第二章 受け継がれし者(二)
相部屋のシスターは、すでに寮を出ていた。マリオネット学院の礼拝堂は学校の中央に位置しており、男子寮より遠方に建てられた女子寮からは、少し距離がある。
俺は、会衆席の前列に深く腰掛け、堂内の神聖な空気を腹に溜めた。シスターは、早朝礼拝の後片付けのために忙しくしている。
「寝坊ですか」
「いや、俺は、こういうの苦手でさ。それに、この空間を一人占めできる方がずっと贅沢だろ」
脇に抱えた菓子の袋から朝食代りの煎餅を一枚頬張る。船底の建築を模した半球型の天井は、ぱりんと気持ちの良い音を響かせた。
「美麗さん、ここは飲食厳禁ですよ。場所をわきまえてください」
なんて器の小さな守り神だとは言わないでおく。
それでなくとも、今日、彼女は、機嫌が悪いらしい。さっきから、シスターにしては聖書の扱いがぞんざいだ。らしくないな。彼女が、本棚の前で手止めた。
「昨日、どうして、私に相談してくださらなかったのですか」
え、俺?俺また何かやらかしてたの?
「や、その……」
「ずっと、そばにおりましたのに、そんなに、私は、美麗さんとって頼りになりませんか」
「何言ってんの!ただ、昨日は、動転してて……どうして、化け猫の一件に、俺が絡んでることを知ってるんだ」
「あの方が教えてくださいました」
シスターの視線を追って、後列の端に畔上さんの姿を見つけた。あ、着いてきてたのね。
段々、彼女が背後霊に見えてきたのは、ここだけの話だ。




