第2部 第13話『凍てつく演算、震える指先』
【前回のあらすじ】
崩壊する要塞から、レッドたちと魔王が共に落下する地獄絵図! 暴走するライガをグリムが抱えながら、セイジはカイの裏切りという衝撃の真実を告げる。敵味方の垣根を越え、全員で迫る巨大瓦礫を撃退し、ネビュロスの魔法で奇跡的な着地を果たすも、グリムはライガを見失ってしまい……。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
視界(HUD)が、無機質なノイズで埋め尽くされていた。
『Link Status: DISCONNECTED』 『Host [UNITE]: No Response』 『Reconnecting... Failed.』
セイジレッド――セイジは雪深い森の中、千鳥足で彷徨っていた。 彼の左腕のガントレットからは、数枚のホログラムウィンドウが空中に投影されている。 雪の中で青白く光るその画面を、彼の指先が残像が見えるほどの速度で叩き続けていた。
「コード照合……エラー。別回線へバイパス……拒絶。緊急用バックドア……閉鎖済み」
彼がどれほど高度な演算を行おうとも、返ってくるのは冷酷な「拒絶」のみ。 システムがダウンしているのではない。 管理者カイが、意図的に『S-02(セイジ)』というデバイスをネットワークから遮断(BAN)しているのだ。
(なぜだ、カイ。私の計算にミスがあったか? ライガの廃棄も、要塞の放棄も……君の大局的な演算の一部なのだろう? ならば、次の変数をくれ。私に解くべき数式を与えてくれ……!)
承認が得られない不安。
それが、彼の脳裏にかつての記憶を呼び覚ます。まだ彼がジャステイスフェイス入隊する前それは、世界を救うための「予行演習」のはずだった。
国立研究機関。飛び級で「神童」と称えられていた少年セイジは、並み居る専門家たちを前に、冷徹なまでの「最適解」をスクリーンに投影した。
『被害エリアの30%を即座に隔離・損切り(ロス・カット)し、残りの70%を確実な生存圏とする』
セイジは指揮棒で地図上の赤いエリア――彼が**「壊死区域」**と定義した場所を淡々と指し示した。
「この30%のエリアには、老朽化した住宅街と大規模な高齢者施設が集中しています。
救助リソースをここに割けば、移動速度の遅い個体がボトルネックとなり、救助隊は二次災害に巻き込まれます。対して、こちらの70%には主要インフラと働き盛りの納税者が集中している。
……コスパを考えれば、30%を見捨てて防火帯にするのが、数学的に唯一の『正解』です」
会議室が、氷を突きつけられたような沈黙に包まれる。
その沈黙を破ったのは、セイジを指導してきた老教授だった。彼は震える手で机を叩き、立ち上がった。
「き、貴様……正気か! その30%には、生きた人間が数万人いるんだぞ! 隔離するということは、彼らが焼き殺されるのを、フェンスの向こうで黙って見ていろと言うのか!」
セイジは視線すら合わせず、鼻で笑った。
「教授。その30%には、あなたの老いたご両親も住んでいますね。だから、あなたは今、論理ではなく『個人的なバイアス』で発言している」
「な……っ!?」
「あなたの“お涙頂戴”な感情論は、全体の生存率を著しく低下させるノイズでしかない。アップデートされていない旧世代の倫理観で、社会の演算を狂わせないでいただきたい。……目障りです。退席してください」
セイジの冷酷な「ロジックハラスメント」に、大人たちは激怒した。彼の案は「非人道的」として棄却され、採用されたのは「一人も見捨てない、理想の全員救助プラン」だった。
しかし――シミュレーションの結果は、凄惨な「現実」を突きつけた。
画面上の救助隊は、移動不能な弱者の救助に時間を奪われ、拡大する火災の速度に追いつけなかった。
『救助隊、全滅』『二次災害による延焼、生存圏を突破』 最終的なスコアが、無慈悲に表示される。 『死亡率98%。都市機能、完全停止』
燃え落ちるCGの街を前に、腰を抜かす大人たち。その中で、少年セイジだけが、氷のように冷めた目で言い放った。
「ほら、見たことか。あなたたちの安い“人道”という名のバグが、100%を道連れにした。30%を損切りする勇気がない無能こそが、この街を殺した『大量虐殺犯』ですよ」
彼は本気でそう思っていた。人の心がないのではない。彼にとっての愛とは「効率」であり、優しさとは「確実な生存数」というデータだったのだ。
そんな彼の偏った知性を、唯一肯定したのがカイ・レグリオだった。 『美しい計算式だ。間違っているのは、不快感や同情に溺れ、効率を損なう世界の方だ。君の知性を、世界のノイズを掃除するために使ってみないか?』
救われた、と思った。 感情を殺したシステムによる統治。それこそが正義だと信じた。
……だというのに。
『User Status: DISCARDED(廃棄)』
皮肉だった。
彼がシミュレーション上で「壊死区域」と呼んで切り捨てた30%の中に、今度は自分が含まれていたのだ。
敗北し、組織の役に立たなくなった自分は、彼自身の論理で言えば「コストに見合わない廃棄物」だった。
「……私が……損切り、だと……?
私が計算してきた“未来”に……私自身の席がないというのか……?」
膝から崩れ落ちる。
論理の塔から他人を見下ろしていた神が、地面に叩きつけられた瞬間だった。
「……見苦しいな、計算機」
頭上から、冷ややかな声が降ってきた。
ネビュロスだ。蒼き結晶の甲冑を纏い、氷像のように静かに佇んでいる。
「……ネビュロス……。
演算開始……勝率計算……99.8%……。否定、する。……私は、まだ、正しい……」
セイジは震える手で《ストリーム・セイバー》を起動する。だが、その刃はノイズ混じりに明滅し、出力が安定しない。
「まだその冷たい物差しで、命を測るつもりか」
ネビュロスが、魔導書を開くこともなく歩み寄る。
「お前は常に『全体最適』を盾にしてきた。
だが、それは正義ではない。
『自分には理解できないもの(感情、奇跡、愛)』を計算式から排除し、自分が理解できる狭い世界に閉じこもるための逃避だ」
「ち、違う! 私は……人類の存続のために!
感情に流されて全滅するより、非情な決断で生き残る方が正しいに決まっている!
あの時のシミュレーションだって、私の案なら70%は助かったんだ!」
「その『生き残る70%』の中に、お前は常に自分を含めていただろう?」
ネビュロスの指摘が、セイジの急所を貫く。
「お前は、自分が『切り捨てられる30%』になる可能性を、一度も想像したことがない。
自分が『見殺しにされる側』の痛みを知らないまま、安全圏から数字を弄んでいただけだ。
……その想像力の欠如こそが、お前の計算式の致命的なバグだ」
「そ、想像力だと……!? データにそんな曖昧な変数は不要だ!」
「だからお前は、今そこで震えているんだ」
ネビュロスが、セイジの目の前で指を鳴らす。
「《絶対結界》」
セイジの目の前に、六角形の氷の結晶を組み合わせた多重障壁が出現する。それは鏡のように、絶望し、震えているセイジの姿を鮮明に映し出した。
「――見ろ。それが『コストに見合わない廃棄物』として処理されたお前の姿だ。
お前が今まで、『数字』という凶器で殺してきた弱者たちの絶望だ。
……どうだ? 論理的に考えれば、お前はここで野垂れ死ぬのが『正解』だろう?」
「やめろ……やめろぉぉぉッ!!」
セイジが絶叫し、鏡に向かって剣を振るった。
だが、鏡は割れない。逆に、彼の剣が触れた瞬間、パキリと音を立てて凍りついた。
「《凍滅零界》」
空間そのものが絶対零度で固定され、分子運動が強制停止される。 超高速戦闘を得意とするセイジの駆動系 は、絶対的な静止の力の前にフリーズし、彼を縛る「冷酷な理屈」そのもののように、指先からゆっくりと氷像へ変えていく。
「が、ぁ……! うご、けな……」
「お前が他人に『効率』だけを求めた報いだ。
一度の敗北で全てを失う世界……お前が望んだ通りの末路じゃないか」
ネビュロスは、氷像のように固まったセイジを見下ろし、冷たく告げた。
「……そこで凍えていろ。
データにはない『痛み』を知り、自分の計算式の冷たさを骨の髄まで味わうまでな。
……その氷を溶かすことができるのは、理屈ではなく、お前自身の『熱(感情)』だけだ」
ネビュロスは踵を返し、吹雪の中へと消えていく。
残されたセイジは、森の中で一人、動くこともできずに立ち尽くしていた。
彼が軽蔑し続けてきた「感情」という名の熱を失った世界で、彼は初めて本当の寒さを知った。
(第14話へ続く)
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!
今回は、絶対的なロジックと効率を信じていた主人公セイジが、自身がかつて「壊死区域」と定義し切り捨てた側へと転落する皮肉な運命を描きました。彼にとって「ノイズ」であった感情や想像力が、ネビュロスの言葉を通してどのように突きつけられるのか、その葛藤を少しでも感じていただけたら幸いです。
システムによって「廃棄」されたセイジが、この後何を思い、どのような選択をするのか。彼の内面の変化に注目して読んでいただけると嬉しいです。
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引き続き、物語にお付き合いいただけますと幸いです。




