ピザ回しの極意
藤田由紀はごく普通のピザ屋である。毎日ピザ生地を薄く延ばし、毎日電話注文を受ける、齢24のピザ屋である。今日も今日とて、トッピング全乗せの注文を受けてひーひー言ったあと、行きつけのコンビニでしば漬けとカミカミ昆布を買って家路についていた―――のだが。
ギュキュ―――キュキュ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。藤田由紀の魂と、女神が対面している。
「藤田由紀さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
藤田由紀(24)
レベル5
称号:転生者
保有スキル:ピザ回しの極意
HP:20
MP:16
「というわけで、いきなり草原に放り出すんだ、ちょっとひどくね?!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がピザ屋の前に現れた!
「げぇ!スライムっ?!武器も何もないのにさあ、むちゃな展開過ぎだべ?!」
うろたえる、ピザ屋。
「はっ!保有スキル!ピザ回しの極意だとおおおおお?!こいつ回してええんかい!!回したるわ!!」
うばほん!!!
ピザ屋の手に薄いゴム手袋が装着された!これで衛生面はばっちりだ!
ピザ屋はスライムを手に取ると、空中でグルングルン回し始めた!!みるみるスライムが薄く延ばされていく!!おお!!これがピザ回し大会日本代表のテクニックか!!
「何この生地!めっちゃ伸びる!!これは限界まででかく延ばしたい!!…やるか?…やるか!!」
ピザ屋は調子に乗って生地をどんどん薄くしている!薄い!!薄すぎる!!向こう側が透けるくらいだ!さすが!!と思った瞬間!
「ぎゃあああああああああ!!!」
薄くなり過ぎた生地が破れて、そこからスライムの体液が流れ出し、それを浴びたピザ屋は絶命した。ちなみに、スライムの体表を覆う毒と体内に満たされている毒は違うものらしい。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
ピザ屋は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
ピザ屋はコンビニでしば漬けとカミカミ昆布を買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「あと少し早く通りかかってたら次の大会出れなくなってたやつじゃん!こええええええ!!」
ピザ屋は、ピザ回しのテクニックもさることながら大変においしいメニューを丁寧に仕上げて提供するその姿勢が多くの人たちを魅了し着実に店舗を広げて全国チェーンを展開するようになりましたが、目の届かない店舗でクソみたいな提供をしたクソ店員の余波を受けて事業縮小を余儀なくされ全店舗を手放すこととなり、自宅で細々とピザを焼く生活を続けたのち64歳でこの世を去ったという事です。




