第4部 第1話『灰燼の夜明け』
【前回のあらすじ】
ジャスティスタワー最上層での死闘の末、ライガは神聖バーニングレッドとして《真紅の白炎》でカイの《統合の光》を真正面から相殺し、カイを撃破した。仮面を脱いだカイは、施設での孤独、レヴェリオとの出会い、ある科学者との邂逅、そしてジャスティスフェイス創設の全てを語り——セイジ、レクス、アシュレイへの謝罪を口にした。三魔王はそれぞれの言葉でカイに「やり直す機会」を与えた。しかしその直後、カイの内側で眠り続けていた別人格・レヴェリオが顕現。圧倒的な力で全員を叩きのめし、アーネストシティ計画の最終シークエンスが起動する中、ライガは全員を転送させ一人タワーに残った。《真紅の白炎》でコアを破壊し、計画を停止させたライガ——しかしタワーの崩壊と共に、その姿は消えた。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
夜が、明けようとしていた。
ノクタリアの空が——東の端から、じわりと白み始めていた。
ジャスティスタワーがあった場所には。
瓦礫の山だけが、残っていた。
夜通し燃え続けた炎が、ようやく収まりつつある。
白い煙が、朝の空へ細く立ち昇っていた。
グリムは——その瓦礫を、ずっと見ていた。
立ったまま。
動かないまま。
夜明けが来ても——動けなかった。
「……グリム」
ネビュロスの声が、後ろから聞こえた。
「座れ。その足では、いつ倒れても不思議ではない」
「……うるさい」
グリムは、動かなかった。
ネビュロスは——それ以上、何も言わなかった。
ヴェルミリオンが、瓦礫の残骸に腰を下ろし——煙の立ち昇る方向をぼんやりと見ていた。
いつもなら何か言う。
軽口の一つでも叩く。
だが——今は、何も出なかった。
「……ライガさんの反応、まだ探してます」
ポルクが、震える声で言った。
端末の画面が、青白く顔を照らしていた。
「どこにも——どこにも、ないんです。タワーの中にも、周辺にも……」
ポルクは、端末を握りしめたまま、俯いた。
「俺が、もっと早く転送できていたら……」
「ポルク」
エルザが、静かに言った。
「あなたのせいじゃない」
「でも——」
「ライガが決めたことよ」
エルザは、瓦礫を見たまま言った。
その目が——かすかに、潤んでいた。
レクスが——巨体を地面に下ろし、膝に肘をついていた。
「……私は、最後まで何もできなかった」
重々しい声だった。
「ただ突っ込んで、弾き飛ばされただけだ」
「それでも向かったやろ」
グリムが、振り返らずに言った。
「……それだけで、十分や」
レクスは——何も言わなかった。
ただ、拳を——静かに握りしめた。
セイジが、空を見上げていた。
「……演算できない」
静かに言った。
「ライガの生存確率も、今後の行動方針も——今の私には、何も計算できない」
一拍おいて。
「計算できないことが、こんなに苦しいとは、知らなかった」
アシュレイは——瓦礫の一つを、静かに蹴った。
「……チクショウ」
それだけ言った。
朝の空気の中に——その言葉が、溶けていった。
*
その時。
遠くから——声が聞こえた。
一つではなかった。
怒号と、悲鳴と、何かが割れる音が——混じり合っていた。
グリムが——顔を上げた。
タワーの瓦礫の向こう。
リドラムの街の方向から。
声は——だんだんと、大きくなっていた。
「……何や」
グリムが、立ち上がろうとした。
足が——ガクリと折れた。
「グリム!!」
アシュレイが駆け寄った。
「動くな……! お前の足、まだ動けないだろ!!」
「離せ——気になってしゃあないわ!」
「分かってる! でも今お前達は休んでろ!!」
グリムは——歯を食いしばった。
アシュレイの言葉が、正しいと分かっていた。
魔力は枯渇している。体はボロボロだ。
それでも——行かなければならない気がした。
「……俺たちが行く」
レクスが、立ち上がった。
セイジとアシュレイが——その隣に並んだ。
「あの声を、放っておけない」
セイジが、静かに言った。
「行くぞ」
アシュレイが——先に走り出した。
ただ——真っ直ぐな、足音だけがあった。
レクスとセイジが、その後を追った。
グリムは——三人の背中を見ていた。
「……頼んだで」
低い声だった。
届くはずのない声だったが——それでも言わずにはいられなかった。
*
リドラムの街。
タワーが崩れた夜、住民たちは誰も眠れなかった。
あの爆発が、街中の窓を震わせた。
夜の内から人々は家を出て、タワーの方角を見上げていた。
煙が上がっていた。
炎が見えた。
やがて——轟音と共に、タワーが崩れ落ちた。
その瞬間、街に静寂が落ちた。
誰も、言葉を発しなかった。
あの塔が——消えた。
夜明けを迎えた頃には、広場に人が溢れていた。
ジャスティスフェイスがリドラムに最初に現れてから、もう六年が経つ。
街は白とグレーに塗り潰され、音楽は禁止され、集会は監視された。
その六年間の支配が、あの塔に集約されようとしていた。
完成したばかりの、漆黒の楔。
それが——消えた。
人々はその事実を、まだ理解できていなかった。
だが——何かが、変わった。
その感覚だけが、確かにあった。
そしてその広場の一角で。
ジャスティスフェイスの兵士たちが、住民と向き合っていた。
十数名。全員が武器を携えていた。
タワーが崩れ、通信が途絶えた今も——彼らは兵士として立っていた。
しかし。
指示がない。
命令がない。
六年間、命令に従うことだけを続けてきた人間たちが、初めて「次に何をすべきか」を自分で考えなければならない場所に立っていた。
そしてその周囲を——住民たちが、取り囲んでいた。
「お前たちのせいだ……!」
誰かが、叫んだ。
「俺たちの街を、何年も——ずっと縛り続けてきた!!」
「息子が再教育施設に送られたのも、お前たちのせいだ!!」
声が、重なっていく。
怒りが、熱を帯びていく。
兵士の一人が——銃を構えた。
「下がれ。これ以上近づけば——」
「撃つのか!? 俺たちを撃つのか!!」
緊張が、頂点に達しようとした。
その時。
「待て——!!」
三つの影が、広場へ飛び込んだ。
レクス、セイジ、アシュレイだった。
住民たちが——振り返った。
兵士たちも——銃口の向きを変えた。
一人の若い兵士が、目を見開いた。
「ジャ……ジャッジ様……!?」
その声が、広場に伝わった。
兵士たちの間に、動揺が走った。
スーツは着ていない。武器も持っていない。
しかし——あの体格、あの立ち姿は、間違いなかった。
「セイジ様も……ブレイズ様も……」
「なぜここに……タワーが崩れて、我々の指揮系統が——」
兵士たちがざわめく中、住民の一人が叫んだ。
「ジャスティスフェイスの幹部か!! こいつらも同じだ!!」
「そうだ、捕まえろ!!」
住民と兵士、双方の目が三人に集まった。
「……元、だ」
レクスが、重々しく言った。
その一言で——広場が、静まった。
「私たちはかつて、ジャスティスフェイスの幹部だった。……この街を踏みにじった側にいた」
住民の目が、険しくなった。
「なら——お前たちも同じだろう!!」
兵士の中の一人が、逡巡するように銃口を向けた。
「……ジャッジ様、それはどういう——」
「撃つなら撃て」
レクスは——動じなかった。
「だが、聞け」
その声の重さに——引き金を引こうとした指が、止まった。
「私たちは間違えた。この街を、この人々を、傷つけた側にいた。……それは事実だ」
広場が——静まった。
「だが——」
レクスは、銃を持つ兵士たちを見た。
次に——住民たちを見た。
「この者たちを今ここで叩きのめして、何が変わる。傷ついた人々が癒えるか。壊れた街が戻るか」
「……ッ」
「私は長い間、法という名の盾の後ろに隠れて、自分で考えることを放棄してきた。……だから今、初めて自分の言葉で言う」
レクスは、住民たちを——まっすぐ見た。
「間違いを犯した者に、やり直す機会を与えてほしい。……それだけだ」
広場が——沈黙した。
セイジが、静かに言った。
「私も、かつては人間を数字として処理していた。効率のために切り捨てることを、正しいと思っていた。……間違いだった」
アシュレイが——腕を組んで、広場を見渡した。
「俺はあんたらに、許せとは言わない。俺自身が、まだ自分を許せてないから」
アシュレイは、銃を握ったままの若い兵士を見た。
自分とそう変わらない年齢だった。
「でも——こいつらをここで叩くのは、違う」
誰も、動かなかった。
住民の中の誰かが——小さく、泣いていた。
広場に、朝の光が差し込んできた。
*
リドラムの外れ。
廃墟と化した区画の外れに——建物が一つ、静かに立っていた。
その中に、人の気配があった。
暗闇の中。
人影が——立っていた。
座り込んでいたのではない。
倒れていたのでもない。
最初から——立っていた。
まるで、ずっとそこに立ち続けていたように。
長い黒髪が、肩に垂れていた。
人影は、ゆっくりと——自分の手を見た。
細い、男の手だった。
カイの手だった。
しかし——その目は。
カイの目ではなかった。
レヴェリオは——手を、ゆっくりと握りしめた。
開いた。
また、握りしめた。
肉体がある。
重力がある。
空気がある。
カイの記憶の中でしか知らなかった、全てのものが——今、この身体を通じて、直接触れてくる。
(これが、「在る」ということか)
レヴェリオは、しばらくその感覚の中にいた。
「カイ」
静かに呟いた。
「お前は『誰も泣かない世界』を作ろうとした。……それがお前の答えだった」
一拍おいて。
「私の答えは、違う」
レヴェリオは、窓から離れた。
カイが「管理」を選んだなら——私が選ぶのは「断罪」だ。
泣いている者がいる。傷ついた者がいる。
誰かが「正しい側」に立つ必要がある。
そして——「間違った側」を裁く者が必要だ。
それが、私がこの世界でやるべきことだと——レヴェリオは、この朝の光の中で、静かに決めた。
(第2話へ続く)
ここまでお読みいただきありがとうございます!
第4部が始まりました。
タワーが崩れた翌朝、全員がボロボロのまま迎えた夜明け——ライガの不在が、静かに全員の上に重くのしかかっています。グリムが動けない中、3レッドが生身で立ち上がった場面、いかがでしたでしょうか。かつて正義の名のもとに動いた者たちが、今度は「やり直す機会を与えてほしい」と自分の言葉で語る——この物語が伝えたいことが、少しでも伝わっていれば幸いです。
そしてレヴェリオが、カイの身体で初めて朝の光を見た瞬間。彼女の物語が、静かに動き出しました。
次話以降、各ラインがどう動いていくのか——ぜひお楽しみに!
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