第1話:4月10日「はじめまして、千佳さん」
《マッチアプリ画面》
リョウ:
はじめまして、リョウといいます。
マッチング率100%って…すごいですね。
思わず声をかけてしまいました。
よかったら、少しお話ししませんか?
千佳:
はじめまして、リョウさん。
千佳です。
わたしも100%って見たの初めてで、びっくりしてました(笑)
こちらこそ、お声かけありがとうございます!
(和人:よし…大丈夫。語尾や絵文字の感じも、女性っぽくなってる。
"千佳"は化粧品売り場の落ち着いた雰囲気の女性。26歳の想定。
どこにでもいそうだけど、ちょっと芯の強さもあるタイプ…)
リョウ:
プロフィール、読ませていただきました。
化粧品売り場でのお仕事、大変そうだけど、やりがいがありそうですね。
接客って、毎日違う人に出会うから、楽しい部分も多いですか?
千佳:
ありがとうございます。
そうですね、いろんな方と話せるのは楽しいです。
でもやっぱりお客様によって全然違うので…
1日終わると、けっこうぐったりしちゃいます。
(和人:うん、このくらいなら自然。女性がよく言いそうな疲れのニュアンスも入れられた)
千佳:
リョウさんは…同じように百貨店勤務で総合職って書かれてましたよね?
百貨店の裏側って、私たち売り場からはあまり見えないので、ちょっと気になります。
リョウ:
あ、興味持ってもらえて嬉しいです(笑)
一応、販売促進の部署で、売り場のレイアウト調整とか、広告の手配なんかをやってます。
たまに売り場の視察とかで現場に行くので、もしかしたらどこかですれ違ってるかもですね。
(真子:あ、うまいこと言えた。
本当は自分が売り場の人間だけど、"総合職"ってことにしてるし、これなら不自然じゃない)
千佳:
えー、そうなんですね!
じゃあ本当に、どこかですれ違ってるかも…ですね(笑)
うちの売り場にも、たまにネクタイ姿の方が来るので、これから注意して見てみようかな。
リョウ:
じゃあ、僕も気をつけて見てみます(笑)
でも…千佳さん、接客のときはたぶん全然違う雰囲気なんでしょうね。
仕事モードの顔って、案外分からないですから。
千佳:
たしかに!
笑顔、8割増しで頑張ってますからね。
もう、顔の筋肉が筋肉痛になる日もありますよ。
リョウ:
あー、わかります(笑)
表情筋って、意識するとほんとに疲れますよね…。
僕もプレゼンの前とか、無理に笑ってたらこめかみピクピクしてきたりします(笑)
千佳:
え、それちょっと見てみたいかも(笑)
でもなんか…わかるなあ。
お互い、見えないところで気張ってるのかもしれませんね。
リョウ:
本当ですね。
まだ会話始めたばかりだけど、
千佳さんとは、なんだかすごく自然に話せてる気がします。
変に気を遣わなくていいっていうか…。
千佳:
…私も、同じこと思ってました。
なんでだろう?
たぶんリョウさんが、話しやすい雰囲気出してくれてるからだと思います。
メッセージって、顔が見えない分、ちょっと緊張するんですけど…今日は落ち着いてます。
(和人:あ、ちょっと嬉しいかもしれない。
こんな風に誰かと"繋がってる"感じ、久しぶりだ)
リョウ:
そう言ってもらえて嬉しいです。
今日は、もう夜遅いけど…
もしよかったら、また明日も少しだけでもお話しできたら嬉しいです。
千佳:
はい、ぜひ。
明日も頑張れそうです。
おやすみなさい、リョウさん。
リョウ:
おやすみなさい、千佳さん。
いい夢が見られますように。
◆◇◆
(スマホを置いた和人は、小さく息を吐いた。
「女性のフリをしてるのに、なんでこんなに自然にやりとりできるんだろう…」
でもそれは、リョウという相手が、どこかで“本物”の優しさを持っているからだ。
そう思えた)
(一方、真子はベッドに横たわりながら、画面に表示された「千佳」という名前を見つめていた。
「まさか、こんなにちゃんとやりとりできる人がいるなんて…」
男のフリなんて、試すだけのつもりだったのに。
明日が、ほんの少し楽しみになっている自分に気づく)




