第12話『路地裏の邂逅』
【前回のあらすじ】
要塞での一件以来、正義に迷いを生じさせたライガは、指揮権を剥奪され謹慎処分となった。一方、組織内ではカイ(ユナイト)を中心に、より強硬な支配体制への移行が進められていた。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
謹慎を言い渡されたライガは、あてもなく街を歩いていた。
身につけているのは戦闘用の強化スーツではない。深紅のレザージャケットにデニムという、ラフな私服姿だ。
だが、その鋭い眼光と、軍人のように引き締まった歩き方は、周囲の市民に警戒心を抱かせるには十分だった。
(……酷いな)
灰色の街並み。俯いて歩く人々。
これが、俺たちが守ろうとした「平和」の成れの果てなのか。
ふと、路地裏から怒号が聞こえた。
「やめろ! それは俺たちの食い扶持だぞ!」
「うるせぇ! 場所代だ、寄越せ!」
見れば、数人の柄の悪い男たちが、行商人の老人を囲んで商品を奪おうとしていた。
ライガの身体が反射的に動く。
「何をしている!」
「あン? なんだテメェは……」
男の一人がナイフを取り出す。
だが、ライガにとっては遊びにもならない。一瞬で懐に入り、手首を極めてナイフを落とさせ、鳩尾に掌底を叩き込む。
「ぐへッ……!?」
男が白目を剥いて崩れ落ちる。残りの連中も、ライガの放つ異様な圧力に気圧され、悲鳴を上げて逃げ去った。
「大丈夫ですか、爺さん」
ライガが手を差し伸べる。
だが、老人はその手を取らなかった。
腰を抜かしたまま後ずさり、恐怖に引きつった目でライガを見る。
「ヒィッ……! ゆるしてくれ、金なら無いんだ……!」
「え……?」
「殴らないでくれ……あんたも、あいつらの仲間なんだろ……?」
老人は、ライガを「助けてくれた人」ではなく、「別の暴力的な若者」として見ていた。
強すぎる力は、それだけで恐怖の対象になる。
ライガは差し出した手を、力なく下ろした。
「……違う。俺は……」
「せっかくの男前が台無しやな。そんな人殺しみたいな顔してたら、そら怖がられるわ」
頭上から降ってきた声に、ライガは弾かれたように顔を上げた。
廃ビルの非常階段。そこに、リンゴをかじりながら座っている男がいた。
ボロボロの黒コート。首元には包帯。
グリムだ。
「お前……!」
「よォ。非番か? それともクビになったか?」
グリムは軽やかに飛び降りると、老人に歩み寄った。
しゃがみ込み、転がった果実を拾って手渡す。
「ほらよ爺さん。これ、売り物やろ? 大事にしな」
「あ、ああ……ありがとう……」
老人はグリムの強面にも関わらず、不思議と安心したように礼を言い、そそくさと立ち去っていった。
取り残されたライガは、呆然とその背中を見送る。
「なぜだ……。俺は助けたのに怖がられて、お前は……」
「目線や」
グリムは残ったリンゴをかじりながら、ライガを見た。
「お前、助ける時に『俺が守ってやる』って顔しとったろ。上から目線で、力を見せつけて。
……そら、爺さんからしたら『強い奴』はみんな同じに見えるわな」
「驕りだと……? 俺は純粋に……!」
「純粋やからタチが悪いんや。
相手と同じ高さに立ってへん。お前らの『正義』と一緒や。一方的に力を押し付けてるだけやから、恐怖しか生まへんのや」
図星だった。
村を焼いた時も、今回のことも。
ライガは常に「自分たちが正しい」という前提で、高みから世界を見ていた。
「……じゃあ、お前はどうなんだ。
お前の『悪』は、誰かを幸せにするのか?」
ライガの問いに、グリムは少しだけ真面目な顔になった。
そして、ニヤリと笑う。
「知らん。俺は俺のために生きとるだけや。
けどな……少なくとも、俺の周りで泣いとる奴がおったら、一緒に怒ってやることはできる。
上から救うんやなくて、横に立って一緒に石投げたる。
……それが、俺のやり方や」
一緒に怒る。横に立つ。
それは、組織の論理に縛られたライガにはない視点だった。
「……変な奴だ」
「褒め言葉として受け取っとくわ」
グリムは背を向け、ひらひらと手を振った。
「ほなな。次は戦場で会おうぜ、リーダーさん。
……迷いが晴れたら、また本気で殴り合いしような」
その背中を見送りながら、ライガは拳を握りしめた。
悔しさはない。ただ、胸の奥に小さな熱が灯っていた。
(一緒に、怒る……か)
その言葉が、ライガの中で凝り固まっていた「正義」の殻を、少しだけ溶かした気がした。
(第13話へ続く)




