第6話『蟻の一穴』
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
第6話『蟻の一穴』
都市の中央広場には、巨大な尖塔が建設されていた。
世界中の魔力を吸い上げ、均一化するための支配の楔。
その現場へと続く大通りを、重厚な装甲輸送車が列をなして進んでいた。
「ルート異常なし。予定通り通過する」
護衛の兵士が、無機質な声で通信機に告げる。
彼らに油断はない。絶対的な正義の武力に、歯向かう愚か者など存在するはずがないと信じているからだ。
だが、その過信こそが、彼らの狙い目だった。
「――来るよ」
街道脇の建物の影で、ヴェルミリオンが指先を弾く。
刹那、輸送車の進路に巨大な瓦礫の山が出現した。
「なッ、敵襲か!?」
急ブレーキの音が響き渡り、隊列が乱れる。兵士たちが一斉に銃口を向けるが、そこには誰もいない。瓦礫だと思ったものは、紫の鱗粉となって霧散した。
「幻覚だ! センサーを信じろ!」
隊長が叫ぶが、遅い。
「センサーなら、もう凍らせた」
冷徹な声と共に、アスファルトが一瞬で氷結する。
路地裏から放たれたネビュロスの魔力干渉が、車両の駆動系と通信機器をピンポイントで凍てつかせていた。
「動かない!? バックアップも応答なし!」
パニックに陥る隊列。そのド真ん中に、上空から黒い塊が降ってきた。
ドゴォォォン!!
装甲車の天井を踏み潰して着地したのは、グリムだ。
「よォ、配達ご苦労さん。荷物はここで預かるで!」
「貴様、何者だ……!」
兵士たちが発砲するが、グリムは笑いながら炎の壁を展開し、弾丸を溶かし尽くす。
そして、そのまま炎を纏った拳をコンテナに叩き込んだ。
「燃えろやぁぁぁッ!!」
爆発的な熱量が、積荷の魔鉱石を内側から誘爆させる。
連鎖的に起こる爆発。塔の建設に不可欠な資材が、一瞬にして無価値な灰へと変わっていく。
「ひ、ひるむな! 包囲しろ! ただのごろつきだ!」
「無駄だよ。君たちはもう、僕の手のひらの上さ」
ヴェルミリオンの幻術が戦場を覆う。兵士たちは互いを敵と誤認し、混乱の中で同士討ちを始めた。
一方的な蹂躙。
だが、かつてのように力任せに暴れているわけではない。
ネビュロスが退路を確保し、ヴェルミリオンが目をくらませ、グリムが急所を砕く。
「悪」ならではの、狡猾で無駄のないゲリラ戦術。
「よし、破壊完了! ずらかるぞ!」
「了解だ。長居は無用」
増援部隊のサイレンが聞こえる頃には、三人の姿は影も形もなかった。
残されたのは、炎上する輸送車と、システムを出し抜かれた屈辱だけ。
遠く離れたビルの屋上で、三人は燃え上がる煙を見つめていた。
「へッ、ざまあみろ。あいつらの綺麗な計画表に、泥塗ってやったわ」
グリムが煤けた顔でニカっと笑う。
「小さな一撃だ。だが、あの塔の完成は確実に遅れる」
ネビュロスが満足げに手帳に記録をつける。
「蟻の一穴、ってね。完璧な城壁ほど、小さなヒビから崩れるものさ」
ヴェルミリオンが夜風に髪をなびかせた。
街の住人たちが、遠くの火柱を不安そうに、しかしどこか期待を込めた目で見上げている。
「絶対」だと思われていた正義の支配。
それに土をつける「名もなき反逆者」がいるという事実は、音もなく、だが確実に人々の心に広がり始めていた。
(第7話へ続く)




