第3部 第14話『孤独な太陽と冷たい星(前編)』
【前回のあらすじ】
中部セクターで合流したグリムたちは、シグマスーツの残滓に侵されていたレクス、セイジ、アシュレイをグリムの白炎で完全に浄化。過去と決別し、それぞれの思いを胸にカイとの最終決戦に挑むことを決意する。魔王とレッドの面々は、武器もスーツもない生身のまま、カイが待つ最上層へとEVで向かうのだった。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
EVの扉が、開いた。
轟音もない。警報もない。
ただ——静寂が、そこにあった。
ライガは一歩、踏み出した。
損傷したスーツの各所から熱い蒸気が漏れ出し、白く立ち上っていく。赤いスカーフが、風もないのに微かに揺れた。
最上層——統合中枢コア。
四方はガラス張りで、ノクタリアの夜空が広がっていた。管理都市の白とグレーに塗りつぶされた街並みが、遥か眼下に広がっている。無数の光ファイバーが走るモニター群が壁面を埋め尽くし、青白い光が空間全体を冷たく染めていた。
広大な円形の空間。
その中心に——玉座があった。
無骨な鉄と白銀で作られた、無駄のない椅子。その背もたれの向こうには、無数のモニターが青白く輝いている。
カイ・レグリオは、そこに座っていた。
白のロングコート。金色の刺繍。足を組み、頬杖をつき——まるで全てを知った上で、全てを待っていたような姿勢で。
扉が開いた音を聞いても、立ち上がらない。振り返りもしない。
ただ——口元が、かすかに動いた。
「……来たな、ライガ」
穏やかな声だった。
怒りでも敵意でもない。まるで——長い旅の果てに、会いたかった人間と再会したような声だった。
ライガは立ち止まらなかった。
一歩、また一歩と、玉座へ向かって歩いた。
損傷したブーツが、鉄の床を踏む音だけが響く。
「ああ」
ライガは答えた。
「来たよ、カイ」
沈黙。
カイはようやく、顔だけをライガへ向けた。
その瞳は冷たく、しかしどこか——飢えていた。
「セイジも、レクスも、アシュレイも……全て機能停止か」
「あいつらは今、自分の足で立ってる」
「……そうか」
カイは静かに言った。
「計算外だ。だが——それが何だというんだ。この計画の前では、些末なことに過ぎない」
「お前はそう言い続けてきた」
ライガは足を止めた。
二人の距離は、あと十メートルほどだ。
「でも俺には分かる。お前が今——計算通りじゃないことが起きてると、感じてるはずだ」
カイの眉が、かすかに動いた。
「……買いかぶりだ」
「違う」
ライガの声が、低く、しかし真っ直ぐに響いた。
「カイ。要塞でお前が言ってた言葉、ずっと覚えてる。『あの日、私が何を失い、何を託されたか』——あの時、俺にはその意味が分からなかった」
カイは何も言わなかった。
「今もわからない。だから聞きに来た」
玉座の上で、カイの手が——ほんの少しだけ、強く握られた。
「……不要な話だ」
「不要じゃない」
「……」
「お前が何を背負ってるか——それを知らずに、お前を止めることはできない」
カイは長い沈黙の後、静かに言った。
「……止める、か」
その唇が、かすかに歪んだ。
「何度会っても、君は変わらないな。ライガ」
「お前こそ変わってない」
ライガは動じなかった。
「昔から——全部一人で抱えて、一人で決めようとする。誰にも頼らずに」
「それの何がいけない」
「寂しいだろ」
カイの動きが、止まった。
コンマ数秒だけ。だが確かに——止まった。
「……不要な感情だ」
「不要じゃない」
ライガはもう一歩、前に出た。
「お前がそこまで追い詰められて、それでも一人で全部やろうとするのは——誰かへの、誓いじゃないのか」
カイの瞳が、揺れた。
深い、深い場所で。
「……何を根拠に」
「勘だ」
ライガはまっすぐカイを見た。
「お前のことは長い付き合いだからな。効率とか管理とか、そういう言葉の裏に——いつも誰かの顔があった。俺にはそれが、誰なのかわからなかったけど」
カイは、ライガを見ていた。
頬杖をついたまま。玉座に座ったまま。
だが——その瞳の奥が、揺らいでいた。
やがてカイは、静かに口を開いた。
「……彼女は、私の唯一の理解者だった」
声は、いつもより低かった。
「孤独な施設の中で、私の言葉を笑わず、全て肯定してくれた。世界が私をノイズと呼んだ時も、彼女だけが『君は正しい』と言い続けた」
「……」
「だが私は——彼女よりも、大きな理想を選んだ。世界を管理するというシステムの設計者になることを選んだ瞬間、彼女は消えた」
カイの声に、ほんの僅かな——ひびが入った。
「自ら、去っていった。私が彼女を必要としなくなったから」
「カイ……」
「だから——この計画は、私にとって後戻りのできない誓いだ」
カイは立ち上がった。
ゆっくりと。しかし確かな重さを持って。
「彼女を失ってまで選んだ道が、間違いであってはならない。この計画を完遂することが——彼女への、唯一の答えだ」
「それは違う」
ライガは即座に言った。
「違わない」
「お前を全肯定してくれた人間が——世界を支配しろって、望むと思うか」
カイが、止まった。
「お前のことを全部受け入れてくれた人間なら——お前に笑っていてほしかっただけじゃないのか。世界を管理することより、お前自身が」
カイの瞳が、また深いところで揺れた。
「……うるさい」
「カイ」
「うるさいと言っている」
カイの腕にあるサングに、手がかかった。
声は、また元の冷たさを取り戻していた。
「決定事項だ。……君を止めるものは何もない」
サングが起動する。
「ジャスティスチェンジ!!」
白銀の閃光がカイの全身を包んだ。
光が収まった時——ユナイトレッドが、静かにバーニングレッドを見下ろした。
プラチナシルバーの装甲。幾何学的な白いライン。十字架を模した細いバイザー。額に蒼く輝くセンサー。腰の白いコートテイル。そして背中に——光の翼が、ゆっくりと展開された。
「さあ。……かかってきたまえ、ライガ」
右手に光の長剣が生成される。
バーニングレッドは——拳を握った。
損傷したスーツの各所から、熱い蒸気が噴き出している。エネルギーは底をつきかけている。
それでも——ブラウンの瞳は、揺れていなかった。
「お前の答えは聞いた」
ライガは踏み込んだ。
「俺の答えを——今から見せる」
「うおおおおおおッ!!」
バーニングレッドが咆哮と共に、ユナイトレッドへ向かって突進した。
ユナイトレッドは光の翼を広げ、静かに浮き上がる。
「《重力崩壊》」
重力が歪む。バーニングレッドの足元が逆転し、ガラス張りの天井へと叩きつけられた。
ガンッ!!
「ぐ……ッ!!」
眼下にノクタリアの街が広がっている。遥か下に、管理都市の白とグレーが広がっていた。
ライガは天井を蹴り返し、体勢を立て直す。
スーツの排熱ダクトが唸りを上げる。エネルギーが、最後の火花を散らすように燃えている。
「まだか」
ユナイトレッドが、静かに浮かんだままライガを見下ろした。
「エネルギーは尽きかけている。スーツも損傷している。……それでも向かってくるのか」
「当たり前だろ」
ライガは口の端の血を拭い、拳を構えた。
「お前を止めるって言った。それだけだ」
ユナイトレッドの光の翼が、大きく広がった。
「では——」
光の長剣が、構えられる。
「証明してみせろ。限界を超えた君が、私に届くというなら」
ライガは走った。
傷だらけの、限界を超えたスーツで。
ユナイトレッドの光の剣が、鋭く振り下ろされた。
バーニングレッドはそれを——右腕一本で受け止めた。
ジュウウウッ!!
「が、ァ……ッ!!」
スーツの装甲が焼ける。右腕のガントレットに亀裂が走る。
だが——ライガは退かない。
受け止めた腕を軸に、強引に距離を詰める。
「《爆熱剛拳》!!」
排熱ダクトから最後のエネルギーを絞り出し、右拳を叩き込む。
ドォォォンッ!!
ユナイトレッドの胸部装甲に、確かな衝撃が走った。
ユナイトレッドが——後退した。
わずか一歩だけ。だが確かに、後退した。
「……ッ」
バイザーの奥の瞳が、揺れた。
「限界を超えて……なお……」
「まだまだだな、カイ」
ライガは焼けた右腕を抱えながら、笑った。
ボロボロで、血だらけで——それでも真っ直ぐに笑った。
「俺はここにいる。お前の計算通りにはならない。そういう意味だ」
ユナイトレッドの光の翼が、再び大きく広がった。
その動きに、かつてよりも——わずかな、怒りが滲んでいた。
(第15話へ続く)
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回は、いよいよライガとカイ、二人の因縁がぶつかり合う場面が描かれました。カイの口から語られた過去と、その根底にある「誓い」。そして、それに対してライガが投げかける「寂しいだろ」という真っ直ぐな言葉。それぞれの想いが交錯し、ついに変身して激突する二人の姿は、いかがでしたでしょうか。
物語も佳境に入り、ライガとカイの戦いは、果たしてどのような結末を迎えるのか。そして、カイが背負う「誓い」とは一体何だったのか。ぜひ、今後の展開にもご期待いただければ幸いです。
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