第二章 受け継がれし者(三)
学院には、学年ごとに三つの校舎が別に設置されている。俺は、一年校舎の三階。教室の席は、窓際の一番後ろだ。ちょうどここから、女子更衣室が見下ろせる。保健室の那津子先生(30歳独身。お色気系女医)が利用するなら有難いが、中学女児は俺の範疇外だ。
余談だが、三年に、エセ王子と、ロリショタ召喚師(どう見積もっても小学三年生がいいところだろ)が所属しており、シスターは同じクラスで、今、前列の黒板前に座っている。
教壇では、年配の男性講師が数式を黒板に書き写していた。
まさか、二度も中学の授業を受けるとはね。ウォークマンからロックを垂れ流しているバガや、チョコレート菓子を仲間と分け合っている女子連中。良い思い出あるわけでもないのに、どうしてこう、懐かしさが込み上げてくるんだろうな。
センチメンタルな気分に浸って窓の外を眺めた。陽射しが肌に照りつけてくる。
なにげなく、女子更衣室の屋根が目に入った。授業中に利用する生徒もいないと思ったが建物の影から人の声が聞こえてくる。
『いやよ……和くん、こんなところじゃ。あんっ』
ガキが!何ほざいてくれてんだ。
腹立たしい。息を止めて、耳を大きくしている自分が一番腹立たしい。
いや、考えてみれば、一階二階は、移動教室になっていて今の時間は、確か空室になっているはず。現行を鑑賞、もとい、把握するには、ここに座席を構えている者に与えられた義務なのではないか。
大人として未成年の不正行為を見過ごすわけにいかん。
これは、なんのやましいことではないぞ。
俺は、致し方なく、実に致し方なく、そっと様子をうかがってみることにした。
『んっ……ああんっ……ちょっ、和くん!やだ!離して!』
男子生徒が、女生徒を壁に追い込んで覆いかぶさっている。ったく、これだからガキは!
なんだ!首を噛まれているのか。みるみる、彼女が衰弱していくのがわかる。アイツは思春期の男子の様子ではない、まるで獲物に食らいついている食人鬼だ。
「せんせー!俺、猛烈に腹下してるんで保健室行ってきます!」
教壇のバーコードは、“お手洗いに行きなさい”と言って送り出してくれた。




