第4話『組織の牙、個の意地』
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
戦場の空気が、凍りついたように重くなった。
それまで拮抗していたパワーバランスが、たった二人の介入によって劇的に傾いたのだ。
「状況を再定義する。――統合作戦、フェーズ2へ移行」
銀翼のユナイトレッドが空中に浮かび上がり、右手を掲げる。
刹那、不可視の圧力が戦場全体を押し潰した。重力制御。個の自由を許さぬ、絶対的な「場」の支配。
「ぐ、ぅ……ッ!?」
幻影の蝶がかき消され、ヴェルミリオンが地面に膝をつく。ネビュロスの氷壁も、見えざる巨人の手で握りつぶされたかのように砕け散った。
「これが……統率者の力か」
ネビュロスが脂汗を流しながら、必死に魔力障壁を展開する。だが、その計算速度を上回る速度で、組織的な包囲網が狭まってくる。
ジャッジ、セイジ、ブレイズの三人が、ユナイトの重力場に合わせて完璧な連携を組んだのだ。
「隙ありだ、道化師!」
ブレイズの爆炎がヴェルミリオンを追い詰め、
「退路封鎖。チェックメイトだ」
セイジの双剣がネビュロスの喉元に迫る。
魔王たちには「個」の強さはあっても、「組織」としての戦い方がなかった。
その綻びを、正義のシステムは容赦なく突き崩す。
そして、グリムの前には――白き装甲のリーダーが立ちはだかった。
「終わりだ、魔王」
バーニングレッド。その拳には、グリムの炎とは異なる、科学的に増幅された純粋な熱エネルギーが唸りを上げている。
「なぜ抗う。管理された平和を受け入れれば、誰も傷つかずに済む。お前たちの反抗は、無駄な血を流すだけだ」
「ハッ……ご立派な理屈やな」
グリムは重力に逆らい、口元の血を拭って立ち上がった。その目は、圧倒的な劣勢にあってもなお、ギラギラと燃えている。
「管理された平和? 傷つかない?
……檻の中で飼われて、エサもらって、それで幸せか?
俺は、首輪つけられて生きるくらいなら、野垂れ死んだ方がマシなんじゃあッ!!」
踏み込む。
技術も、装備も、戦術も、すべてにおいて劣っている。
あるのは意地だけだ。
「うおおおおおおッ!!」
グリムが渾身の力で右拳を突き出す。対するバーニングレッドもまた、スラスターを全開にして拳を繰り出した。
リーダー同士の拳が激突する。
衝撃が空気を震わせ、互いの装甲と皮膚を焦がす。
だが――威力は互角でも、"重み"が違った。背負っている組織のバックアップがあるバーニングと、孤立無援のグリム。
「ぐ、ぁ……ッ!!」
グリムが弾き飛ばされ、瓦礫の山に叩きつけられる。
「グリム!」
ネビュロスが叫ぶ。彼は瞬時に戦況を演算し、残酷な解を導き出した。
(勝てない。今はまだ――)
「ヴェルミリオン、合わせろ! 撤退だ!」
「了解。……幕引きには早いけど、仕方ないね!」
ヴェルミリオンが懐から無数の鱗粉をばら撒く。視界を奪う幻惑の霧。同時にネビュロスが全魔力を解放し、巨大な氷の壁を爆発的に隆起させた。
「逃がすか!」
ジャッジレッドが大剣を一閃させるが、氷壁は想像以上に分厚い。
霧の中、ネビュロスがグリムの襟首を掴んで引きずり起こす。
「離せ! 俺はまだやれる!」
「馬鹿を言うな! ここで全滅すれば、誰が奴らを止める!? 生き恥を晒してでも生き残れ、それが“悪党”の戦い方だ!」
ネビュロスの悲痛な叫びに、グリムは奥歯を噛みしめ、燃える瞳でバーニングレッドを睨みつけた。
「……借りは、絶対返すぞ。覚えとけよ、正義の味方……!」
三つの影は、濃霧と氷の迷宮へと消えていった。
煙が晴れた後、そこには誰もいなかった。
ただ、焦げ付いた地面と、砕かれた氷の残骸だけが残されている。
「……逃げられたか」
ユナイトレッドが重力場を解除し、冷淡に呟く。
「深追いは不要だ。彼らのデータは取れた。次は確実に処理できる」
バーニングレッドは、グリムが消えた方角をじっと見つめていた。
拳に残る、焼けつくような熱さ。
あれはスーツの排熱ではない。あの男の、魂の熱さだ。
(首輪をつけられて生きるくらいなら……か)
その言葉が、なぜか棘のように胸に刺さって抜けない。
彼は小さく首を振り、その違和感を振り払うように背を向けた。
「……帰投する。作戦終了だ」
正義の完全勝利。
だが、その鉄壁の結束に、目に見えぬほどの微かな亀裂が走ったことを、まだ誰も知らなかった。
(第5話へ続く)




