六十八 さすがです!カマキリ
リコちゃんから貴政への骨髄移植は無事に成功。
その報告と、二人の決意を携えて、弁護士の王紋源次郎、ゲンさんが西条の元に向かった。
西条は貴政の移植の成功を聞くと、嗚咽したそうだ。
私は西条の様子を聞いても全くは喜べない。
むしろ腹が立って仕方がなかった。
西条の為にリコちゃんも貴政も頑張ったんじゃない。
二人は、自分たちのこれからの人生の為に頑張り抜いたんだ!
どんなに西条が改心しようと、西条が犯した罪は消えない。
私はリコちゃんの体の、特に首を鷲掴みにされたであろう、あの傷を忘れることなんてできない。
傷をつけられたリコちゃんは、私の感情と比べものにならないほどの辛く悲しい思いが一生残り、それを背負って生きて行かなけばならない。
そんな思いが込み上げて、マコトさんに、西条の様子を伝えに来てくれたゲンさんに向かって、
「もー。なんかムカつく!」
って思わず叫んでしまった。ゲンさんは私を見て、
「おやおや。」
と、言いながらゆっくりとコーヒーを口に運び、
「祝さん。皆同じ気持ちですよ。」
そう言って少し微笑むようにコーヒーを飲んだ。マコトさんは、私をそっと抱きしめて。
「そうだね。私も祝と同じ気持ちよ。でもね、無事に成功しか事だけじゃない。ゲンちゃんは、二人が西条と縁を切って生きていく決意もちゃんと伝えてくれた。ね。」
「、、、そうですけど、、、。」
私はその先の言葉を飲み込んだ。
駒井から聞いた、貴政の「父は、本当は優しい人なんです。」と、優しい顔で言っていたこと。
咲子さんが西条の家を出る時に扉の向こうで、西条に向かって走っていったあの姿。
それを見たゲンさんが「夫婦の本当のことは夫婦にしかわからない。」
と言ったこと。
確かに西条の幼少期は悲惨なものだったのかも知れない。いや、そうだったのだろう。
初めて、マコトさんの元で神使職としてお支えした時に見た、泣き叫んでいる幼い西条の姿には、胸を引き裂かれた。西条を浄化した時の深縹の色が、西条の深い悲しみを表している。
だが、虐待を受けていたからと言って、自分の子供に虐待をするなど許されない。
私は、みんなを苦しめた西条は、これから死ぬまで一人寂しく過ごせばいいと本気でそう思ってる。だけど貴政や咲子さんが、西条と縁を切れるのか不安で仕方ない。不安になって、思わずゲンさんに向かって、叫んでしまった。
マコトさんは、私の心の内が透けて見えているのだろうか、私を抱きしめたままでいてくれる。ゲンさんはコーヒーカップを置くと、
「それから、咲子さんは西条と入籍しました。」
マコトさんの胸の中で、まったりしかけていた私は、
「はーーーー。今なんて!」
ゲンさんは、ニッコリと微笑み、
「咲子さんは西条の妻です。」
「はーーーー!なんで!どういうことですか!」
ゲンさんの発言に頭に血が上り、ドタバタ暴れ出しそうな私をさらにギュッと抱きしめ、それから私の頬を両手で挟み、
「祝は、すぐそんな顔をする。よかったじゃない。咲子さんが望んだことよ。」
なるほど、暴れるのが目に見えてたから、私を長々抱きしめてくれたってわけですか。
「、、、。なんでそうなるんですか!」
思いっきり挟まれてるタコ口で、思いっきりマコトさんに訴えると、
「祝さんは、まだまだ子供ですね〜。」
って、ゲンさんからひさしぶりの嫌味が、直球で飛んできた。
「籍が入れば、それだけ立場がしっかりとしたものになる。それは、咲子さんも、リコさんもです。」
私は、マコトさんの手を払いのけ、
「どうして立場が必要なんですか!あんなやつと縁を切った方が幸せです!誰がなんと言おうと、絶対そうに決まってる!あんな暴力ジジイ!今までの西条の酷い仕打ちに対しての賠償金も踏んだくってやったし!マコトさんだって、リコちゃんとは縁を切ってもらうって、そう言ってお金とってきたんじゃないですか!」
もう、悔しくて涙も鼻水も出たまま訴えた!
「あらあら、祝、ちょっと落ち着いて。」
マコトさんが、ティッシュの箱とゴミ箱を持ちながらため息混じりに私を見ている。
「お金はもらった。なんの不自由も無いくらいに。でもね、リコちゃんはどこにも存在しないの。」
「、、、存在しない?」
マコトさんの言っている意味がわからない。
「西条は、貴政のためだけにリコちゃんを産ませた。ただそれだけなの。だから、リコちゃんに戸籍がないのよ。」
「無い、、、。」
「リコちゃんは、無戸籍児。戸籍上存在しないから、学校に行っていなくても誰も気にしない。あの家に閉じ込められていても、救い出そうって気にかける人はいない。この国に存在しない人間だからね。」
「そんな、、、。」
「だから、貴政と兄弟であるのに、正式な骨髄移植ができなかったの。兄弟なら、リコちゃんが一歳にを過ぎればいつでも正式な移植ができた。」
「戸籍上、存在しないから、、、。」
「ええ。正式に移植はできなかった。」
「そんな酷い扱いをされていたのに、どうして入籍なんて、、あ。」
「そう。戸籍を作るためよ。戸籍を取得する為に咲子さんと西条が籍を入れて、西条に責任を取らせる。戸籍を取得する方法は他にもあるけど、西条に親としての責任を果たしてもらわないと。ほったらかしていた分ね。」
「、、、。だとしても、入籍するなんて、、、。一緒に暮らすんですか!あんなくそジジイと!」
ゲンさんは、大きなため息を吐くと、
「祝さんは本当にの〜んびりと平和に、幸せに生きてきたんですね。なんて羨ましい。」
ゲンさんの嫌味に、このクソカマキリ源次郎!って言い返したかったけど、自分が未熟でちっぽけな思考回路しか持ち合わせていないことは、Pに来てから嫌と言うほど思い知らされている。だから、反撃したい気持ちの言葉と表情をグッと押し殺した。そんな私をチラリと見て、
「なるほど。ちゃんと成長もしていらっしゃるようですな。」
そう言ってゲンさんは、ゆっくりと立ち上がるり、
「夫婦になったからと一緒に暮らす必要はありませんし、世間に公表する必要もありません。西条には、残りの人生を賭けて罪を償ったいただきます。色々な方法で、たっぷりと。死ぬまでずーっと。もちろん、その兄弟、親類縁者にもたっぷりと。何せ私は、優秀な弁護士ですので。」
カマキリみたいな容姿のゲンさんがそう言うと、背筋が凍るほどの迫力だ。怖かったけど、思わず拍手を送っちゃった。
なんでもカマキリにカマで刈り取っていきそうだなー。
私はまたもや、自分のへっぽこさを思い知らされたが、リコちゃんがものすごく力強い味方を得たことに安心もできた。
その後ゲンさんは、リコちゃん達との一連の手続きに合わせ、ちゃっかりと西条とも今後の全てについて弁護士契約を結び、法外な弁護士料を手にしたらしい。
次に姿を現した時、白い車体に鮮やかなレッド・コーブが美しい、シボレー・コルベット1957、芸術品のクラシックオープンカーに乗っていた。
助手席に乗るマコトさんの美しさが、またもや際立つ素敵な車。
私が似合う日は来るかな、、、。
来ないな。




