第二章 受け継がれし者(四)
一年校舎と更衣室に挟まれた小道は、建物の構造上、太陽の光が差し込みにくい。じっとり湿った土に彼女が髪を流して横たわっていた。首の付け根にアイスピックで刺されたような二つの傷跡。これは、まずい。頸動脈までヤられてないよな?!
腰を屈めたとき、ふと今朝の悪夢が甦った。
「美麗さん!伏せて」
シスターの弾丸が俺のツインテールのアーチを通過した。シスター、むちゃぶりっス。
青い弾道は、今にも襲いかかろうという体勢の女生徒の額を貫いていた。
「死んだのか」
「まさか。魔法仕掛けの催眠銃です」
三年校舎から、悲鳴が上がった。またあの男子生徒か。
俺とシスターは、中庭を横切り、渡り廊下をひた走った。
☆☆☆
問題は声の主が、豹変していたことと、もうこの校舎内に、自我を保っている者が見当たらないということだ。
俺たちは、廊下で挟み撃ちにされていた。生徒相手に俺の竹刀は使えない。頼りは、シスターの銃しかなかった。それにも、限界がある。魔力を供給しつ続けるには彼女の体力が持たなかった。
腕っぷしだけで、切り抜けられる数じゃない。一斉に、ゾンビが飛びかかってきたときだ。
もうここまでかと諦めかけたその瞬間、彼らの動きが止まった。
上方に大きな白い翼を背中に生やした女性がハープを奏でながら跳びぬけていく。
彼女の先に、召喚師 大上 るう(おおかみ るう)くんの姿があった。
「ふたりとも大丈夫ぅ?」
ゾンビたちは、天使の魔曲によって眠らされ屍のように重なり合って周囲に転がってしまった。
「とにかく、ここを出ましょう」
シスターの掛け声で、俺たち三人は、出入り口に向かった。
これは何だろう。
人の山から、ベース音が聞こえてくることに気付いた。ウォークマン!足首を掴まれたときにはもう遅かった。こいつの耳に召喚獣の音色は届いていなかったのだ!




