江喜美はごく普通のスポーツインストラクターである。毎日エアロビ講師を勤め、毎日サーキットトレーニングコーナーの整備をする、齢26のスポーツインストラクターである。今日も今日とて、ホットヨガで汗を流しまくった後、行きつけのコンビニでアミノバイセクルとカチワリ氷を買って家路についていた―――のだが。
キイギュウギュキュ―――ギュギュキュキュ!!キギュイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。横江喜美の魂と、女神が対面している。
「横江喜美さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
横江喜美(26)
レベル8
称号:転生者
保有スキル:フィットネストレーナー
HP:8
MP:2
「というわけで、いきなり草原に放り出されたよ!ちょっとーええ?!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がスポーツインストラクターの前に現れた!
「わああ!スライムぅううう?!!戦う?!嘘!どうやって!!!」
うろたえる、スポーツインストラクター。
「保有スキル使ってみないと!!フィットネストレーナーって!!」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「はい、それでは、まず柔軟体操から!!って、柔らかいからだ!!ええと、ではエアロビ、ミュージック、スタート!」
♪何やらノリのいい音楽が始まったぞ?!
「はい!音楽に合わせて右左右左!両足を広げて膝曲げて!レッグカール!はいイチ二、サンシ!」
♪ノリの良さに草原のモンスターが集まってきたぞ!!
「はい!音楽に合わせて右左右左!手をあげまーす!はい、右、左、右、左!…」
ぶちゅ!!!
スポーツインストラクターは混んできた草原のスタジオで、サイクロプスに踏みつぶされてしまった。あーあー、入場制限しなかったから―!!!
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
スポーツインストラクターは時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
スポーツインストラクターはコンビニでアミノバイセクルとカチワリ氷を買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もーちょっと早く通りかかってたら明日のセカンドスタジオの二コマ目空いちゃうとこだったよ!」
スポーツインストラクターは、最近の筋トレブームに乗っかってずいぶんたくさんの人たちをマッチョ化させたのち自らもマッチョ化にチャレンジしてみようと思ったものの、彼氏の猛反対にあってそれをあきらめることとなり、普通に家庭に入って普通に子育てをしたのち中年太り対策でジムに通い始めた結果、やけに筋肉質のおばあちゃんになりましたが穏やかさと優しさにはずいぶん定評があり、にこやかに水中ヨガを楽しんだ次の日に72歳でこの世を去ったとのことです。




