企画展示
新山昭代はごく普通の学芸員である。毎日美術館に立ち、毎日芸術品のすばらしさを見つめる、齢23の学芸員である。今日も今日とて、来館者に西洋美術と東洋美術の違いについてご説明した後、行きつけのコンビニで色鉛筆と麦チョコを買って帰路についていた―――のだが。
ギギギュ―――キュキュキイッ!!ギュイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。新山昭代の魂と、女神が対面している。
「新山昭代さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
新山昭代(23)
レベル9
称号:転生者
保有スキル:企画展示
HP:16
MP:10
「というわけで、いきなり草原に放り出されてしまいましたね、どうしようかな、ええっと…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が学芸員の前に現れた!
「えっ!スライムっ?!武器?!ないよね?!まほう?!まさか!!」
うろたえる、学芸員。
「そうだっ!保有スキル!試してみたらなんとかっ…企画展示?!」
うばほん!!!
学芸員の前に芸術作品が現れた!スライムは見事な彫刻に魅入っている!
「こちらのムロのヴィーナスは両手首を失うことで普通には得られない美を獲得したものです。手首は人間にとって他者との関係をつなぐものであり、失われることにより見るものに無の手首の存在を表し、可能性を暗示しています。つまり、手首があったとしたら芸術的感動は味わえないのです。」
え、何々、これ味わえるの、じゃあ食べちゃお!!スライムはムロのヴィーナスを捕食しようとしたがこれはただの石膏だ!!まずい!!なんてもん食わせるんだー!怒り狂ったスライムは学芸員を手首から捕食した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
学芸員は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
学芸員はコンビニで色鉛筆と麦チョコを買って帰路についた。自宅近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「あと少し早く通りかかってたら大変だったに違いない、怖いなあ、気を付けて、気を付けて。」
学芸員は、丁寧で押し付けないギャラリートークが好評をいただいていたのですが、ある時自分が専攻していた分野の企画展が開催されることになり、あまりの嬉しさにテンションフルマックスで熱弁をふるった結果、あの美術館にはものすごい熱血解説者がいると噂になって来場者数を飛躍的に伸ばしたのち美術館閉館まで勤め上げ、77歳でこの世を去ったという事です。




