第13話『凍てつく計算、熱なき刃』
【前回のあらすじ】
謹慎処分を受け、街でグリムと邂逅したライガは、「共に怒る」という新たな視点に心を揺さぶられていた。
一方、リーダー不在のジャスティスフェイスは、カイ(ユナイト)の指揮の下、魔王たちの掃討作戦を開始する。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
「ターゲット捕捉。座標、旧図書館エリア」
無機質な電子音が、静寂な廃墟に響く。
かつてノクタリアの知識が集積されていた図書館。今は屋根が落ち、本棚は焼き払われ、ただの瓦礫の山となっている。
その中心に、青いローブを纏った男――ネビュロスが立っていた。
「……嗅ぎつけたか。野暮な奴だ」
彼が鎖で繋がれた魔導書を閉じた瞬間、頭上から数条の蒼い光刃が降り注いだ。
ネビュロスは表情一つ変えず、指先で氷の障壁を展開する。
ガギンッ!
硬質な衝突音と共に、氷が砕け散る。
その破片の中から、流線型の真紅のスーツに身を包んだ戦士が着地した。
青いアーマーと、長い双剣。セイジレッドだ。
「予測通りの防御反応。……やはり、君の魔力パターンは私の計算内だ」
バイザーに無数のデータを走らせながら、彼は二本のエネルギーブレード(ストリームセイバー)を逆手に構える。
「計算、か。相変わらずつまらん男だ」
ネビュロスは片眼鏡の位置を直し、冷ややかに見下ろした。
「この場所を知っているか? かつて私の一族が守り、お前たちが焼いた場所だ。
ここにあった数万の書物、そこに記された歴史と知恵……それらを『不要なデータ』として消去した気分はどうだ?」
「感傷は非効率だ」
セイジは淡々と答える。
「情報は管理され、最適化されるべきだ。混沌とした知識は、民衆に余計な思考を与え、統治を妨げる。
焼却は合理的な判断だった」
「……合理的、ね」
ネビュロスの瞳が、絶対零度のように凍りつく。
「思考を奪い、ただ生きるだけの家畜を作るのが、お前の言う最適化か。
……愚かな人間どもめ。貴様らの浅はかな『管理』など、我ら魔族の『叡智』の前では児戯に等しい」
ネビュロスが魔導書を開く。
猛吹雪が廃墟を覆い尽くし、視界を白く染め上げる。
「視界不良。音響探知に切り替え――」
セイジがバイザーのモードを変更しようとした刹那、吹雪の中から氷の槍が殺到した。
「遅い」
セイジは超高速で反応し、ブレードで槍を叩き落とす。
だが、その切断面からさらに氷が爆発し、セイジの脚を凍りつかせた。
「なッ……!?」
「私の氷は、ただの物理現象ではない。概念への干渉だ。
『動く』というプロセスそのものを凍結させている」
ネビュロスが静かに歩み寄る。
「お前のデータにはないだろう? 底知れぬ魔族の深淵など」
セイジは凍りついた脚にブレードの熱を伝え、無理やり氷を砕いて後退する。
呼吸が乱れる。初めて、その冷静な思考にノイズが走った。
「想定外……エラー、修正を……!」
「修正などできない。
世界は、お前のちっぽけな計算式に収まるほど単純じゃないんだよ」
氷結の魔王と、データの戦士。
知性を武器にする二人の戦いは、互いの信念を否定し合う消耗戦へと突入していく。
一方、別のエリアでは――。
「ヒャハハハ! 見つけたぜ、蝶々野郎!」
爆炎を撒き散らしながら、アシュレイ(ブレイズ)がヴェルミリオンを追い詰めていた。
「美しくないねぇ。もっと優雅に踊れないのかい?」
ヴェルミリオンは幻術で分身を作り出し、ブレイズの猛攻を躱し続ける。
だが、その美しい顔には余裕がなかった。
ライガ不在の戦場で、個々の戦いが激化する。
統率を失ったかに見える「正義」と、個の力で抗う「悪」。
その均衡が崩れるのは、時間の問題だった。
(第14話へ続く)




