温泉マイスター
沖原俊行はごく普通の風呂好きである。毎日朝風呂に入って、毎晩日替わりで温泉の元を楽しむ、齢44の風呂好きである。今日も今日とて、スーパー銭湯帰りに、行きつけのコンビニでバスソルトとテトラポッド型の牛乳を買って家路についていた―――のだが。
キキィイイ!!キイイイイイイイ――イイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。沖原俊行の魂と、女神が対面している。
「沖原俊行さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
沖原俊行(44)
レベル33
称号:転生者
保有スキル:温泉マイスター
HP:50
MP:17
「というわけで、いきなり草原に放り出されてるよ…何なんだ、俺…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が風呂好きの前に現れた!
「うぐ!スライムがあ!!武器は?!おいおい、俺に戦えってか?無理やんけ!!!」
うろたえる、風呂好き。
「そうだ!保有スキルを試してみよう、温泉マイスター?ちょっと待て、ここに風呂は…?」
うばほん!!!
風呂好きの前に岩風呂が現れた!!
「むむ、この白っぽくて独特の匂いのお湯は…単純硫黄泉だな?胃腸病・神経痛・腰痛症・膝関節炎・リュウマチ・ゼンソク・婦人病・更年期障害・心身症・血行障害・痔・内臓手術後の療養・冷え性・その他冷えよりくる諸病に大きな効果があるはずだが…。なぬ!!スライムが入浴するだと?!」
スライムは温泉に浸かっている!とても気もちよさそうだ!!風呂好きは自分も入りたくなってうずうずした!!もう我慢できん!!風呂好きは服を脱ぎ捨てるとかけ湯もせずに温泉にダイブした。そして案の定。
「ぎゃああああああああああああああ!!!!」
温泉に溶け出したスライムの毒が全身に回って絶命した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
風呂好きは時間を巻き戻されて、コンビニ入り口に立っていた。コンビニに入る前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
風呂好きはバスソルトとテトラポッド型の牛乳を買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もう少し早く通りかかっていたらペッちゃんこだよ。勘弁してくれよ、風呂チケットまだ6000円分残ってんだからさあ。」
風呂好きは、毎日自宅の風呂に入りつつ休みのたびに全国各地の温泉をめぐる生活を長く続け楽しんでいましたが、ある時入った温泉でうっかり眠りこけてひどい湯あたりをしてしまってからはすっかり温泉の元ファンになり、いつもお取り寄せまでしてお湯を楽しみつつ87歳の人生を終えたそうです。




