四十八 シャンプー
リコちゃんに部屋を案内して、シャワーの事を伝えたけど、
「そうか。リコちゃん背中痛いよね。今日はシャワーやめとこう。その代わりに、洗濯のお部屋で髪の毛洗ってあげる。」
「洗濯のお部屋?」
「うん。洗濯機がある所に、美容室みたいに髪の毛洗える椅子と洗面台があるんだよ。リコちゃんの髪、洗わせて!」
「うん。」
階段を降りながら、
(しまった。リコちゃんに聞かれないよに3階に連れて行ったのに、もう降りてきちゃった。)
と、後悔したが、引き返すのもおかしいと思い、
「シャンプーして、気持ち良くなろうねー。」
ってマコトさん達に大きな声を出して、降りて行く事を伝えた。
2階に降りると、駒井が席を立ってどこかに出かける所だった。
「アレ?出かけるの?」
「うん。ちょっと訪ねたい人がいるから。」
「そう。」
「寂しがらないでハニー。帰ってくるからね。」
「はい、はい。いってらっしゃい。ダーリン。」
手を振ると、マコトさんが駒井と話しながら、ドアの外まで送っていった。その後ろ姿を見ながら、このやり取りが定番になるのだけは、勘弁してほしいと、でも私、本当にそう思ってる?
洗面台の所には何種類かのシャンプーが用意されていた。リコちゃんに
「どれ使う?香りが違うみたいよ。」
二人で、シャンプーに鼻をくっつけながら香りを嗅いだ。
「リコ、これがいい。お花だけどちょっとお菓子みたいな匂いがする。」
「本当だ。苺ミルクみたい。これにしよっか。じゃあ、洗うよ。」
美容室の椅子の操作が分からなかったから、まず、椅子だけを操作して、平にしてから、リコちゃんを抱いて椅子に座らせた。
「祝ちゃんもいい匂い。ママもいい匂いだったよ。」
私にぎゅっと抱きついてきたリコちゃんが、ふと漏らした言葉に、涙が出そうだ。
シャンプー台のリコちゃんは、とっても気持ちよさそう。私も美容師さんに頭洗ってもらえるの嬉しいから気持ちはとってもよくわかる。
(あ、そうだ、子供の頃、こっちのお母さんに髪を洗ってもらうのも大好きだったな。)
リコちゃんの髪を洗いながら、この家に湯船が無く、シャンプー台でがある理由がわかった気がした。
のんびり湯船に浸かれたら、心だって休めるだろうけど、ここに助けを求めて来たばかりの人達に、そんな余裕はまだ無いのかも。
傷ついた体は、痛くて湯船に浸かれないかも。傷ついた自分の体を見たく無いかも。
それに、誰かに髪を洗ってもらえる時間って自然と眠くなるくらい幸せ。
リコちゃんの幼い柔らかで細い髪をゆっくりと丁寧に洗った。お湯も丁寧に丁寧にかけて、シャンプーを流した。美容室のように顔にガーゼをかけるのを忘れちゃったけど、リコちゃんと目があったり、話をしながら時間を過ごせたから、良かった。
リコちゃんの髪をドライヤーで乾かしながら、ふと思い出し、
「リコちゃん、さっき言ってたショウコさんて、誰?」
リコちゃんは笑顔になって
「ショウコさんは、私のお世話もしてくれる人。いつもはお部屋で一人でいるだけど、ショウコさん内緒で、お菓子持ってきてくれたり、夜もそばにいてくれたりするの。」
「リコちゃんじゃない人のお世話もしてるの?」
「、、うん。」
西条家のお手伝いさんって事か。この人が証言してくれると、虐待の証明になるんだろうか。
マコトさんが、
「こっちのことは片付けておくから、二人ともゆっくりおやすみなさい。」
まるで、私とリコちゃんが一緒に寝ることをわかっているかのようだった。
リコちゃんの部屋の隣の納戸に簡易ベッドがあると言って、一緒に行ってセットしてくれた。
「ありがとうございます。えっと、、、。」
「夏乃さんも今夜はここに泊まってくれる。コマちゃんは明日の朝かな。」
「あ、はい。ではおやすみなさい。」
一人にすると怖がるかと思って、リコちゃんの部屋のシャワーブースを使った。
髪を乾かしている間もリコちゃんはウサギのぬいぐるみを相手に楽しそうに話をしていた。
「お待たせー。何お話ししてたの?」
「今日のカレー美味しかったよって、教えてあげてたの。」
「そっかー。リコちゃんが気に入ってくれて嬉しい。じゃあ、今度は一緒に作ろう。」
「ホント!良いの?一緒にお料理してみたい。」
「もちろん。」
「約束だよ。」
「うん。じゃあ。」
って小指を差し出したが、
「それ、嫌い。」
「えっ。どうして?」
「指切りしたのに、ママいなくなっちゃった、、、。」
「あ、、、。」
さっきまで、あんなに笑えるようになっていたのに。ウサギを抱きしめているリコちゃんを、抱きしめてあげることしかできなかった。




