食、斯くあるべし
玉置あゆみはごく普通のフードコーディネーターである。毎日美味そうな食べ物の写真を撮り、毎日メニューの開発に心血を注ぐ、齢29のフードコーディネーターである。今日も今日とて、お料理教室の帰りにコンビニでもやしクラブと水色ページを買って家路についていた―――のだが。
ギュギ―――ギュ―――イッ!!キッイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。玉置あゆみの魂と、女神が対面している。
「玉置あゆみさん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
玉置あゆみ(29)
レベル14
称号:転生者
保有スキル:食、斯くあるべし
HP:27
MP:24
「というわけで、いきなり草原に放り出されたんですけど、どういうことですか、ええ、困りました、はい…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がフードコーディネーターの前に現れた!
「え?!スライム?!武器も何もないけど!私食べられちゃうの?!」
うろたえる、フードコーディネーター。
「あ!保有スキル!試してみないとだめですよね、ええと、食、斯くあるべし?何それ!」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「ひぃい!!食はねっ!!見た目から美味しくなければならないのよぉ!!ぐっちゃぐちゃのものよりも美しく空腹を誘うような配置と配色、そして香り!!あなたに食の何がわかるっていうのよぉおおおお!!!」
うばほん!!!
キッチンスタジオが現れた!さっきまで作ってたお料理教室のメニューがテーブルの上に並んでいるぞ!!これはうまそうだ!!!スライムは体を縦長くして覗き込み、食べようとしたが!
「ちょっと!まだ食べちゃだめよ!!よく見なさい!!見なさい!このバランスの取れた配置!ハンバーグを囲い込むベシャメルソールのデザイン!あなたね、白いソースをここまでおいしそうに見せるのは至難の業なのよ?クレソンの緑とトマトベースのソースがどれほどの恩恵を与えているのかわかる?!皮付きポテトフライをいかに芋っぽく見えないように皿というキャンバスに押し込めるのか!そういうテクニック!!!」
四の五のうるさいな!!こんなうまそうなんだから食わせろよ!!スライムはぐちぐちうるさいフードコーディネーターをぱくりとひとのみすると、美しく盛り付けられたハンバーグを上品にいただいた。確かにうまいけど、ちょっと気取り過ぎじゃないかとスライムは思ったらしい。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
フードコーディネーターは時間を巻き戻されて、コンビニの前に立っていた。コンビニの前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
フードコーディネーターがコンビニでもやしクラブと水色ページを買って帰路についていると、家の近所の交差点で車の暴走事故が発生していた。
「あと少し早く通りかかってたらひかれてた…買いコンである食材パアになっちゃうところだったかも?こわ。」
フードコーディネーターは、見た目に鮮やかかつおいしい食事を多く発表しカリスマの名をほしいままにしていましたが、炊飯器調理ブームが来たことで見た目にまずそうなくせに飛び切り美味い料理に戦いを挑んで負けてしまってからずいぶんやる気をなくしておとなしくする羽目になり、かなり辛酸を嘗めさせられたものの土鍋で雑炊ブームを引き起こすことができたのでまあまあ満足して69歳でこの世を去ったという事です。




