四十九 マコトさんからの宿題
リコちゃんとカレーを作る話を楽しくしていたが、さほど経たないうちにリコちゃんはスヤスヤと眠りについた。
マコトさんたちの話がどうなったのか、とっても気になったけど、この部屋にリコちゃんを残して、2階に降りる気がしない。もし目が覚めて私がいなかったら、約束を守ってくれなかったと、どんなにかがっかりするだろうと思うと、離れることはできない。だけど、これからの展開が検討つかなすぎて、寝ることもできなかった。
リコちゃんの寝顔を見てどれくらい時間が経っただろうか、クローゼットが少し動いたと思ったら、ヒョイと、マコトさんが顔をのぞかせ、手招きしている。
そっとベッドを抜け出すと、
「リコちゃんすぐに眠っちゃった見たいね。」
「えっ、あ、はい。毎日、ヘトヘトだったんでしょうね。えっと、何かわかりましたか?」
「うん、だいぶね。」
マコトさんは、駒井と春吉さんが調べてくれたことを教えてくれた。
リコちゃんが救急搬送されてきたのは、五年前。当時4歳になったばかりだった。リコちゃんは母親がまだICUに入院中に児相に一時預かりになっていたが、程なく西条が引き取りに来た。
弁護士同伴で引き取る際に、戸籍謄本を持参していて、親子であることが証明され、問題なくリコちゃんは引き渡されたそうだ。
その時の弁護士の話として、二人は実家に遊びに行く途中で、公園の崖を転落したとのことだった。
目撃者の「追われて逃げていた」といった証言は、弁護士同伴で来た会社の経営者の証言で「見間違いだったと」あっさりと否定された。なんていい加減なんだ。
母親は一般病室に移り、リコちゃんが西条に引き取られたことがわかると、姿を消してしまった。
その後、実家に連絡をとったが姿を現した形跡もなく、入院費の精算が終わっていたため、母親のその後の足取りを気にするものはいなかった。
リコちゃんは現在、9歳になったところ。小学校に通っているなら三年生だが、近隣の小学校に在籍している記録はない。おそらく、五年間、西条の家に監禁されている状態だと推察される。
一方、西条の息子、西条貴政は、西条が50歳で初めて授かった子供だ。
ワンマンで会社を大きくし、権力に固執していた西条は結婚をしていないが、自分の会社を弟の子供に渡したくないと、内縁関係のままの女性に子供を産ませた。
念願の男子を授かると、帝王学を教えるのに母親は不要だと、内縁の女性を追い出してしまった。クソ野郎だ!
だが、その息子はRHマイナスAB、2000人に一人しかいない血液型。その息子が17歳の時に再生不良性貧血を発症した。
元々、大切な跡取りの血液型が非常に珍しい事から、何かあった時のために兄弟がいた方がいいと考えていた西条は、RHマイナスのリコちゃんの母親小野咲子を内縁に迎え、凜子ちゃんを産ませていた。
そのリコちゃんが、4歳の時に貴政が病気を発症した。
血液型が同じRHマイナスAB型の貴政と凛子であったが、骨髄移植適合するための、白血球型、HLA型が一致するとは限らない。兄弟であれば一致する確率は4分の1。しかし母親が違う貴政と凛子の確率はもっと低い。
奇跡的に二人のHLA型は一致したが、骨髄移植の準備が進められている時、凛子は、自分の万が一の為だけに生まれてきたと知った貴政が移植を拒否。
凛子を咲子に託し、逃げるように言ったそうだ。そして、自分も父親と縁を切り家を出た。この逃げる途中で転落事故になったのだろう。
幸いにも貴政の病状は薬で落ち着いている。
しかし西条は現在も貴政に凛子から骨髄移植を受けさせようとしている。
今回も凜子を入院させ、移植の準備を初めていた。
凛子の骨髄を採取したと貴政に伝えれば、おとなしくやって来るだろうと謀ったが、その最中に再び凛子は逃げ出したのだった。
「は?そいつ本当に父親なんですか?ただの犯罪者ですよね!」
私の中に怒りと、リコちゃんを思う悲しみの感情が渦を巻いた。はらわたが煮えくりかえるってまさにこの事だ!
声が感情に比例して大きくなってしまったのだろう、それに怒りに震える私を落ち着かせようと、マコトさんが私を抱き寄せ、
「シー。そうだよね。こんな話聞いて、意識を正常には保てない。」
「、、、はい。」
マコトさんは、さらに私をギュッと抱きしめながら、
「祝、よく聞いて。私たちがすることはただ一つ。リコちゃんを安心して幸せに暮らせるところに戻してあげること。」
「、、、。わかってます。でも戻すって、、それってどうしたらいいんですか?あいつ、、西条から引き離して安心できたとしても、それだけじゃリコちゃん幸せになれないんじゃ、、、。」
「そうだね。それだけじゃ幸せになったって言わない。」
私は、マコトさんの腕の中から顔をあげ、
「じゃあ、どうしたら!」
マコトさんは微笑みながら、
「祝なら、どう?祝なら、どんな時が幸せ?」
「私なら、、、。」
「そう。あなたなら。リコちゃんだってきっと同じよ。」
「、、、どんな時が幸せ。」
「さあ、今日はもう休みなさい。リコちゃんが待てるわよ。」
マコトさんはそう言って、そっと私の背中を押し、部屋から出ていった。
私は、リコちゃんのスヤスヤと眠るその可愛い寝顔を見ながら、マコトさんから出された、
「幸せ、、、。」
その宿題を解こうと思いを巡らせた。




