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Dear mermaid  作者: 青山 壇
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episode 1

 今、世界中を魅了している一人の女歌手がいる。

俺はその女性に会うべく、彼女のライブが行われる

コンサートホールに来ている。

円形に設計されたコンサートホールはとても大きく、

最後列の観客席から見る彼女は点にしかならないのではないかと思うぐらいだ。

ホール内にカメラは設置してるものの、

それを映し出すモニターは見当たらない。

その代わり、マイクやスピーカーは滞りなく設置されている。

彼女を見に行くというよりは、彼女を聴きに行くといった感じだ。

続々とホールに入り込んでくる観客の年齢層は様々で、

子供から老人まで、まさに老若男女と言える。

これだけ広い会場を迷うことなくスムーズに行き来している様子を見ると、

リピーターが多いのだろう。


「さて...。

 追憶のマーメイドを迎えに行きますか。」


これから行われるコンサートを楽しみにしながら

俺はホールの外へと出て行った。


*****************************************************


さて、全員ホール内の指定された席へつき、

まだかまだかとざわついている客席は今日も忙しない。

興奮を隠せない観客も、音楽が流れ始めると

誰一人として口を開かなくなる。

静寂の中緩やかな音楽が流れ、中央のステージに

ドレスを身に纏わせた目的の女が現れた、瞬間。

客達は再び声を上げ興奮を露わにする。

女は踊りだすわけでもなし、掛け声をかけるわけでもなし。

マイク1本を持ち、その雰囲気に似つかない曲調でしっとりと歌い始めた。

低音から高音まで隙なく透き通った美しい声色だ。

その声色を聴いた客達は、

超一流エステティシャンにマッサージをされているかのように腑抜けてゆく。

中には眠っているのではないかと思われるぐらい

体の力が抜けきっている者もいる。

ホール内は女の声色に包まれ、観客たちはただただ

魅了の声色に酔いしれる。

その時、突然ホール上方で大きな爆発音が響いた。

女は歌を止め、観客達はざわつき始めた。

爆発はいちどに留まらず、ホール内上方で幾度か爆音を放つ。

スポンサーは観客達への避難の誘導よりも女の避難を優先する。


「皆様、落ち着いてください! 

 落ち着いて、直ちにこのホール外へと避難してください!」


放送がかかり、観客達は出口の方へと詰め寄る。

観客達がもたついている中、上方から男の声が聞こえた。


男の声「クラリスさん!待って!!」


その男の声に、先までステージで歌っていた女が振り返る。

振り返った瞬間、女の視界は宙へ舞った。

何者かに抱きかかえられ、今自分は宙を舞っている。

よく見れば、自分を抱きかかえている男は、

ホールの天井のどこかに繋げられたロープに掴まり、

ターザンのようにしてスポンサーの手を掻い潜り、

自分をさらったのだということが伺えた。

ホール上方、所謂「立ち見席」に着地し、

抱えられた体を丁寧に下ろされる。

その時、初めてお互いの目が合った。

相手は銀髪の綺麗な少年のような青年だった。


青年「危険な目には合わせない。 俺は今から君をさらう。

 今だけでいい、信じてさらわれてくれないか?」


何を言っているのかサッパリ分からなかったが、

こちらが答えを返す前に自分の手を引いて走り出してしまった。


クラリス「誰?何が目的なの?」


咄嗟に頭に浮かんだ事を聞いてみる。


青年「事情は後で話す!今はとにかく走って!!」


客が避難している方とは逆の人気のない通路、

爆発の起きた通路からホール外へと出る。

そこには青年の仲間らしい、

もう一人の男が立っていた。


男「ソル!やったな!」


ソル「ラグ!いいから急いで!走って!」


振り返ると、ガードマンらしいスポンサーの人間が

女を取り返すべく全速力で走ってくる。


ソル「ごめんね!無理させちゃって!

 今だけだから頑張って!」


ソルと呼ばれた銀髪の青年が笑いかけながら女に声をかける。

走り続け、屋外へと出ると今にも飛び立ちそうな飛空艇が待っていた。


女の声「飛び乗って!早く!」


パイロットの女が3人に呼びかける。

半ば強引に飛空艇に乗せられ、

あっという間にホールから遠ざかって行く。

同時に、何やらビラを大量に撒いている。


これから自分は何をされるんか、

そもそも自分をさらったの理由はなんなのか。

何も分からぬまま、知らぬ人たちに知らぬ地へと

飛ばされていくのだった。


*****************************************


ソル「はぁー!何とか上手くいったなぁ!

   あ、強引に連れてきちゃってごめんね、クラリスさん。」


悪い人たちには見えない。

だが、なぜ自分をさらったのか。


クラリス「何が目的なの?」


ソル「目的は落ち着いたらゆっくり話す。 今言えるのは、

   君には絶対に危害を加えない。 安心してくれ。」


女パイロット「突然誘拐されて散々走らされた人に安心してくれ

       なんて言われても安心できるわけないでしょ!?」


パイロットの女が口を挟む。


女パイロット「ごめんねークラリスちゃん!男に振り回されて大変だったでしょ?

       ここではゆっくりフライトしよ!」


赤髪のポニーテールの女だ。

女性らしい見た目によらず、

少女のような元気さが見受けられる。


女パイロット「あ、あたしテニーだよー! よろしくねーん。」


ソル「俺はソル!さっきは振り回して本当にごめんね。

 で、この緑だか青だか分かんない髪のやつがラグ!」


ラグ「こういう髪色で生まれたんだから仕方ないだろ?」


ラグと呼ばれる男、全体的には緑色の髪色で、

毛先は青く変色している。

テニーとソルとは違い、外見、内面共に

大人らしい雰囲気を纏わせる。


ラグ「クラリスさん、今はこうして無理やり連れてきちゃったけど、

   いずれはあの会社に戻れる。」


テニー「やめてよラグー。 それはこの計画が失敗したらの話でしょー?

    クラリスちゃん連れてきちゃった時点ですっごい迷惑かけてるんだからねー?」


ソル「そうだよ。もしクラリスさんに帰る所が無くなったら

   俺たちが守ろうって決めたじゃないか!」


ラグ「それはもちろん、そうするけど...。」


クラリス「待ってよ、さっきから何を言っているのかさっぱり分からないわ。」


ずっと話を聞いていたクラリスが口を開く。


ソル「あぁ、ごめんね、さっきから不安だよね?

   とりあえず、連れて行くところがある。

   そこでちゃんと説明はするよ。」


どうやら本当に危害を加えるつもりはないらしい。

そもそも、なぜ自分はあの時、無理矢理にでも足を止めなかったのかと考える。

足を止めていればガードマン達に無事に救出されていたはずだ。

結局、この青年のすぐ謝る癖に悪感を覚えなかったのだろう。


テニー「これから行くところはねー、私たちの住んでるところ!

    そこにクラリスちゃんを守りたいと思ってる人、沢山いるから!」


クラリス「私を守る...?」


クラリス(この人たち、私の何を知っているの...。

     どうして守ろうとだなんて...。)


ラグ「これは、君を守るのと同時に、俺たち自身も守ることだと思って

   今こうしているんだ。 連れ出すのは派手になっちゃったけど、

   今後悪いようにはしないから、後で話は聞いて欲しい。」


クラリスは黙って頷いた。

ここまで気を遣ってくれる人たちに

抵抗する意義はなかった。

話を聞けば何かが分かる。

彼らの目的も、自分の立場も。


4人乗りの小さな飛空艇は、

真っ直ぐに彼らの住居へと飛ぶのだった。


住んでいるところと聞いていたので、

街中の住宅街に連れて行かれるのだと思っていたが...。

着いてみるとそこは山の麓にあるキャンプ地だった。


クラリス「ここに住んでいるの...?」


ソル「そうだよ。

   まぁ、いろんなところに点々としてるからテントなんだけどね。」


一行がテントに向かって歩いていると、

他のいくつかあるテントの中からそろそろと人が顔を出してきた。


大柄な男「おぉ、やったんだな!」


ガタイのいい男「待っていたよ!」


キャンプ地の住民皆でクラリスを向かい入れる。


小太りな女「クラリスさん、大変だったでしょう?

      中でお茶でも飲んでゆっくりしましょう?」


クラリス「え、えぇ...。 ありがとうございます...。」


自分がなぜここまで丁寧に扱われるのか。

クラリスは全く予想できない、というようでもなく、

多方検討はついていたようだ。

だが、そう確定するにはまだ何も通ずる情報は無く、

クラリスの勝手な想像ではあった。


結果的に、彼女の予想は多方当たっているのだった。


テントに住民が集められ、クラリスを入れ皆で輪になって座った。

住民の数はほんの10人程度。

少し大きなテントに全員すっぽりと入ってしまう規模だった。


老人「さて、ここでまの長旅にお疲れでしょう。

   どうか気は張らずに我々の話を聞いていただきたい。」


ここのキャンプ民の中で最年長の老人が話を仕切り始めた。


老人「ここに来ていただいたのには、貴女と深い関係がある。

   お嬢さんもうっすらとお気付きではないかね?」


クラリス「...。」


老人「そうですな。 そう簡単に口にできることではありませんな。

   我々は知っております。 お嬢さんが、マーメイドであるということ。」


クラリス「...。」


老人「唐突に突き詰めて申し訳ない。

   我々は、お嬢さん方のマーメイドの歴史を知る

   ‘人間’の生き残りなのです。」


クラリス「マーメイドの歴史...。」


老人「左様。 マーメイドとは本来は御伽の世界の話。

   しかし我々は知っている。マーメイドは実在するということを。」


クラリス「マーメイドの歴史を知っている貴方たちが、

     私を連れ出して何をしようと...?」


老人「隠蔽されたマーメイドの歴史を掘り起こすこと。

   と、同時に、我々の命を守ることですぞ、お嬢さん。

   マーメイドの歴史を知る我々は、お嬢さんを雇っている

   あの会社に命を狙われている。」


クラリス「命を...あの会社に...?」


ソル「クラリスさんは何か知っていることはないの?

   あの会社が裏で何をしているとか...。」


キャンプ民の視線がクラリスに注がれる。

顔を伏せ、少し考えるようにしてから再び顔を上げる。

しかし...


クラリス「私が...。 私がマーメイドの血を引くことは

     確かにそうです、認めましょう。 でも...。

     私は貴方たちの知っているマーメイドの歴史を知らないし、

     貴方たちがあの会社に命を狙われていることも初めて知った...!」


老人「なんと...歴史を知らないと申すか...。」


キャンプ民は少々ざわめき、意外だといった反応を見せる。


クラリス「全部教えてください!貴方方が知っていること、全て!

     マーメイドの歴史も、会社の事も、私の存在意義も。

     あの会社がどうしてあそこまでマーメイドを欲しがったのか...。

     私には知る権利がある、それに...。」


クラリス「これを読んでいる人も、何のことを言っているのか

     さっぱり分かってないでしょうから。」


ソル「いきなり読者の事情とかぶっぱさなくていいから!!」



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