第3部 第13話『灰の中から、もう一度』
【前回のあらすじ】
ネビュロスは、システムに支配された参号機の中に、かすかに残る人間性を見抜く。激戦の末、ネビュロスはシステムを打ち破り、その中からレクス・クレイドを解放する。傷だらけで倒れたレクスに、ネビュロスは「まだ終わっていない」と告げ、戦いは次の局面へ向かう。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
ドォォォォンッ!!
凄まじいGと共に、グリムとアシュレイを乗せたプラットフォームが中部セクターへ突入した。
断裂したケーブルが火花を散らし、床に叩きつけられた衝撃がセクター全体を揺るがした。
「っぶねぇ……! ポルクのやつ、いっつも加減ってもんを知らんのか!!」
グリムが悪態をつきながら立ち上がる。
その視線が、白い霜に覆われたプラットフォームの床を捉えた。
散らばる黄金の装甲の残骸。蒸発した黒い液体金属の跡。そしてその中心に、一人の大きな男が横たわっていた。
傍らに、蒼銀の甲冑を纏ったネビュロスが立っている。
「……終わったか」
「ああ。終わった」
グリムとネビュロスは短く目を合わせた。それだけで十分だった。
グリムは床のレクスへ近づいた。
レクス・クレイドはゆっくりと顔を上げた。黄金の鎧は剥がれ落ちているが——よく見れば、装甲の継ぎ目に、まだ黒い液体金属の名残が張り付いていた。シグマスーツの残滓だ。完全には排除されていない。
グリムはそれを一目見て、すぐに気づいた。
「……まだ残っとるな」
レクスが眉をひそめた。
「何が」
「そのスーツの名残や。自我は戻っとるかもしれんけど、まだ完全に切れてへん」
ネビュロスが静かに補足した。
「私の《凍滅零界》でシステムの接続は断ち切った。だが——シグマスーツそのものの残滓を排除するには至らなかった。もし再接続されれば……」
「また飲み込まれる、ってことか」
「そういうことだ」
その時、頭上から重低音が響いた。
上昇セクターのプラットフォームが、ポルクのハッキングによって下降を始めていた。軋む鉄の音と共に、プラットフォームごと中部セクターへ合流する。
ヴェルミリオンだ。《真・魔導外殻》の翅を静かに畳みながら降り立つ。その傍らには、生身のセイジがよろめきながら立っていた。
グリムはセイジをひと目見て、同じものを見つけた。
セイジの首筋から肩にかけて、黒い筋が幾本か走っていた。シグマスーツの残滓が、皮膚の下に張り付いたまま残っている。
「……お前もや」
セイジは自分の首筋に触れた。
「……わかっている。ヴェルミリオンの攻撃で自我は戻った。だが完全に排除されたわけではない、と」
「そや」
グリムは右手を開いた。
指先から、静かに白い炎が灯る。
怒りの赤黒い炎ではない。守る意志から生まれる、清冽な白炎。
「これで焼き切る。痛いかもしれんけど——我慢せえ」
レクスがグリムを見た。
「……貴様の炎で、か」
「嫌か」
レクスは少しの間、黙っていた。
それから——首を横に振った。
「……頼む」
グリムはレクスの胸板に、静かに右手を当てた。
「《白炎断滅》」
白炎がレクスの全身を包む。
アシュレイの時のような爆発的な奔流ではない。静かに、しかし確実に、装甲の残滓を内側から焼き払っていく。
レクスの体から、黒い煙が薄く立ち上った。
シグマスーツの名残が、蒸発するように消えていく。
「……ぐ、ぅ……ッ」
レクスが歯を食いしばる。痛みをこらえながら、それでも倒れなかった。
白炎が収まった。
レクスの全身から、黒いものが消えていた。
グリムは次にセイジへ向いた。
「お前もや。覚悟しとけ」
セイジはグリムを真っ直ぐに見た。
「……頼む」
グリムが右手をセイジの肩に当てた瞬間、ヴェルミリオンがくすりと笑った。
「おやおや。魔王が人間を浄化するなんて、随分と奇妙な絵だねぇ」
「うるさいわ」
「褒めてるんだよ」
《白炎断滅》。
白炎がセイジを包む。
セイジは声を上げなかった。ただ、白い光の中で目を閉じていた。
やがて炎が収まり、セイジの首筋の黒い筋が完全に消えた。
セイジはゆっくりと目を開けた。
「……これが、お前の力か」
「なんや」
「以前、私はお前の炎を『非効率な感情の産物』だと思っていた」
「今は?」
セイジは少しの間、黙った。
「……今は、そう思わない」
グリムは鼻を鳴らした。
「そら良かったわ」
アシュレイが壁から背を離し、グリムの前に立った。
かつてのギラついた目ではない。虚勢もない。ただ——真っ直ぐな目だった。
「……なあ、グリム。俺、あの中で怖かった。自分が自分じゃなくなっていくのが。……でもお前の声が聞こえた。拳が届いた」
「……」
「ありがとな」
グリムはしばらく黙っていた。
それから、盛大に顔をしかめた。
「……キモいわそういうの。鳥肌立つやろ」
「うるせぇ! 素直に受け取れよ!!」
「受け取っとるわ! 口に出すなっちゅーねん!!」
怒鳴り合いながら、二人の間に確かな熱が灯った。
その様子を、ヴェルミリオンが静かに見ていた。
そしてセイジに視線を向けた。
「……君は以前、感情を『バグ』と呼んでいたね」
「ああ」
「鏡の中で、自分の顔を見た。……どうだった」
セイジは少しの間、黙った。
「……怖かった。自分が切り捨ててきたものが、全部そこにあった」
「そうだよ」
ヴェルミリオンは静かに言った。
「それが生きているということだよ、セイジ。怖いと感じられる、それだけでもう——君はバグじゃない」
セイジは何も言わなかった。
だが、目を逸らさなかった。
一方、レクスはネビュロスの前に立っていた。
「……お前は、なぜ俺を引き出そうとした」
「グリムが言っていた。あの男が珍しく神妙な顔で——『まだ中にいると思う』と」
レクスの目が、微かに揺れた。
「……グリムが」
「ああ。だから確かめた。それだけだ」
レクスは深く息をついた。
「……俺は長い間、自分の判断から逃げていた。カイに与えられたマニュアルに縋り続けた」
「知っている」
「もう逃げない。自分の言葉で——カイに向き合う」
ネビュロスはレクスをひと睨みした。
「ならば立て。膝が震えていても、自分の足で立て」
レクスは立ち上がった。
セイジも立った。アシュレイも壁を蹴って立った。
グリムが六人を見渡した。
魔王三人。そして今度こそ完全に生身になったレッド三人。
《変身ブレス》のエネルギーも尽きている。武器も、スーツも、もう何もない。
それでも——六人全員の目に、消えない光があった。
「……行くぞ。ライガを一人にしすぎた」
六人はEVへ向かった。
扉が閉まる。上昇が始まる。
狭い箱の中に、沈黙が満ちた。
「……カイって、ほんまのとこどんなやつやねん」
グリムがぽつりと言った。
「執着の男だ」
ネビュロスが答えた。
「ライガを自分のシステムの最後のピースだと思っている。同時に——自分にはないものを持つライガを、どこかで羨んでいる」
「歪んでいるものは、一点に力が集中すると折れる」
ヴェルミリオンが続けた。
「感情のない相手より、崩れる時は脆い。……それがカイという男だよ」
グリムは拳を握った。
「ほな——崩したるわ」
アシュレイが、ぽつりと言った。
「……俺ら、生身で何ができるんだろな」
「そこに立っていろ」
グリムが即答した。
「それだけでカイの計算は狂う。廃棄したはずの部品が、自分の足で立っとる。それだけで十分や」
レクスが静かに続けた。
「俺には——自分の言葉でカイに言いたいことがある」
「私もだ」とセイジ。
アシュレイは少しの間、黙っていた。
それから、静かな本物の顔で言った。
「……俺はただ、そこに立ってるだけでいい。それだけで十分だろ」
グリムは何も言わなかった。
ただ、前を向いた。
EVが、最上層へ向かって上昇を続ける。
(第14話へ続く)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回のお話では、シグマスーツの呪縛から解き放たれ、それぞれが新たな一歩を踏み出すレクス、セイジ、そしてアシュレイの「再生」を描きました。特にグリムの「白炎断滅」は、敵を打ち砕く怒りの炎ではなく、内なる闇を浄化し、傷ついた魂を救い出す「守護の炎」として表現できたかと思います。ヴェルミリオンの「魔王が人間を浄化するなんて」というセリフは、グリム自身の変化、そして彼が仲間たちに与える影響を象徴するものでした。
自分の弱さや恐れと向き合い、仲間たちの助けを得て立ち上がった彼らが、カイにどう向き合っていくのか。その行く末を、ぜひ引き続き見守っていただけると嬉しいです。
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次回の更新も、どうぞお楽しみに!




